「アートを買うのって、理屈じゃないんですよ。目の前の作品に感動したら買う。単純なんです。」と前澤友作さんは語る。
前澤さんはいま、世界から最も注目されている日本人の一人。
高校時代にバンドを結成しその後にメジャーデビューを果たす一方、輸入CD・レコードの通販から始めたビジネスを拡大し、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を成功させて一躍、世界の富豪番付に躍り出た。
これだけでも充分マンガや映画の題材となるだろうが、コレクターとしても、前澤さんの名は世界に鳴り響いている。
本誌読者なら2016年、2017と2年連続で、ジャン=ミシェル・バスキアの作品を作家の過去最高落札額で落札したニュースを耳にしたことだろう。
その他にもアンディ・ウォーホルやドナルド・ジャッドなど現代のファインアートを中心にコレクションは多数。
また家具やワイン、スーパーカーのコレクションも相当なもので、その一部は自宅や会社に飾って楽しんでいる。
2012年には現代アートの普及およびアーティストの活動支援を目的とした公益財団法人「現代芸術振興財団」を設立し、その会長も務めている。
その前澤さんが日本の古美術を買い始めたという話は数年前から聞き及んでいたのだが、今回取材を申し込んだところ、なんと本誌を愛読してくださってるとのことで、このたび購入したばかりの重要文化財「烏鷺図屏風」(旧川村コレクション)を500号記念として『目の眼』誌上で初公開させていただけることとなった。
その撮影後、ご自宅にうかがってお話をうかがった。
「この家は賃貸なのでとことんまで飾れないのですが……」と案内されると、絵画や彫刻やオブジェが壁面、床、階段のスペースを埋めていた。
そのなかに織部や乾山のうつわ、李朝の白磁壺、仏像などが見え隠れしている。
時代も地域もそれぞれ違う上に、どれもパワーに溢れた作品ばかりだが、部屋は不思議な調和を保っている。
「初めて買ったペインティングはリキテンシュタインでした。買ったときより、部屋に飾ったときに感動しましたね。美術館で見てた作品が自分の部屋にあるということにゾクゾクしました(笑)。それから十数年経ちますが、どんどんモノは増えてく一方です」と笑う。
アートの飾りつけはすべて自分で指示するそうで、今回の取材のために二日半もかけて模様替えをしてくださったという。
「僕は何もない空間というのが苦手で、白い壁をみると落ち着かないんです。もともと古い家具が好きだったこともありますが、絵画も彫刻も、僕にとっては調度品のように取り合わせたくなるんです。だからこうやってアートに囲まれているほうが、ホッとくつろげるんですよ」
古美術を買うようになったきっかけをうかがうと、ユニークな答えが返ってきた。 「いま千葉に自宅を建築中なのですが、その地下に本格的な鮨カウンターを作ってるんです。そこで使ううつわは最高のものを揃えたいと考えているうちに古美術・骨董のうつわへ行き着いたんですよ。なかでも魯山人はとことん使い倒してみたくなるうつわですね。あと僕はグリーンが好きで、現代アートや調度品でも緑色のものをつい集めてしまうのですが、織部や乾山は最高のグリーンだと思います。そうそう、初めて買った古美術は織部の手鉢です。京都の柳孝さんで初めて見せてもらったとき"古美術すげえ!"って感動しました。その後、値段を聞いて"金額もすげえ!"って驚きましたけど(笑)。でも、それまで安土桃山時代なんてまったく興味なかったのに、織部のことが知りたくて急に勉強しはじめました」
理屈で買うのではなく、買って、惚れ込んだ結果、勉強するようになる、というのは骨董買いの本道だろう。
「織部の造形や文様って、一見いたずら描きのようなプリミティブな要素があって現代アートみたいでしょう。ミロやカンディンスキー、リキテンシュタインにも通じる世界。現代アートでも織部に影響を受けている作家がいるんじゃないかって感じたし、見る世界が広がりましたね」
古美術を知れば知るほど、興味の対象も広がっている。
「食のうつわから茶碗、酒器、花器、根来のようなお盆ときて、仏像も最近気になっています。ハマっちゃいそうな予感があります(笑)。だってジャコメッティの十分の一の額で、素晴らしい仏像が買えるんですよ。日本の古美術はもっと評価されてもいいと思いますね。もちろん現代アートも買い続けています。古い・新しいは関係ないですね。子供の頃からメカニックなものが好きで、ロケット開発にも興味ありますし、うちの会社でも、着ただけで体型データが測れる『ZOZOSUIT』というものを作りました。そうした、モノづくりに込められた技術とセンスに感応しているのかもしれません。僕自身も陶芸や、お茶事にもチャレンジしてみたいと思ってます」
そして現在建設中の自宅近くに、美術館をつくる構想もあるという。
「美術館といっても体系的なものではなく、僕の趣味のコレクションを紹介するものです。でも地元の千葉をはじめ皆とアートの愉しみをシェアできたらうれしいですね」
古美術骨董の月刊誌『目の眼』5月号より
株式会社 スタートトゥデイ代表取締役社長
公益財団法人現代芸術振興財団会長
前澤友作は、1975年千葉県生まれ。早稲田実業学校卒業後、バンド活動の一環で渡米。
帰国後、1998年に輸入CD・レコードのカタログ販売を手がける有限会社スタート・トゥデイを立ち上げ、2004年、ファッションを中心としたインターネットショッピングサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を開設。2012年、2月に東証一部上場(3092)。
同年11月に現代芸術振興財団を設立、現代芸術を中心としたアートコレクターであるとともに、若手アーティストの支援に力を注いでいます。
Photographer: 写真1、2/ YASUNARI KIKUMA 、コレクション写真/ KAORU YAMADA