展覧会紹介|國學院大学博物館

越境者 性別を越えて得たもの、失ったもの

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八幡縁起 上 作者不詳 江戸時代・17世紀 國學院大学図書館

 

現在、國學院大学博物館で開催されている企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」を見た。(開催中〜2026.2/23迄)

 

世界を見渡してみると、これまで一般的な通念として語られきた「男らしさ」「女らしさ」という固定観念(ジェンダーバイアス)が原因で起こるトラブルが拡大している。

 

2000年代に入ってからは、そうした性別による不平等や差別を解消しようと、教育、社会、政治などあらゆる場面で男女の格差(ジェンダーギャップ)について採りあげられ、語られてきたが、この数年はそれに反動する動きも見られるようになった。幸か不幸か筆者はストレートな人間だったらしく、また骨董・古美術という世界で男性として生きているとあまり意識せずに済むせいか、このようなデリケートな問題に直面することもなく、のほほんと過ごしてきた。しかし本展を見て、このややこしいジェンダー問題を古物を通して見るとここまでわかりやすく、具体的なイメージで伝えられるのかと感動したので紹介しておきたい。

 

 

 

『違式詿違図解』 今江吾郎編 明治時代・明治11年(1878) 國學院大学博物館
欧米的な価値観に倣う「文明開化」が目指された明治初年には、日本の伝統的な習俗を「矯正」するため、軽犯罪法の淵源たる『違式詿違(いしきかいい)条例』 が定められていく。明治6年(1873)には、全国的に異性装を禁じる条項がくわえられ、違反者には罰金10銭を課すこととなった。

 

 

 

本展は古代から近現代までに遺された古物や史料を通して、日本人がジェンダーに関する問題にどのように対応してきたか浮き彫りにしようとするもの。日本人は昔からそうした問題に対して鷹揚かつ柔軟に対処し、世界的にもユニークな文化を形成してきたといわれる。展示解説や図録によると、『性別の垣根を越境してみせることで、超越した異能を身に付けることさえできると信じてきた。とりわけ、祭祀や芸能に関わる世界では、異性装をはじめとする「性別越境」が重要な意味を持つことがある』とあり、それが大きく変わったのは『明治以降、欧米的な近代国家が形成されていく過程で、男女を截然と分かつ儒教的価値観と、キリスト教的な性規範のもと、富国強兵・殖産興業のために「性」の管理が行われていく』と、明治維新を転換点として抑圧と強制が進められたという。

 

たとえば展示の冒頭では明治初期に刷られた浮世絵を中心に、幕末まで男性として生きてきた女性や、同性婚で普通に暮らしてきた夫婦が咎められ、検挙された事例が紹介されている。

 

 

 

注口土器 出土地不明 縄文時代後期 國學院大学博物館

 

 

 

先史時代のコーナーでは性的なアイコンが表された石棒や石冠、土偶などが紹介されていたが、個人的におもしろかったのが注口土器の解説で「縄文時代の深鉢形土器には、顔面や手足を表現したものがあり、体に見立てた土器の胎内で殺した動植物の遺体を煮込むことで、新たな命の糧を生み出していた。後晩期の注口土器は注ぎ口を陰茎に見立てたものであり、根本に睾丸の表現をもつ例も存在する」という指摘はたいへん勉強になった。

 

 

 

 

鶴岡放生会職人歌合(じしゃ) 作者不詳:鎌倉時代・13世紀 國學院大学図書館
長い布を頭の前で結った桂巻に、籠目と鮮やかな椿を散らした小袖姿の人物が、鶴岡八幡の「宮つこ」である「持者。「持経者」の略であろうか。写本によっては、口髭を生やした姿で描かれる場合もあることから、女装巫人である可能性が高い。

 

 

 

七十一番歌合(白拍子) 土佐光信画、東坊城和信書 谷岡七左衛門刊 原典:室町時代・15〜16世紀 江戸時代・明暦3年(1657) 國學院大学図書館

 

 

また中世のコーナーでは、「じしゃ(持者・寺者)」や「稚児(ちご)」と呼ばれる宗教的異能者が男装または女装をして、男女どちらでもありどちらでもない〝双性の巫〟として後世まで活動している姿を紹介するほか、「白拍子(しらびょうし)」についての解説では『『平家物語』は、平清盛の寵愛を受けた白拍子の祇王(ぎおう)についても触れている。白拍子は、一般に女性による男舞とされてきた。しかし三橋順子氏(本展監修者)は、これを女性の「稚児装」と見る。出家した清盛が祇王を愛することができたのは、あくまで女性器を持つ稚児だったからだ』と説いている。現代に生きる私たちから見るとつい〝倒錯的〟の一言でかたづけてしまいがちだが、稚児が〝女犯を禁じられた僧と交わることでその救済機能を果たした存在〟として認知されている世界ならば、清盛の寵愛を受ける祇王が女性でありながら稚児を装うことで整合性を保とうとしたのは、なるほど理解しやすい。

 

このほかにも本展では、性別を超えた〝越境者〟たちが、さまざまな分野で社会的役割を果たしながら存在してきた事例が数多く紹介されているが、すべてをここで紹介しては意味がないので、興味を持たれた方は是非会場に足を運んで見ていただきたい。まさに「目から鱗が落ちる」体験ができる企画展だ。

 

 

Information

性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-

開催中 ~ 2026年02月23日

会場

國學院大學博物館

住所

東京都渋谷区東4-10-28[國學院大學渋谷キャンパス内]

URL

TEL

03-5466-0359

入場料

無料

備考

開館時間:10時~18時(最終入館17時30分)
休館日:毎週月曜日、1月17日(土)~1月19日(月)、2月2日(月)~2月4日(水)
※図録1200円

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