東京アート アンティーク レポート #1

3人のアーティストが美術・工芸の継承と発展を語らう

Others | そのほか

去る4月24日(木)から26日(土)まで、薄曇りで晴れ間ものぞいた3日間、今年も「東京アート アンティーク〜日本・京橋 美術まつり」が開催されました。

 

日本最大の美術街は隣町の銀座が有名ですが、日本橋、京橋にも美術店がたくさんあります。なかでも古美術店がとても多く、日本最大級の古美術街と言われます。近年、再開発が進み、この界隈も高層ビルが増えてきましたが、東仲通り(骨董通り)を中心に、昔ながらの路地が多い街並みに古美術店や画廊、ギャラリーが軒を連ねています。

 

 

 

東京アートアンティーク(TAA)が始まったのは1998年(現在の名称になったのは2010年から)。年々参加店が増え、今年の参加美術店は86軒と1団体。毎年4月後半の木曜から土曜にかけて開催され、参加店それぞれがテーマを設けた企画展をしたりと力を入れた展示をしています。

 

実は、美術店さんはオークションや買取出張、客先へのお届けなどで不在も多く、アポなしで訪ねると閉まっていたなんてことがよくあります。そのため来店の際はお電話ください、という店がほとんど。そうでなくとも普段、美術店は入りづらい、敷居が高いと思われがちです。

そこで、気軽にお店を訪ねてほしいという思いから始まったのがこの美術まつり。期間中の3日間は参加店なら必ずオープンしていますから、好きな作品、お店に出会う絶好の機会です。

 

目の眼も昨年京橋に移転し、今年は応援参加させていただきましたので、今年のTAAを振り返って、レポートさせていただきます!

 

 

 

 

TAAスペシャルイベントに参加

 

#1では、「アーティストトーク」をご紹介します。

 

昨年秋にオープンしたTODA BUILDING(戸田建設本社ビル)内にあるTODA HALL&CONFERENCE Tokyo Roomにて、4月25日(金)に開催された「アーティストトーク—美術・工芸の継承と発展—」。

 

日本橋・京橋のギャラリーで個展を開催するなど、同地にご縁のある3名のアーティスト三宅一樹さん、青木岳文さん、西久松友花さんが出演しました。進行役の繭山龍泉堂の近藤雄紀さん、ROD GALLERYの藤田つぐみさんが質問しながら、それぞれの制作について、作品への思いなどが語られ、アーティストがどんな気持ちで美術を作り上げているのか、その一端を知ることができる興味深い内容のトークでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

三宅一樹さん 彫刻家

 

 

 

 

三宅一樹さんは彫刻家。十年前から壺中居で個展を開催しています。御縁を得て譲り受けた御神木を、その内在するかたちを見極めて、神性を彫り出す「神像彫刻」のシリーズがライフワーク。「御神木から神像の姿が見えたときは嬉しいですね」と三宅さん。『ロダンの言葉抄』を読んで彫刻家を目指し、その本を翻訳した高村光太郎に大きな影響を受けたそうです。光太郎が提唱した「彫刻十個条」は三宅さんの原点。見たままを彫るのではなく造形美を表現するのが彫刻だと気付き、試行錯誤を繰り返したお話は興味深いものでした。自書自刻の魯山人にならって、毎回個展の際には展覧会名の看板を篆刻するという三宅さん。古美術も大好きで、ご自身の作品が未来の古美術になることを意識して制作しているそうです。「古美術をみると本質が見えてきます。この先二千年遺っていくものを創りたいですね」。美術への熱い想いが伝わってきました。今秋、壺中居にて個展を開催予定とのことで、新作が楽しみです。

 

 

 

三宅一樹《Holy Cat – 聖唐櫃》
ヒマラヤ杉神木による一木彫 2021年
photo  by  Satoshi Nagare

 

 

 

 

青木岳文さん 陶芸家

 

 

 

 

 

青木岳文さんは、先にご紹介したmegumu artにて個展を開催された陶芸作家。白磁土を小さな粒状にしてつなぎ、帯状のパーツと組み合わせた軽やかで空気感のある作品を制作されています。

愛知県立芸術大学で陶芸家の川村秀樹氏に師事した青木さん。

シンプルで美しい造形を作り出す師の作品の他にプロダクトデザイナーの森正洋や小松誠、フィリップ・スタルクなど、機能にとどまらないフォルムの美しさや面白さ、素材や形の意外性にも影響を受けたそうです。制作工程が動画で流れ、重力に反するような危うさと繊細さは、構造的な境界線でせめぎ合いながら製作されたものだということも理解できました。

「白磁でありながらも、ふわっと浮くように軽くみえる、そんな白磁の美しさや繊細さを表現したいですね」と抱負を語られていました。

 

 

 

 

青木岳文《Vessel》2025年

 

 

 

 

西久松友花さん 陶芸家

 

 

 

 

 

西久松友花さんは造形的な作品を制作する陶芸作家。影響を受けた人物はアメリカの現代陶芸作家エイドリアン・サックスだそうです。「異素材を組み合わせているのが衝撃でした」と西久松さん。西久松さんは仏像やストゥーパといった宗教的な象徴をモチーフに、様々な要素を組合わせた作品で知られていますが、2024年からはテーマを変え、「Umwelt  環世界」と名付けたシリーズを制作しています。

TAA期間中にROD GALLERYで開催した展覧会名は「分解者」。西久松さんは生き物に興味があり、地球のミクロの世界で起こっている生物の分解の営みを命の循環と捉え、造形で表現したそうです。「ろくろで作ったものをジョイントさせ、何十種類も釉薬を掛けて、一つの作品にします。私の作品は陶芸のわくには入らないかもしれませんが、何を表現できるかをいつも考えています。そのために表現技術も重要なので基礎技術もがんばっていきたいです」と西久松さん。落ち着いた語り口ながら若々しい情熱を感じました。

 

 

 

西久松友花《分解者》2025年

photo by Takeru Koroda

 

最後に聴講者からの質問コーナーもあり、熱心な美術工芸ファンからの深い質問もあり、盛り上がりました。充実したトークに皆さん満足した様子でした。ぜひ来年も開催してほしいですね。

 

 

—————————

 

東京アートアンティーク2025は、東京の日本橋、京橋、銀座の美術店が参加する”美術まつり”。例年ゴールデンウィーク直前の3日間に開催され、2025年は86軒と1団体が参加し、4月24日〜26日に実施された。会期中は全ての参加店がオープンしているので、”アートめぐり”と”街あるき”を楽しめる格好の機会だ。

 

▷ 東京アートアンティーク2025 のウェブサイト https://www.tokyoartantiques.com/

 

▷ 関連レポート

#2 いざ美術店へ|美術と街を楽しむ 「美術解説するぞー」と行く! 鑑賞ツアー

 

#3 骨董のうつわで彩る”食”と”花”の空間コーディネート

 

#4 街がアート一色に|美術店めぐりで東京の街を楽しもう

 

 

RELATED ISSUE

関連書籍

目の眼2025年2・3月号No.579

織部のカタチ

アバンギャルドな粋

戦国時代に一世を風靡した織部焼。歴史上に生きた人物を後年に名に冠した珍しいやきものです。 大胆な造形と革新的なデザインは多くの人々を魅了し、日本人の美意識を中世から近世へとシフトアップさせました。それから400年、令和の時代となっても織部焼は高い人気を誇っています。今回は伝世の茶道具からうつわ、陶片にいたるまで、多彩な展開を見せた織部を現代に継承し、使いこなす愉しみを紹介します。

POPULAR ARTICLES

よく読まれている記事