骨董ことはじめ② めでたさでまもる 吉祥文に込められたもの History & Culture | 歴史・文化 重要文化財 色絵松竹梅文瓶子 江戸時代 17世紀末~18世紀初頭 坂本五郎氏寄贈 九州国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 新年あけましておめでとうございます、『目の眼』編集のイトウです。 昨年は元日から大きな災害や事故が続き正月気分も吹っ飛んでしまいましたが、2025年は穏やかなはじまりで、久しぶりにゆったりとしたお正月を過ごしたという方も多いことでしょう。SNSでも、お気に入りのコレクションを並べてお酒やお茶を楽しんでいる投稿をうらやましくも楽しく拝見しました。 日本では桃山以降、うつわにさまざまな文様が描かれるようになりました。最初期の唐津や志野、織部などには何が描かれているのか不明なものもありますが、近世に入って精巧な磁器が焼かれるようになると、伊万里焼や京焼など色鮮やかで具象的な文様が器面を埋め尽くすように描かれていきます。 その文様をあらためてよく見てみると、そのほとんどが吉祥文、つまり縁起が良くておめでたい謂れをもつものがほとんどだということに気がつきます。 青磁染付鶴亀図菊形大皿 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 平野耕輔氏寄贈 ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 代表的なところでは、たとえば松竹梅とか蓮や菊。鶴亀、海老、鯉、龍や鳳凰。宝珠や桃、葡萄、千鳥なんてところは骨董好きでなくても一度は目にしたことがあるでしょう。そのほか具体的な絵で示されてなくとも青海波や亀甲文、七宝繋ぎなど細かな地文様に使われる部分にも吉祥文は施されています。 こうした文様はやきものだけでなく、漆器や金工品、刀装具にも描かれており、さらにいえばその大元は着物や帯といった染織品のデザインが源流と考えられていて、つくづく日本人はめでたい文様で身の回りを固めていたことがわかります。 唐織 紅茶浅葱段青海波柴束蘺秋草模様 江戸時代・18世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 当時はそれほど生きることが難しかった時代だったということかもしれません。めでたさで邪気や災いから身を守ろうとしたのでしょう。現代日本では幸いいまのところ、戦争や飢饉などは起こっておらず、死と隣り合わせに生きる時代ではありません。ただ最近のニュースを見ていると、時代が100〜200年くらい逆戻りしたかと思うような、短絡的で荒っぽい犯罪が多発していてときどき不安になります。 そんなとき、骨董を手に取りながら、この文様は何が描かれているのだろうか、どういう意味があるのかな、と文様に込められた願い、祈りに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。本当によいものには適当に描かれた文様などありません。数百年を生き抜いた骨董の生命力は、きっとあなたも護ってくれるでしょう。 ちなみに、1月15日発売となる『目の眼』2月号では、心躍るような文様がたのしい「織部焼」を特集しています。時代の大きな変わり目に一世を風靡した織部の文様にはどのような意味が込められているのでしょうか。一緒に考えてみませんか。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年2・3月号No.579 織部のカタチ アバンギャルドな粋 戦国時代に一世を風靡した織部焼。歴史上に生きた人物を後年に名に冠した珍しいやきものです。 大胆な造形と革新的なデザインは多くの人々を魅了し、日本人の美意識を中世から近世へとシフトアップさせました。それから400年、令和の時代となっても織部焼は高い人気を誇っています。今回は伝世の茶道具からうつわ、陶片にいたるまで、多彩な展開を見せた織部を現代に継承し、使いこなす愉しみを紹介します。 試し読み 購入する POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 展覧会情報 装い新たに 荏原 畠山美術館として開館 History & Culture | 歴史・文化 夏酒器 勝見充男の夏を愉しむ酒器 Vassels | うつわ 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの 茶の湯にも取り入れられた欧州陶磁器 阿蘭陀と京阿蘭陀 Ceramics | やきもの 羽田美智子さんと巡る、京都の茶道具屋紹介 茶道具屋さんへ行こう Vassels | うつわ 眼の革新 鈍翁、耳庵が愛した小田原の風 People & Collections | 人・コレクション 花あわせ 心惹かれる花は、名もなき雑草なんです Vassels | うつわ 根付 怪力乱神を語る 掌の〝吉祥〟を読み解く根付にこめられた想い Ornaments | 装飾・調度品 スペシャル鼎談 これからの時代の文人茶 繭山龍泉堂 30年ぶりの煎茶会 龍泉文會レポート People & Collections | 人・コレクション 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの 連載|真繕美 唐津茶碗編 日本一と評される美術古陶磁復元師の妙技1 Ceramics | やきもの