展覧会紹介 東博・大覚寺展 平安の五大明王と源氏の名刀 RECOMMEND 目次 1,嵯峨天皇の離宮が前身2,嵯峨天皇と空海3,後宇多法王の御所として4,歴史的にも貴重な五大明王5,源氏ゆかりの宝刀6,通常非公開を含む豪華絢爛な障壁画1,嵯峨天皇の離宮が前身 大覚寺は京都の西北、風光明媚な嵯峨野にあり、皇室ゆかりの格式高い門跡寺院です。正式名称は、旧嵯峨御所大本山大覚寺といいます。 当初は嵯峨天皇(786〜842)の離宮嵯峨院として造営され、876年(貞観18年)に皇女正子内親王の願いによって寺院に改められ、大覚寺となりました。 来年2026年は大覚寺として開創1150年にあたります。 重要文化財 大覚寺 宸殿 江戸時代 後水尾天皇に入内した徳川2代将軍秀忠の娘 東福門院和子の女御御殿が下賜された寝殿造の建物 2,嵯峨天皇と空海 大覚寺は弘法大師空海(774〜835)を宗祖とする真言宗大覚寺派の大本山。嵯峨天皇は空海を篤く信頼したことでも知られます。弘仁9年(818)の疫病流行の際には、空海の進言により、嵯峨天皇が自ら般若心経を写経しました。嵯峨天皇宸筆の般若心経は紺の綾地に金泥で書かれた類例のない貴重なもので、60年に一度、戊戌の年に天皇の許可を得て開封される「勅封」として、大覚寺に奉安されています。嵯峨天皇は、空海、橘逸勢とともに平安の三筆として称される能書家でした。 弘法大師像 鎌倉時代・14世紀 京都・大覚寺蔵 3,後宇多法王の御所として 鎌倉時代、後宇多天皇(1267〜1324)が德知2年(1307)に出家し、大覚寺門跡となり院政を行ったことで、大覚寺は嵯峨御所と呼ばれました。後宇多天皇は真言密教に深く傾倒し、弘法大師伝を著すなど、中興の祖と言われます。 重要文化財 後宇多天皇像 鎌倉時代・14世紀 京都・大覚寺蔵 展示期間:1月21日(火)~2月16日(日) 国宝 後宇多天皇宸翰 弘法大師伝(部分) 後宇多天皇筆 鎌倉時代・正和4年(1315) 京都・大覚寺蔵 展示期間:1月21日(火)~2月16日(日) 国宝 後宇多天皇宸翰 御手印遺告(部分) 後宇多天皇筆 鎌倉時代・14世紀 京都・大覚寺蔵 展示期間:2月18日(火)~3月16日(日) 4,歴史的にも貴重な五大明王 大覚寺の本尊は五大明王です。怒りの表情と恐ろしい姿で人々の煩悩を打ち破り、悟りへと導くとされます。 嵯峨天皇の離宮嵯峨院には、空海が五閣院という持仏堂を建立し、五大明王が安置されたという伝承があるそうです。 現在の本尊は、平安時代末期に造像された五代明王像です。 金剛夜叉明王像の台座に安元2年(1176)、軍荼利明王像の台座に同3年(1177)の年紀があり、金剛夜叉明王像には後白河上皇が住んだ七条殿弘御所で、仏師明円(みょうえん ?〜1199年頃)が造進したことが記されています。 明円は、平安時代の中期の仏師で、宇治の平等院鳳凰堂の阿弥陀如来を造像したことで有名な定朝から分かれた流派のひとつである円派の仏師です。大覚寺の五大明王は、明円の現存する唯一の作であり、非常に貴重な仏像です。 内覧会では、「都の一流仏師の手によって造られた平安時代の雅びで柔らかな表現と鎌倉時代の力強い整った表現の両方を併せ持つ名作」と、 東京国立博物館研究員の増田政史さんが解説されていました。 重要文化財 五代明王像 明円作 平安時代 安元二年(1176) 大覚寺蔵 不動明王(ふどうみょうおう) 降三世(ごうざんぜ)明王 軍荼利(ぐんだり)明王 大威徳(だいいとく)明王 金剛夜叉(こんごうやしゃ)明王 さらに本展では、かつて同じ嵯峨野の清涼寺五大堂に安置され、大覚寺に遷されたという巨大な五大明王像もお出ましになっています。 五大明王像 左3尊 大威徳明王、軍荼利明王、不動明王 重要文化財 室町時代 / 右2尊 降三世明王 金剛夜叉明王 江戸時代 大覚寺蔵 5,源氏ゆかりの宝刀 明治時代になって、大覚寺に源氏の重宝「薄緑」「膝丸」として伝わる太刀が納められました。 「膝丸」とは罪人の首を斬った際に、両膝まで切れたという伝承からきている名だそうです。平安時代中期の武将、源満仲から頼光、義家へと受け継がれ、源義経の手に渡った際に「薄緑」と命名されたと伝えられます。清和源氏の受け継ぐ正統な名刀として古くから有名な太刀です。 重要文化財 太刀 銘 □忠(名物 薄緑〈膝丸〉) 鎌倉時代・13世紀 京都・大覚寺蔵 「薄緑」太刀伝来記 江戸時代 17〜18世紀 京都・大覚寺蔵 本展では、ともに作られたとされる太刀「鬼切丸 髭切」も並んで展示されています。 鬼切丸 髭切は源頼朝所持から鎌倉幕府滅亡の際に新田義貞が手に入れ、新田を討った斯波高経の手に渡り、その子孫である最上氏が所持していたもので、明治時代に北野天満宮に奉納されました。 首とともに髭も切れたというほどの切れ味から「髭切」の銘が付けられました。また、満仲の子頼光の家来渡辺綱がこの太刀で鬼女を斬ったという伝承から「鬼切丸」、「友切」と改名しましたが、それ以降、源氏に負け戦が続いたため、ふたたび「鬼切丸」と改められたそう。伝来や名前の変遷も興味深いところです。 この兄弟刀とされる二振りの名刀が並んで展示されるのは東京では初めてことだそうです。今後もしばらくはないであろう貴重な観覧の機会です。 6,通常非公開を含む豪華絢爛な障壁画 大覚寺は皇室ゆかりの門蹟寺院ならではの伽藍を有しています。 本展では、大覚寺伽藍の中心である宸殿と正 宸殿を飾る安土桃山時代から江戸時代にかけての100面もの障壁画が展示されています。これほどの件数が一挙公開されるのは初めてのことだそうで、見応え十分です。 (展示替えあり 前期100面 後期102面予定) 障壁画の展示風景 室町時代までに、大覚寺はたびたび火災や戦火にあって、伽藍が焼失しましたが、そのたびに復興されました。 安土桃山時代に入り、織田信長、豊臣秀吉に安堵され、徳川家にも代々保護されてきました。 宸殿は(重要文化財)は、1620年(元和6年)に後水尾天皇に入内した徳川和子(東福門院)の女御御所を移築したもので、華やかなふすま絵が女性の御座所にふさわしいものです。 大覚寺 宸殿「牡丹の間」 宸殿の障壁画を描いた絵師の一人として注目なのは、狩野山楽(1559〜1635)。 宮廷、豊臣氏の注文を多く受けて、徳川氏の世になってからも、徳川、宮中の仕事を数多く手掛けています。江戸に下った狩野探幽らに対して、「京狩野」と呼ばれています。近年、特別展が開催されるなど、後継者となった狩野山雪とともに、ふたたび注目を浴びています。 牡丹図は山楽の代表作と評価されており、総長が約22メートルにもなる豪華なふすま絵です。 他にも、山楽最高傑作の一つと称される紅白梅図や、師の狩野永徳から受け継いだ力強さをもつ「松鷹図」など、いずれも重要文化財に指定されている貴重な逸品です。 重要文化財 牡丹図(展示風景・部分) 狩野山楽筆 江戸時代・17世紀 京都・大覚寺蔵 重要文化財 紅白梅図 狩野山楽筆 江戸時代・17世紀 京都・大覚寺蔵 重要文化財 松鷹図(部分) 狩野山楽筆 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 京都・大覚寺蔵 展示期間:1月21日(火)~2月16日(日) また、通常非公開の正寝殿 御冠の間(おかんむりのま)の複製が会場内に再現されています。正寝殿は大覚寺の門跡(住職)の御座所(居室)として用いられ、「御冠の間」はその中でも最上位の部屋です。後宇多法王が院政を執った部屋であり、冠を傍らに置いて執務していたことからその名が付いたそうです。1392年(元中9年 明徳3年)に南北朝講和の会議が行われた歴史的舞台としても知られています。 正寝殿 御冠の間を会場内で再現 障壁画は複製 重用文化財 山水図 (正寝殿御冠の間) 狩野山楽筆 安土桃山〜江戸時代 16〜17世紀 京都・大覚寺蔵 現在は本物の腰障子は保護のために取り外され、保存されています。 重要文化財 野兎図(部分) 渡辺始興筆 江戸時代・18世紀 正寝殿狭屋(さや)におさまる腰障子12面に野ウサギが群れ遊ぶ様が描かれています。渡辺始興(1683-1755)は京都で狩野派や尾形光琳に学び、活躍しました。 大覚寺の歴史と美の全貌がわかる構成になっており、知識を得て、春の嵯峨野、大覚寺へ出掛けてみたくなります。 もちろん京都へは行けないという方も、再現やビデオによる大覚寺の庭園で、充分に堪能できます。 仏教美術、刀剣、日本絵画がお好きな同好の方なら、必見の展覧会です。 開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺 -百花繚乱 御所ゆかりの絵画-」 Special Exhibition Commemorating the 1150th Founding Anniversary of Daikakuji Treasures of Daikakuji: From Imperial Villa to Buddhist Temple 会期 2025年1月21日(火)~3月16日(日) 展示替えあり 前期展示:1月21日(火)~2月16日(日)/ 後期展示:2月18日(火)~3月16日(日) 会場 東京国立博物館 平成館(上野公園) 東京都台東区上野公園13-9 休館日 月曜日(ただし2月10日、24日は開館)、2月25日(火) 開館時間 9時30分~17時 ※入館は閉館の30分前まで 観覧料金 一般 2,100円(一般前売 1,900円) 大学生 1,300円(大学生前売 1,100円) 高校生 900(高校生前売 700円) 公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/daikakuji2025/ RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第2号(2025.3月) 2025年上半期 骨董市&アートフェアガイド デジタル月額読み放題サービス 美術館の展覧会はもちろん、今年も古美術・骨董のイベントがたくさん開催されます。骨董・古美術のアイテムを蒐めるための入口はこれほどたくさんあるのに、どこに行ったらいいかわからない方も多いのではないでしょうか。目の眼では各地で開催される骨董市やフェア、注目のイベントを独自の視点で紹介します。 試し読み 購入する POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 展覧会情報 装い新たに 荏原 畠山美術館として開館 History & Culture | 歴史・文化 連載|真繕美 古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2 Ceramics | やきもの リレー連載「美の仕事」|澤田瞳子 澤田瞳子さんが選んだ古伊万里 Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂 KYOTO店主) 辻村史朗さんに”酒場”で学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 夏酒器 勝見充男の夏を愉しむ酒器 Vassels | うつわ 連載|真繕美 唐津の肌をつくるー唐津茶碗編 最終回 Ceramics | やきもの スペシャル鼎談 これからの時代の文人茶 繭山龍泉堂 30年ぶりの煎茶会 龍泉文會レポート People & Collections | 人・コレクション 札のなかの万葉 百人一首と歌留多のこころ History & Culture | 歴史・文化 東京・京橋に新たなアートスポット誕生 TODA BUILDING Others | そのほか 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの 加藤亮太郎さんと美濃を歩く 古窯をめぐり 古陶を見る Ceramics | やきもの 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション