濃茶
御所丸の飲み心地
「井筒の間」に改めて席入し、いよいよお茶をいただきます。亭主の潤治さんは、さすが慣れた手付きでお点前を進めていきます。濃茶を練り始めるとお部屋中にお茶の香りが充満してきました。「うわあ、いい香り」と思わず口に出そうになるのをぐっとガマン。ついに練りあがった濃茶が運ばれてきました。と、ここでまた戸惑う私に、まわりのみなさまからサポートが入り、なんとか茶碗を持つところまで導いてもらいました。
改めて茶碗に一礼して、そっと口をつけます。濃厚で爽やかな香りが口いっぱいに広がり、最後に甘みと苦みが少し残ります。おいしい。「顔の小さい剛力さんが持つと、茶碗がよけい大きく見えますね」という潤治さんの一言でみなさんクスクス。「たしかに大きな茶碗です。御所丸といえば湯木美術館所蔵の「由貴」が名品として知られますが、この御所丸も伝来こそありませんが、その次に位置するくらい良い茶碗です。こちらは由貴と違って茶を入れると白い肌にほのかな赤味が差してくるのと、腰にある猫掻きのような痕が魅力ですね」と貴士さん。口当たりがとても柔らかく、名品というのはお茶を美味しく飲ませてくれるのだなと感じました。
↑御所丸茶碗 大正名器鑑所載
薄茶
「赤い」織部茶碗
御所丸茶碗をめぐってしばしの歓談の後、薄茶となりました。本来は一度茶室を出て、しつらいを改めるのですが、今回は略式でお道具だけ少し変えてそのまま薄茶をいただく「続き薄」で行います。
亭主の潤治さんから新しく勧められたお菓子がおいしくて、濃茶の後にピッタリ。次はどんなお茶碗が登場するかワクワクしながら待ちます。
「お薄は織部の茶碗で飲んでいただこうと思います。白土と赤土を使い、白土には緑釉を、赤土には白泥で文様を描いて焼いたものを鳴海織部と呼びます。なかでも出来、文様と緑釉の発色ともにこれ以上のものはない、と昔から評価されてきたのがこの茶碗です。片輪車と、背面の□と○の文様もおもしろいですね」と貴士さん。
↑織部片輪車文茶碗 銘 山路 神戸家〜九鬼家伝来
私はもう見蕩れるばかり。茶碗というよりアートそのものでお茶を飲むような感じです。でも手に持つとしっくりと馴染みます。飲み口も、まさにここから飲むしかない、という絶妙の位置にあり、そうした機能的にも優れている点が優れたお茶道具というものなのでしょう。初めてのお茶会がここまで楽しくて、贅沢でいいのかしらと夢のようでした。
道具拝見
茶席を彩ったお道具たち
ここからは改めて今回使われたお道具を拝見しながらご紹介していきましょう。
↑彫三島茶碗 銘 寒菊
↑乾山松伽藍香合
薄茶には正客に出す茶碗のほかに替え茶碗がいくつか登場します。寒菊という銘の彫三島茶碗がその1つ。三島にはこうした象嵌の強いものと、柔らかくて赤味のあるものの、2つのタイプがありますが、こちらは前者の代表格。見込を見ると口縁部の檜垣文は二重、中心部の花文は三重に区分けされ圏線も力強く彫られています。湯木美術館にも「外花」という銘の彫三島がありますがそうした文様構成の珍しいものが当時の茶人に喜ばれたそうです。
↑藤重黒中次 平瀬家伝来
↑春正蒔絵住吉図棗
茶入は藤重という塗師による真塗の中次です。まさにシンプルかつモダンで、どのような茶席にも合いますが、今回は御所丸という白い茶碗にも合い、続き薄という少しカジュアルなスタイルでしたので、これを選ばれたそうです。
一方、薄茶では逆に華やかな春正蒔絵の棗を用いました。春正蒔絵は江戸前期の京都の蒔絵師山本春正が創始したもので、本品は蒔絵がこんもりと高く盛られ立体感があります。
↑利休茶杓 江岑宗左・隋流斎・啐啄斎箱 利休直筆の消息が付く
↑古芦屋梅松文釜
釜は室町時代に芦屋で作られたもので、梅と松が描かれています。通常の釜はマットな肌なのですが、本作は鯰肌といってヌメッとした光沢が特徴で、茶席でも鈍く光って存在感があります。また色合いも類品より一段濃く、格が高いそうです。
↑古芦屋梅松文釜
水指は古備前のなかでも最大の産地である伊部で焼かれたもの。表面に塗土を施して黒褐色に仕上げています。通常より肌が美しく薄手のものが多いため、優品を輩出した窯として知られ、ときに区別されて「伊部焼」とも呼ばれます。本作は耳付で灰が片身替わりのように掛かったところが見どころですが、今回は御所丸を引き立てるためシンプルで力強いものを選んだそうです。
お茶会を終えて
初めてのことで緊張しながらも、大好きな、しかも初めて誂えた自分のお着物で、お茶会を体験させていただくことができて幸せでした。
そして、お茶会という初めての空間で見る骨董はやはり凛としていて美しくて……。眼で楽しむということに重きを置く感覚の中で、お食事やお茶を味わわせていただく時間は大人だなぁと思いながらも(笑)、楽しくてまた体験したくなる時間でした。
いつか、私が亭主になって、友達やお世話になっている方をご招待(そんなちゃんとできるのか!? 笑)して、気軽なお茶会ができるくらいにはお作法や用語を身につけたいと思いました。(うつわたちは、お借りしますが……笑)
『目の眼』で学ばせてもらったことを完璧に自分の中に落とし込みたいです。
本当に貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。
剛力彩芽
𠮷兆高麗橋本店
所在地:大阪市中央区高麗橋2丁目6−7
営業時間:11時30分〜14時 17時〜21時(要確認)
定休日:土曜、日曜日
アクセス:地下鉄御堂筋線「淀屋橋駅」下車、徒歩5分
電話:06-6231-1937
HP:https://koraibashi-kitcho.com