東京アート アンティーク レポート#3 骨董のうつわで彩る”食”と”花” Others | そのほか 東京アートアンティーク2025(2025.4/24-4/26)の会期中には、空間コーディネーター佐藤由美子さんの和洋の食器を使ったコーディネートと、花人横川志歩さんによる骨董を使った「なげいれ」の花が、参加美術店で楽しめました。素敵な画像とともにレポートします。 目次 佐藤由美子の空間コーディネート前坂晴天堂孔雀画廊奈々八横川志歩の「なげいれ」の花古美術 京橋五月堂古美術 川崎つつみ美術風 招佐藤由美子の空間コーディネート 和と洋のうつわを組合せ、美しい空間を作り出す空間コーディネーターの佐藤由美子さんが、古美術奈々八、前坂晴天堂、孔雀画廊の3軒で、美術店の品物を使ってコーディネートをされました。 佐藤さんはお母様が佐賀出身。有田焼はもちろん、和のうつわや骨董、西洋アンティークがお好きで、子どもの頃から親しまれていたそうです。 佐藤さんのセンスが光る古今東西の陶磁器、ガラス器、銀器などにプランツや花を添えたコーディネートは人気を博し、デパートでの催事や雑誌などでのスタイリング、コーディネート教室まで、幅広く活躍されています。 「古から今、今から未来へと続くモノづくり、美しいものを、繋いでいきたいとの思いでコーディネートや器合わせをしています。そのものの美しさが引き立ち、輝くように、色は多用せず、3色以内でまとめるように心掛けています」とコメントをいただきました。 今回、美術店が持っているうつわを使ってコーディネートするというお題で、難しくなかったですか?と伺ったところ、「いえ全くそんなことはありません。とても楽しかったです。いつもどんな風に合わせるか、それを考えるのが好きなので。むしろ美術店さんがお持ちの素晴らしい作品でコーディネートさせていただけて、素晴らしい経験になりました」とお話してくれました。 前坂晴天堂 「濁手(にごしで)」と言われるやや黄味がかった温かみのある白い肌に朱赤と青、緑を使った花文のポットは江戸時代17世紀末に輸出磁器として作られた有田の柿右衛門。ポットが「ヨーロッパでも銀のトレイに載っていましたよ」と言っているような堂々した様子。古伊万里のカップ&ソーサーも“里帰り”。銀の松にジャポニスムを感じます。 右:柿右衛門色絵窓絵花文手付水注 左:古伊万里錦唐花文カップ&ソーサー 前坂晴天堂は佐藤由美子さんが主催する「器の会」にも協力されているそうです。「前坂さんに古陶磁について歴史や様式について学びながら、実際に本物を手にして、知ること、感じることを、皆様に繋いでいます。私自身、知る楽しさ、知ることからはじまる新しい世界にワクワクさせていただいています」と佐藤さん。 店内でもオールドバカラのデキャンタとグラス、古伊万里の染付唐草文の猪口や皿、藍柿衛門の獅子文皿などを合わせたテーブルコーディネートをされていました。染付の青と薄く繊細なバカラが涼しげで、これからの季節に真似したくなるコーディネートでした。 孔雀画廊 ルノアールの《薔薇のフラグメント》に合わせたグラスの赤が薔薇の赤と響き合っています。ガラスの赤の発色には金が使われています。ちなみに青はコバルト。どちらも高価な素材です。ルノワールにふさわしい豪奢なテーブルコーディネート。絵画をながめながら、アペリティフを愉しむイメージでスタイリングされたそうです。 ルノアール《薔薇のフラグメント》 ガラス器:右から、金彩ボヘミアンコンポート/ドーム・ナンシー 赤のベネチアグラス、コンポートの下の銀の皿はフランス、銀のトレイはイギリスのアンティークで、佐藤さんのコレクション。 奈々八 まるで水をたたえているように見えるカットガラスのトレイに朱の根来盃にのった筒形の猪口(暦手のぞき猪口)が浮かんでいます。銀のカエルたちはみんな緑の葉っぱを加えて池へと向かっています。赤は命(土)の意味でしょうか。エアープランツが森の中の一場面をイメージさせる素敵なコーディネートでした。 カットガラスのトレイ 根来盃 右:藤の図そば猪口 左:暦手のぞき猪口 銀のカエルはカードフォルダーで、カエルが大好きな佐藤さんのコレクションだそうです。 横川志歩の「なげいれ」の花 ⽬の眼でも登場していただいた花⼈の横川志歩さん。川瀬敏郎氏に師事し、イベントや古美術店、料理店などへの⽣け込みを担当するなど活躍されています。なげいれの教室を主宰し、展覧会も開催。ご⾃⾝も古美術愛好家で、⾻董の花器を⽤いたなげいれの花を楽しむことを伝える伝道師的存在です。 TAAでは、それぞれに趣の異なる古美術川﨑、古美術京橋、風招、つつみ美術、五月堂、5軒の展示を横川さんの花が彩りました。横川さんは花器にできる古美術のうつわはもちろん、仏教美術も大好き! 仏具として使われた華瓶はもちろん来世の救いをもとめて写経した経典を埋納した経筒、瓦なども、よく花器として使われます。 今、骨董の中でも花器として使えるものはたいへん人気があります。もともと花器でなかったものを工夫次第でお花に映えるうつわに見立てられるところが、骨董の面白いところ。そうしたセンスも横川さんの「なげいれ」花を見ると教えてもらえます。 各美術店が持っている古美術品を選んで生け込みをされた横川さん。うつわやお花はどんな風に選ばれたのでしょうか。 横川さんにコメントをいただくことができました。 ◆今回、TAAイベントで生け込みをされるにあたって、気をつけられた点を教えてください。 横川:各店舗に事前に打ち合わせで伺わせていただいた際に、花をいれるうつわはもちろん、空間、しつらいをよく拝見し、それらに適う花、それぞれを引き立て合う花を探すことに尽力しました。 例えば五月堂さんの場合はうつわは三筋壺、そして床の間の軸(田中親美氏の雲峰図)の世界観をこわさない様に、風に吹かれ軸の方へ流れる様な姿の女松、岩躑躅(ツツジ)、白山吹という、深山の静かな景色を思わせる取り合わせにしてみました。 ◆今回の生け込みで楽しかったことを教えてください。 横川:そもそも「大好きな骨董に美しく花をいれたい!」と思い、花を習い始めたので、TAAの様な素敵なイベントにお声掛けいただき、とても嬉しかったです。 5店舗それぞれに選んでくださったうつわにも個性があって、店主の皆さんから様々な話を聞きながら、どんな花をいれるか考える時間もとても楽しく、勉強になりました。 お客様と直接うつわや花の話ができたガイドツアーも良い経験に。骨董と花の魅力を伝えるべく、またいつか参加することができましたら幸いです。 古美術 京橋 経筒 射干(しゃが)、女松(めまつ) 古美術京橋は仏教美術好きで、金銅仏や仏画などの優品を扱っています。 TAAでは「日本の美」と題した展示をしていました。このほかにも能登半島の先端、珠洲で古代から中世にかけて焼かれた珠洲焼の壺や密教法具の護摩壇に置かれた亜字形華瓶に横川さんが花を生けられました。 五月堂 田中親美《霊峰図》 常滑三筋壺 女松、岩躑躅(ツツジ)、白山吹 五月堂は古筆を中心に扱う古美術商。 田中親美(1875〜1975)は日本画家ですが、絵巻、古筆の研究家として著名で、「源氏物語絵巻」や「平家納経」など平安の絵巻、古筆の見事な模刻を製作したことで知られています。こうした親美が自分の作品として描いた日本画はとても珍しいそうです。 古美術 川崎 時代竹花入 黒百合、躑躅(つつじ) 右:瘤付注口土器 縄文後期/壁:芹沢銈介 ガラス絵《インカ人形》1979年 古美術 川﨑は、縄文土器やコプト裂、仏教美術など、古いところが好きな古美術商。横川さんは10年来の親しい友人だそうです。 つつみ美術 古信楽 花入 木蓮(もくれん)、油瀝青(あぶらちゃん) 東洋陶磁が専門のつつみ美術。中国陶磁や李朝が店内を飾っています。 味よく枯れた小机はお店の備品。ビルの1階でも障子を入れ、古陶の雰囲気に合わせた店内にこだわりを感じます。 風 招 大平鉢 石楠花(しゃくなげ) 裏白の木(うらじろのき) 風招は古代の金石(青銅器や石製品、玉など)、仏教美術を中心に、陶磁器、近代作家の絵画なども扱っています。 中世のやきものは、よく壺・甕・擂鉢と言われます。食生活にかかせない器具として数多く作られ流通していたようです。 素朴な味わいのあるうつわが花の自然な美しさを表現しているように感じます。 TAA会期中は、佐藤さんのコーディネート、横川さんのお花を見たいとお店を訪ねた方も多くいらっしゃったようです。もちろん偶然巡り会って喜ばれた方もおられたことでしょう。お二人の先生によるガイドツアーも大好評だったそうです。 美術品、古美術骨董を使って、なんでもなかった部屋の一角をアートな空間にしたり、花を生けて飾ったりしてみようと思われる方が益々増えそうな素敵なスペシャルイベントでした。 ————————— *東京アートアンティーク2025は、東京の日本橋、京橋、銀座の美術店が参加する”美術まつり”。例年ゴールデンウィーク直前の3日間に開催され、2025年は86軒と1団体が参加し、4月24日〜26日に実施された。会期中は全ての参加店がオープンしているので、”アートめぐり”と”街あるき”を楽しめる格好の機会だ。 ▷ 東京アートアンティーク2025 のウェブサイト https://www.tokyoartantiques.com/ ▷ 関連レポート #1 3人のアーティストが美術・工芸の継承と発展を語らう #2 いざ美術店へ|美術と街を楽しむ 「美術解説するぞー」と行く! 鑑賞ツアー #4 街がアート一色に|美術店めぐりで東京の街を楽しもう RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年2・3月号No.579 織部のカタチ アバンギャルドな粋 戦国時代に一世を風靡した織部焼。歴史上に生きた人物を後年に名に冠した珍しいやきものです。 大胆な造形と革新的なデザインは多くの人々を魅了し、日本人の美意識を中世から近世へとシフトアップさせました。それから400年、令和の時代となっても織部焼は高い人気を誇っています。今回は伝世の茶道具からうつわ、陶片にいたるまで、多彩な展開を見せた織部を現代に継承し、使いこなす愉しみを紹介します。 試し読み 雑誌/書籍を購入する POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 美術史の大家、100歳を祝う 日本美術史家・村瀬実恵子氏日本美術研究の発展に尽くした60年 People & Collections | 人・コレクション 連載|真繕美 唐津茶碗編 日本一と評される美術古陶磁復元師の妙技1 Ceramics | やきもの 羽田美智子さんと巡る、京都の茶道具屋紹介 茶道具屋さんへ行こう Vassels | うつわ 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(2) Ceramics | やきもの トピックス|刀剣文化の応援はじまる 「刀剣乱舞」の生みの親 ニトロプラスが刀剣文化の調査・研究に助成 Armors & Swords | 武具・刀剣 加藤亮太郎さんと美濃を歩く 古窯をめぐり 古陶を見る Ceramics | やきもの 古信楽にいける 花あわせ 横川志歩 Vassels | うつわ 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの Book Review 会津に生きた陶芸家の作品世界 Others | そのほか 小さな煎茶会であそぶ 自分で愉しむために茶を淹れる History & Culture | 歴史・文化 煎茶と煎茶道 日本人を魅了した煎茶の風儀とは? History & Culture | 歴史・文化 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(1) Ceramics | やきもの