展覧会紹介

「古道具坂田」という美のジャンル

People & Collections | 人・コレクション

 

2025年4月4日から東京・六本木にあるフィリップス東京にて開催中の「Our Eyes」。骨董好きの間で伝説的存在となっている「古道具坂田」に通い、蒐集した一人のコレクターのコレクションを、現代美術家の青柳龍太さんがインスタレーションした展覧会だ。

 

 

 

 

 

 

東京・目白にあった古道具坂田。立て付けの悪そうな古い引き戸の入口。中はやや薄暗い。まるで昭和時代戦前の露地にある小さな店が取り残されたようだ。しかし、その店はある種の人々を惹きつけ、日々通う愛好家が後を絶たなかった。

 

店主は、坂田和實さん。いつもアースカラーのゆったりしたシャツやセーターを着て、店奥の座敷に座り、訪ねてきた客と静かに会話している。

 

 

筆者が古道具坂田を知ったとき、坂田さんはすでに有名な存在だった。「芸術新潮」に連載されたエッセイをまとめた『ひとりよがりのものさし』(新潮社刊 2003年)は、ものに興味がある若い世代のバイブルとなっていた。

 

彼が扱ったモノは、一言では言い表せない。どんなものかは展示風景の画像でみていただきたいが、生まれた場所も時代も、用途も違う。坂田さんが自分の眼で、日本、ヨーロッパ、アフリカなど世界各地で見つけてきたものだ。そのモノのどこかに惹かれた坂田さんによって、それらは一つひとつ大切に置かれ、店内になじんでいた。

その佇まいに魅了された人が手に取り、美しいと感じた記憶を胸に買っていく。

 

 

坂田さんは2022年11月に78歳で亡くなられた。その後も、坂田さんを語る方、坂田さんが扱ったモノを求め、美意識を知ろうとする方は増え続けている。

 

 

 

 

 

「Our Eyes」展示風景 フィリップス東京オフィス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月15日、青柳龍太さんのトークイベントがあったので、伺った。

青柳さんは、美大時代から古道具坂田に通い始め、坂田さんと知り合ったという。「お店に行くと、置いてあるモノはもちろん、雰囲気や匂いも好きで、いつも心が癒されました。懐かしいです」

 

青柳さんは2005年頃から、選んだものを空間に配置することで表現するファウンド・オブジェとインスタレーションを始め、ギャラリー小柳などで発表している。ご自身でも2010年代に数年間、骨董商を営んでいたそうで、古いモノを使うことが多い。古道具坂田で感じたものが、青柳さんの糧となっているのだろう。

 

 

 

現代美術家 青柳龍太さん

 

 

 

昨年、中国・杭州の私立美術館BY ART MATTERS天目里美術館にて「古道具坂田 僕たちの選択」が開催された。その展示は中国でも注目され、大きな話題となった。そのキュレーションを任されたのが青柳龍太さんだ。

 

中国での展覧会は、古道具坂田を訪ねたことがあり、コレクターでもある天目里美術館を創設したオーナーが、古道具坂田の展覧会を開きたいと坂田さんに提案したのが始まりだそうだ。そして日本のコレクターにも相談するうち、キュレーターとして青柳龍太さんの名が上がったという。

 

残念なことに展覧会が始まる前に坂田さんは逝去されてしまった。しかし、生前の坂田さんに杭州での展覧会のキュレーションを務める事をご報告に行くと、坂田さんはとても嬉しそうにニコニコしていたと青柳さんから伺った。

 

 

「Our Eyes」展示風景 フィリップス東京オフィス

 

 

 

 

 

 

 

 

「坂田さんが扱うものは、紀元前の古代から現代のものまであって、安価なものもそれなりの値段のものもあります。真贋には厳しかったですし、よくモノをご存知でした。そのモノの時代や制作について知らずにどうでもいいと言うのとは違います。きちんと分かっていて、その上で時代にとらわれない見方をされていたと思います」

 

 

「Our Eyes」は、古道具坂田の展覧会ではない。

坂田さんが見つけたモノを、コレクターが選び、さらに青柳さんがその中から選び、自分自身の表現としてフィリップス東京の空間にインスタレーションした展覧会だ。

 

「僕はこの展示は夜の方が良いと思っていて、ぜひ夜にも見て頂きたいです」

トークイベントは昼の14時からだった。外光が差し込むのも個人的にはいいと思ったが、確かに裸電球が天井から下がっている。「裸電球が大好きなんです。設営に苦労しましたが(笑)」と青柳さん。

 

会場のパーテーションは、ひと一人が通れるスペース分だけ開けられている。それも青柳さんのインスタレーションに含まれているのだそうだ。

 

「静かにどうぞ。ぜひ静けさを感じて頂いて」と、今年新たにフィリップス・オークション日本代表に就任した瀨谷瑞香さんが観覧者を促し、作品の中をめぐりながら、瀬谷さんがされる質問に、ぽつぽつと語られる青柳さん。

その様子は、「私は芸術家ではなく、古道具屋」と言ったという坂田さんが望まぬ「芸術」として語らないよう、気を配っているように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝鮮半島・李朝時代の紙貼り箪笥。扉を開くと漢詩を書いた反故紙が貼られている。

 

 

今、「坂田和實さんが扱ったモノ」は人気を集め、プレミアがついている。

海外の美術館、オークションハウスでも取り上げられらるようになった。

 

トークの中で、「ピュア民藝」という言葉があった。

坂田さんはご自身の出発点は民藝だと話していたように思う。

 

民藝の柳宗悦は、蒐集したモノたちを民藝館に一堂に展示して、民藝運動の真髄を語らせた。

坂田さんも、美術館「As it is」を建てた。

 

思想をモノに托して伝える。モノから生じる心象を捉えて、それを表現してみせる。

そのバトンは受け取られた。これからも多くの人たちに伝わっていくのだろう。

 

 

補:

フィリップスは、サザビーズ、クリスティーズと並び称される世界三大オークション会社。現代アートを得意としている。

東京支社がオープンしたのは2016年。2019年に六本木に移転し、会社を広く知っていただこうと、これまでにも何度かオフィスで展覧会を開催してきた。

今回の「Our Eyes」もオークションプレビューではなく、基本的には観覧のみだ。

 

 

Oue Eyes

会期: 2025年 4月4日(金)~ 25日(金)
会場: フィリップス 東京オフィスギャラリー
住所: 東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル4階
開廊時間:11:00 -18:00
休廊: 土日・祝

お問い合わせ
PHILLIPS TOKYO OFFICE – 03 6273 4818 / Tokyo@phillips.com

 

 

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