夏休みにおすすめ! 古代ガラスの展覧会

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円形切子装飾碗
イラン サーサーン朝ペルシア 5〜7世紀
高9.0㎝ 口径10.6㎝
平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

古代オリエント博物館で開催中

特別展「THE ANCIENT GLASS 古代ガラスの3つの軌跡」

 

夏の強い陽ざしの中、透明なガラスのきらめきは、涼やかさを感じさせてくれますね。古美術、骨董、アンティークでもガラスの器は人気アイテムのひとつです。

 

東京・池袋の古代オリエント博物館で開催中の特別展「THE ANCIENT GLASS 古代ガラスの3つの軌跡」では、貴重な古代ガラスが約200点も展示されています。

古代のガラスは、どんな色、かたちをしていて、どんな風に使われていたのでしょうか。見どころの展示作品をご紹介します。

 

 

 

ガラスの誕生 —西アジア

 

ガラスが人々によって作られるようになったのは、はるか昔、約4000年も前にさかのぼります。その頃のガラスはまだ今のような透明ではありませんでした。

 

ガラスが誕生したのは、西アジア。今のイラクやイランがある地域です。紀元前2000年頃、そこでは世界で初めて都市が誕生し、メソポタミア文明が栄えていました。

 

古代ガラスの原料は砂(石英)、植物の灰、石灰石といった人々の身近にあるものでした。ただしガラスにするためには1200度以上もの高温で溶かさなくてはいけません。

およそ8000年前から土器を焼くようになった西アジアの人々は、さらに高温を維持できる窯を築き、青銅器や鉄器を生み出しました。その技術があったからこそ、ガラスを生産できたのです。

 

初期のガラスは溶かした原料を鋳型に流し込んで、作られていました。首飾りに使われる小さなビーズなどが作られていたようですが、実はガラスといってもまだ不透明なものでした。

青い色に発色させたビーズのネックレスが、地中海沿岸の古代エジプト、メソポタミア、ギリシアなどで発見されていますが、酸化銅やコバルトなどの金属を発色剤として混ぜて、青色を出していました。他にも赤や黄、白、黒などさまざまな色のガラスが作られています。

 

 

青色脈状文方形ビーズの首飾り

 

青色脈状文方形ビーズの首飾り

北メソポタミア 前16〜前13世紀 長57.0㎝

平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

 

 

青色花文鋳造ビーズの首飾り(部分)

 

青色花文鋳造ビーズの首飾り(部分)

ギリシア ミケーネ文明 前14〜前13世紀 長55.0㎝

平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

 

 

知っているとより楽しい古代ガラスのいろいろ

 

1,コアガラス

 

紀元前16世紀ごろにはじまった新しいガラスの製法が、コアガラスです。まず耐火粘土などで器のかたちをつくります。これをコア(芯)といいます。そのまわりに熱して柔らかくなったガラス棒を巻き付けて、冷えて固まったら中のコアを掻き出します。

 

西アジアやエジプトでこの技法で作られた小さな瓶などが数多く出土しています。把手を付けたり、異なるガラス棒を交互に巻き付けて表面に模様を作ったりと、手間のかかる装飾的なものが作られています。

 

こうしたコアガラスの瓶は、古代の王侯貴族が香油や化粧用の墨などを入れていたと考えられています。

 

 

ジグザグ文両手付尖底香油瓶

 

右:ジグザグ文両手付尖底香油瓶 高7.5㎝ 胴径5.0㎝

左:ジグザグ文把手付香油瓶 高8.5㎝ 胴径4.5㎝

東地中海地域 前6〜前4世紀 個人蔵

 

 

 

連弧文脚付坏

 

連弧文脚付坏 エジプト

新王国時代 前14世紀後半 高7.7㎝ 口径5.4㎝ 底径3.0㎝

MIHO MUSEUM蔵

 

 

2,リブガラス

 

リブガラスとは表面に凹凸の筋文様が入った器のことで、円盤状のガラスを作り、まだ柔らかいうちにリブ型を押しつけて表面に装飾をつけ、器の原型にのせて加熱し、器のかたちに垂れて変形させたもの(熱垂下法)だそうです。

この頃には透明度も増して、美しいガラス食器が王侯貴族の食卓を爽やかに彩っていたことが想像できますね。まだ無色透明なガラスは珍しく、とても高価だったようです。

 

 

青色リブ装飾碗

 

青色リブ装飾碗 東地中海地域

ヘレニズム〜帝政ローマ初期 前1〜後1世紀 高4.3cm、径16.5cm

平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

 

3,切子装飾碗(カットガラス)

 

ガラスの表面をカットして装飾した器です。展示では1世紀頃の帝政ローマ時代の切子装飾杯やエジプトの装飾瓶といったとても珍しい逸品が展示されています。

 

さらに、正倉院にも伝わっていることで知られるサーサーン朝ペルシア(5〜7世紀)で作られた切子装飾碗も多数展示されています。これほどの切子装飾碗を一堂に観られる機会はなかなかないとのこと。見逃せません。

 

切子装飾瓶

 

切子装飾瓶

エジプト 1世紀 高10.7㎝ 胴径7.8㎝

MIHO MUSEUM蔵

 

 

 

サーサーン朝ペルシアの切子装飾碗

 

一堂に展示されたサーサーン朝ペルシアの切子装飾碗

 

 

 

4,トンボ玉とモザイクガラス

 

さまざまな模様が入ったガラス玉や板をモザイクビーズ、モザイク板といいます。日本ではこうしたモザイクガラスで作られたビーズをトンボ玉と呼んでいます。丸い模様がトンボの眼のように見えることからと名付けられたと言われているようです。

モザイクガラスの歴史は古く、紀元前16世紀頃のメソポタミアから始まり、エジプト、地中海沿岸から中国まで、世界中に広がり、作られ続けました。

 

 

青色同心円文ビーズの首飾り

 

青色同心円文ビーズの首飾り

東地中海地域 フェニキア 前6〜前3世紀 長48.0㎝

個人蔵

 

 

人面と鳥のモザイク板

人面と鳥のモザイク板 エジプト

帝政ローマ 前1〜後1世紀 (6個)縦0.5〜1.0㎝ 横0.5〜1.2㎝

個人蔵

 

 

モザイクビーズの首飾り(部分)

さまざまな時代のモザイクビーズの首飾り(部分) ※右端はゴールドバンドモザイクビーズ

東地中海地域 帝政ローマ 前1〜後1世紀 長38.0㎝

個人蔵

 

 

 

5,ミルフィオリ

 

イタリア語で「千の花」を意味するミルフィオリ(千花文)の坏は、紀元前1世紀から1世紀ごろに作られました。ガラス棒を組み合わせたモザイクガラスを金太郎飴のように引き延ばしてカットし、それを型に並べて溶かし、器のかたちにしたと考えられています。

現代でも作るのは難しいそうで、古代ガラスの高い技術をしのばせてくれます。光に透かすとことさら美しいので、もし機会があったら試してみてください。

 

 

ミルフィオリ(千花文)皿

 

ミルフィオリ(千花文)皿 東地中海地域

帝政ローマ初期 前1〜後1世紀 高2.1㎝ 口径15.6㎝

平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

 

 

6,ゴールドサンドウィッチとゴールドバンド

 

透明なガラス2枚に金箔をはさみ、金色を見せる技術をゴールドサンドウィッチといいます。さらにゴールドバンドは、そのゴールドサンドウィッチを他の色ガラスと組み合わせて溶かし成形しています。非常に高度な技法ですが、その製造法は12世紀頃で途絶えてしまったようで、不明な点が多いそうです。

 

 

ゴールドバンド装飾瓶

 

ゴールドバンド装飾瓶 イタリア

帝政ローマ初期 前1〜後1世紀 高7.3㎝ 胴径4.3㎝

平山郁夫シルクロード美術館蔵

 

 

 

7,吹きガラス(ローマングラス)

 

現在はよく知られている長い鉄パイプで息を吹き込んで成形する吹きガラスは、紀元前1世紀頃に発明されました。その発明はおそらくシリア、パレスティナあたりと考えられていますが、詳しいことはわかっていません。

 

吹きガラスには大きく2種類あります。型の中でガラスを吹いて成形する型吹きガラスと、パイプの先端のガラスの固まりに息を吹き込んで成形する宙吹きガラスです。

吹きガラスでは大きな器もできるようになり、飴細工のように細い紐状にしたガラスを巻き付けたり、色ガラスを並べた板を作り、それを吹くことでマーブル文にしたり、さまざまに装飾されたガラスの器が作られています。

 

 

十字架文巡礼型吹き瓶

 

十字架文巡礼型吹き瓶 イェルサレム

帝政ローマ後期〜ビザンツ帝国 4〜5世紀 高10.4㎝ 胴径4.0㎝

個人蔵

 

 

 

青色マーブル文長頸瓶

 

右 :青色マーブル文長頸瓶 東地中海地域 1世紀

   高8.6㎝ 胴径6.0㎝ 古代オリエント博物館蔵

中央:銀化マーブル文長頸瓶 東地中海地域 1〜2世紀

   高11.5㎝ 胴径5.3㎝ 個人蔵

左 :紺色マーブル文長頸瓶 東地中海地域 1〜2世紀

   高13.9㎝ 胴径4.5㎝ 個人蔵

 

 

 

紐巻装飾坏

 

紐巻装飾坏 東地中海地域

帝政ローマ後期 4〜5世紀 高9.5㎝

古代オリエント博物館蔵

 

 

そして、この発明によってガラスの器は大量生産が可能になり、ローマ帝国では庶民にも手が届くほど安価になりました。そのためローマングラスとも呼ばれます。ローマングラスは遠く東アジアにも伝わり、日本の古墳からも発見されています。

 

 

 

8,ガラスの銀化

 

銀化とは、ガラスが地中に埋まっている間に化学反応を起こし、薄い膜のようなもので覆われ、それが銀色や虹色に光ってみえることです。ときには金色に輝いているものもあり、それは金化といいます。

ちなみに、ローマングラスはよく銀化したものがあり、銀化したガラス片も人気があります。触ると銀化の膜が取れたり、油分で光らなくなるので、あまり触らないようにしましょう。

 

 

銀化注口把手付瓶

 

銀化注口把手付瓶 イラン(デーラマン) 4世紀

高11.0㎝ 胴径5.0㎝ 個人蔵

 

 

 

東西の古代ガラスが約200点!

 

世界中の人々を魅了し、現代の生活になくてはならないアイテムとなったガラス。本展では約200点もの古代ガラスが展示され、その美しさと長い歴史を知ることができます。個人蔵の作品も多いので、拝見できる貴重な機会です。ぜひ足を運んでみてください。

 

 

さまざまな宙吹き瓶(ローマングラス)

 

さまざまな宙吹き瓶(ローマングラス)

 

画像はすべてプレス内覧会で撮影しました。

参考文献:展覧会図録『THE ANCIENT GLASS 古代ガラスの3つの軌跡』

 

 


【夏の特別展】THE ANCIENT GLASS ―古代ガラスの3つの軌跡―

期間:開催中〜9月7日(日)

会場:古代オリエント博物館

住 所:東京都豊島区池袋3-1-4 池袋サンシャインシティ文化会館ビル7F 

開館時間:10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)※8/22は20時まで開館

会期中無休

入館料:一般 1200円、大高生 600円、中小生300円

Webサイト:https://aom-tokyo.com/exhibition/250712glass.html

 

オリ博講演会「古代ガラスーそれは宝石だった」

日 時:2025年8月30日(土) 13:30〜15:00

会 場:池袋サンシャインシティ内会議室

参加費:500円(友の会会員)1000円(一般)※一般の方は当日に限り入館料半額。

講 師:東 容子 先生(MIHO MUSEUM)

事前申込制 ※申込方法は古代オリエント博物館Webサイトへ

 

 

Information

THE ANCIENT GLASS~古代ガラスの3つの軌跡~&古代オリエントを楽しむ!子どもミュージアム

7/12~9/7

会場

古代オリエント博物館

会期

7/12~9/7

住所

東京都豊島区東池袋3-1-4 サンシャインシティ文化会館7階

URL

TEL

03-3989-3491

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古代エジプトといえば、ピラミッド、ミイラ、ツタンカーメン。日本でも古代エジプト文明に興味のある方は多いでしょう。そんな古代エジプト美術が、古美術の世界では手にとって愛玩できることをご存知でしょうか。日本で初めて古代エジプト美術をコレクションした洋画家 児島虎次郎や古代オリエント美術のレジェンド古美術商 石黒孝次郎の足跡をはじめ、美術館、個人蔵の逸品など、日本人が愛した古代エジプト美術をめぐります。 さらに、全国を巡回中の2展「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展」、オランダの「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展」の会場を取材。それぞれの監修者の方にお話を伺いました。

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