コラム
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ティファニーのランプ/市田ひろみ

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平成5年(1993年)にはじまった緑茶のCMは、季節ごとにストーリーを変えて話題となり、1994年にはCMそのものが好感度第一位となり、CMインデックスではタレントパワーの部門で、樹木希林に続いて好感度第6位。

 

そして、遂にハリウッド制作が決まった。㊙作戦でロスに出発する日の朝、私の相手役がメグ・ライアンであることがわかった。すごい。ハリウッド! メグ・ライアン!

 

ロスは、私の大好きな町のひとつで、何度か行っていた。
1989年9月、ビバリーヒルズ設立220年のイベントで、きものショーをした。瀬木博基総領事公邸で、現地のモデルを使って、日本の通過儀礼(お宮参り・七五三・成人式・結婚式など)を紹介した。まだまだきものが珍しい頃で、公邸の庭を埋めた大勢の人たちの拍手が嬉しかった。

 

2000年9月。いよいよ、CBSスタジオセンター第3ステージで、CMの撮影が始まった。なんといっても大スター。拳銃を持ったガードマンと何人かのチーム。本人はさっぱりした人で、夏篇で浴衣を着て、鏡を見せたら喜んでくれた。

 

撮影の最後の日。「花と風のたわむれ」と書いた書の額をプレゼントした。
花、フラワーでしょ、風、ウィンドでしょ、とカメラマンやプロデューサー達と説明。たわむれに該当する英語がない。でも感の良いメグは、「美しい」といって自分の車の座席に入れて持って帰った。

 

ハリウッドにいる間、私達は西ハリウッドのヴィンダム・ビレッジに宿泊していた。このホテルにアンティークショップがあり、私は好きで毎日ホテルに帰ってくるとイケメンのオーナーとおしゃべりをして、ガレの小さな花瓶などを買っていた。オーナーは、ティファニーのランプを勧めていたが、私は迷いながら惹かれていた。

 

でも、メグと仕事ができたなんて奇跡だ。誰もがのぞんでもこんな幸せはめったにできない。

 

日本に帰る前日、ランプを決めた。美しい彩りのランプシェード。スイッチを入れると色とりどりの花が咲く。こうして、百年を超すティファニーのランプは私の宝物になった。

 

 


 

 

ニューヨークのティファニーといえば、オードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食を」を思い出す。五番街の宝飾店は長い歴史を持つニューヨークの顔だ。以前は、インテリアデザインの作品も多く、このランプも百年余りの歴史を持つ逸品だ。スイッチをいれれば、悲しくなる程美しい。どこも欠けることなく、代々の持ち主がいかに大切にしてきたかがしのばれる。

 

 

市田ひろみ ◆ いちだ ひろみ 
服飾評論家。エッセイスト。大学講師、日本和装師会会長を務める他、市田美容室を経営。民族衣装のコレクターでもあり、世界各地を訪ねている。テレビCMの“お茶のおばさん”としても親しまれACC全日本CMフェスティバル大賞を受賞。

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