Book Review 会津に生きた陶芸家の作品世界 RECOMMEND 「孤高の陶芸家・一重孔希作品集」森孝一・著 孔希会・刊 2500円+税 年末、美術評論家の森孝一さんから新刊が届いた。 縁あってここ数年、福島の陶芸家・一重孔希(いちじゅうこうき)の仕事をまとめる手伝いをしていると聞いていた。一重氏は福島県喜多方市生まれ。1967年に同郷の陶芸家・瀧田項一氏に師事し、作陶家を志す。 瀧田項一といえば、東京美術学校で富本憲吉に学び、益子の濱田庄司に師事した民藝の継承者の一人。福島県会津本郷の磁土を使い、その清らかな白磁が代表作として知られている。一重氏もその系譜を受け継ぐ民藝作家として活躍するが、2021年に惜しまれつつ亡くなった。また師の瀧田項一氏もその翌年に逝去され、福島では2人の業績を振り返る展覧会も開催された。 一重氏は地元で熱心なファン、支援者に囲まれ、支えられていて、「東北学」で知られる民俗学者・赤坂憲雄氏や、写真家・藤森武氏もその名を連ねている。森さんは藤森氏からの紹介で一重氏の仕事を知り、このたび作品集をまとめることとなったという。 「一重の器作品を分類すると、西洋風のもの、民藝風のもん、中国風のもの、朝鮮風のもの、そして茶陶などが挙げられる」と森さんの解説にある通り、ページをめくってみると、図版の冒頭には白磁や青磁などの代表作が並んでいる。師・滝田項一の作風を継承するかのような清らかな白磁と、その滑らかな器面を鋭く削ぎ落としたような面取や鎬が印象的で、作者の丹念な仕事ぶりがうかがえる。 ただ森さんは「一重の個性が最も表現されているのは、器よりも、むしろ塑像ではないだろうか」と語り、磁器の器以外の塑像・陶仏・狛犬・羅漢などの作品群も多くのページを割いている。たしかに抑制のきいたうつわと違い、これらの作品は生き生きと感情豊かに表現されたものばかり。さらに近年発見された見る者の心を解きほぐすような魅力がある。雄国山麓にある陶房の敷地内にはこうした塑像や狛犬がいたるところに置かれていて、来客を楽しませていたという。とくに図版の最後に紹介された絵画作品は一層躍動的であり、単にカワイイというだけでなく、ときにおどろおどろしいまでの力強い表現には「画家の影響も考えられる」と推測しつつ「〜表面的な美ではない『内面の美』が感じられる」と結ぶ。 本書も一重氏を支えてきた孔希会による刊行で、作家とその作品がいまも多くの人々から愛されていることが伝わってくるう一冊だ。 なお、本書の刊行記念して、金沢の「アート玄羅」にて「一重孔希 北方浄土」と題された作品展が開催される。 お近くの方は会場で作品にふれていただきたい。 作品展「一重孔希 北方浄土」 会期:1月10日(金)〜2月16(日) 時間:13時〜17時30分 休廊:月火水 会場:アート玄羅 石川県金沢市本町2丁目15-1 ポルテ金沢3F[金沢駅前] http://genraart.com/ Information 作品展「一重孔希 北方浄土」 会期 2025.1月10日(金)〜2月16(日) 会場 20250804 住所 石川県金沢市本町2丁目15-1 ポルテ金沢3F[金沢駅前] URL http://genraart.com/ TEL TEL/FAX.076-255-0988 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年8・9月号No.582 古美術をまもる、愛でる 日本の古美術には、その品物にふさわしい箱や仕覆などを作る文化があります。 近年では、そうした日本の伝統が海外でも注目されるようになってきましたが、箱や台などをつくる上手な指物師、技術者は少なくなっています。 そこで今回は、古美術をまもる重要なアイテムである箱・台などに注目して、数寄者のこだわりと制作者たちの工夫をご紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 トピックス|刀剣文化の応援はじまる 「刀剣乱舞」の生みの親 ニトロプラスが刀剣文化の調査・研究に助成 Armors & Swords | 武具・刀剣 札のなかの万葉 百人一首と歌留多のこころ History & Culture | 歴史・文化 Book Review 会津に生きた陶芸家の作品世界 Others | そのほか 骨董ことはじめ② めでたさでまもる 吉祥文に込められたもの History & Culture | 歴史・文化 ビンスキを語る ビンスキは どこからきたのか 〜その美意識の起源を辿る History & Culture | 歴史・文化 骨董ことはじめ⑤ 明治工芸という世界|清水三年坂美術館・村田理如コレクション People & Collections | 人・コレクション 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの 骨董ことはじめ③ 青磁 漢民族が追い求める理想の質感 History & Culture | 歴史・文化 展覧会情報|東京国立博物館 東京国立博物館 特別展「はにわ展」|50年ぶりの大規模展覧会 Ceramics | やきもの 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(2) 新井崇之Ceramics | やきもの 連載|美の仕事・茂木健一郎 テイヨウから、ウミガメに辿りついたこと(壺中居) Ceramics | やきもの 世界の古いものを訪ねて#3 ケルン大聖堂 響きあう過去と現在 ー 632年の時を超え、未来へ続く祈りの建築 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化