コラム
032

Rolls-Royce/涌井清春

ロールスロイスの光 ベントレーの風に魅せられて
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 ロールス・ロイスやベントレーというと漠然としたイメージしかなかったが、私のところで埃をかぶった古い車を見、革シートの匂いを嗅ぎ、またレストアした美しい車を見て、作りの良さや雰囲気を実感して俄然所有してみる気になったという方は少なくありません。商売をはじめて数年したとき英国のロールス・ロイスを扱う老舗でベテランのマネージャーが言っていました。

 

 「我々は不必要な物を売っている。だから積極的にお客にたくさんは話しかけしない。お客は買いたい車を自分で見つけるから」

 

 私もそれにならっています。車の状態はそれぞれだし、乗るまでには整備や直すところもある。それは新車選びとはまた違った、温かみや心意気みたいなものがある、というかむしろそれがなくては買えない。ここで寝ているこの車を綺麗にして、ひとつウチで可愛がってあげようか、という古美術にほれ込むような、愛情に近い気持ちだと思います。そんなお客様に出会うことは、今では車を見ることよりも私の楽しみになっています。
 自分で自分にあった車を見つける、というのは古美術めぐりの果てに自分のために存在していたように思える物に出会うのに似ていると思います。たとえそれが数年しか持たない恋で終わったとしても、所有していた間は楽しい思い出を残してくれるでしょう。古いロールス・ロイスやベントレーに乗ることはそんな恋の時間やペットと過ごした時間に似ています。

 

 私がロールス・ロイスで最初に感動したのは、巨人軍の王選手が乗っていたのを近所の御徒町で見た時です。車は当時の現行車シルバー・シャドウでした。この世界に入り浸った最近は皮肉にもどんな車を見ても感動まではしませんが、シルバー・シャドウを運転する王選手はまさに神々しく、ロールス・ロイスの美しさに魅了されました。

 

 店を始める前からもその後も、クラシック・カーの洋書を眺めては、どのロールス・ロイスが一番いいか、夢想していました。考えを整理してスタイルと時代を絞っていくと、私を惹きつけたのがシルバー・レイスというリムジン用のシャシーに2ドアのドロップヘド・クーペを乗せた優美な車でした。世界でただ一台製造された車。ボディはFreestone & Webb製作、シャシー番号はWFC69と私の頭にしっかり刻まれました。その車がなんと提携話を持ちかけに行った英国の老舗の整備場にあったとき、これはWFC69だ!と言って感心されましたが、数年経って、あのオーナーが売ってもよいと言っている、と連絡があったときはお金もないのに買うと決めていました。思い続ければ夢は叶うと学んだ瞬間でした――。

 

 その車と恋の時間を過ごしたあと、ぜひ欲しいという人の手を経て、今再び私のミュージアムに展示することになりました。私の人生を支えた恩人のような、恋人のようなもの。それが車なのかと笑われるのは承知の上ですが、自分で見つけた人生で、私はそれが好きなのです。

涌井清春 ◆ わくい きよはる 
1946年生まれ。時計販売会社役員を経て、古いロールス・ロイスとベントレーの輸入販売を主とする「くるま道楽」を開く。海外からのマニアも来訪するショールームを埼玉県加須市に置き、2007年からは動態保存の希少車を展示した私設のワクイ・ミュージアムを開設。

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