世界の古いものを訪ねて#13 青と白のアズレージョ。雨のポルトで、古いタイルの温度にふれて RECOMMEND ロンドンはずっと雨。つい先日は、40日間雨が降り続いていることをノアの方舟になぞらえてニュースで報じていました。イギリスのどこかで一日も欠かさず雨が降り続いているらしく、連続記録を更新したのだそう。ここまで続くと、雨のほうも飽きていないのか心配です。 さて、私は自他ともに認める雨女なので雨には慣れっこなのですが、ロンドンでしとしとと降り続く雨を眺めながら、先日の旅先での雨を思い出していました。 1月末、寒いロンドンから少しでも暖かい国へと向かったのは、ポルトガルのポルト。昨年、隣国であるスペイン・バルセロナへ行ったこともあり、似た雰囲気なのではとなんとなく後回しにしていた旅先です。 今回ようやく訪れることができたわけですが、着いてみれば、笑ってしまうほどの豪雨暴風。ポートワインの飲み比べをしながら雨宿りをしようとお店に入るも、窓の向こうを風に煽られた椅子が横切っていき、どうしたものかと苦笑い。 例によって無計画な私の旅ですので、やや強すぎる雨の音をBGMに甘いワインを揺らしつつ、屋根の下で楽しめる場所はとマップを眺めてみます。そうしてピンを立てたのが、サン・ベント駅でした。 翌朝、少し弱まった雨の中を、サン・ベント駅へと歩いて向かいます。 ここは、ポルトガルらしいアズレージョタイルで有名な駅。列車に乗ってどこかへ出かけていく人はもちろん、列車に乗る予定のない人も多く集まります。 構内では、いくつかの観光グループがガイドに連れられて、熱心に壁のタイルを見上げていました。 観光客の後ろで壁を見上げながら、アズレージョ、と私も調べてみます。この言葉は、「磨かれた石」を意味するアラビア語に由来しているのだそう。14世紀頃にイスラエルから伝わり、ポルトガルで独自の進化を遂げた装飾タイルです。 特にこのサン・ベント駅は、かつての修道院の跡地に建てられた場所。壁を埋め尽くす約2万枚のタイルには、ポルトガルの歴史的な戦いや、人々の暮らしが青一色のグラデーションで描き出されています。 交通の結節点ではなく、物語の入り口のような。いや、交通の結節点って、物語の入り口でもあるのか。 時を経たやわらかな白色に、飛行機雲のように伸びる青い線。わずかなヒビの入ったアズレージョタイルには、長い時間を感じさせるのと同時に、これから始まるようなわくわくもある。 人々が各々の目的地を目指して集うこの場所を、長いあいだ、こうして青と白が彩ってきたのですね。 駅を出て街を歩くと、以前よりアズレージョが目につきます。教会の外壁、住宅のファサード、路地の角。特別な場所に集められているのではなく、街そのものがタイルという皮膚に包まれているような。 雨に濡れてしっとりと光を吸い込むその姿は、晴れの日とはまた違う、人肌のような温かさを感じさせるのでした。 お土産屋を覗くと、新しく焼き上げられた真っ白なタイルが並んでいます。真っ白で、真っ青。それもそれで可愛いけど、そこにはどうしても温かさを感じられません。私はやっぱり、古いアズレージョがほしい。ひとつとして同じもののない、てしごとの温もりに惹かれるのは、どこの国のどんな物でも同じようです。 そうして訪れたのが「Antiguidades Porto Velho」。中心部から歩ける距離にある、地元の人にも愛されるアンティークショップです。 アクセサリーやおもちゃ、写真、うつわなど、テーマごとに展示される様子は小さなミュージアムショップのよう。 その中で私のお目当ては、店舗の奥の方に立てかけられたラック。壁にずらりと並んだ古いアズレージョタイルは、ひとたび指先でたどれば、過去の誰かの生活の気配が、指先から伝わってくるようです。 それは1800年代後期の、それは1900年代に入ってからの……と、店主のマダムが丁寧に教えてくれます。 私が選んだのは、1935年から1950年頃にかけて作られたという青と白のアズレージョ。飾ってもいいし、何かを上に置いてもいいな。なんなら鍋敷きにしても良いかもしれない。 あわせて、同じ時代、けれど異なる技法で作られたマグカップも手に取りました。用途も表情も違いますが、どちらも同じ時間をくぐり抜けてきたもの同士、どこか似た顔をしています。 街で見上げたアズレージョを、今度は自分の生活の中で使う。 ポルトの「古いもの」は、遠くから眺めるためだけでなく、今もそっと日常に根付く存在。そんな思い出を持ち帰る嬉しさを胸に、私は店を後にしました。店を出る頃には、雨も上がって。 古いアズレージョタイルについて、気がついたことがあります。指先でふれたとき、もちろんひんやりとはするんだけど、視覚的にはとても温かい。青と白が、こんなに温かな色だったなんて。それは寒色ではありますが、雨のポルトで出会った青と白は、私にとって暖色なのでした。 Auther 山田ルーナ 在英ライター/フォトグラファー RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第8号 春の骨董めぐり 日本橋・京橋・銀座 デジタル月額読み放題サービス 特集「春の骨董めぐり 日本橋・京橋・銀座」 今号では「春の骨董めぐり」と題し、日本橋・京橋・銀座エリアの骨董・古美術店や画廊を特集。江戸時代から400年以上日本の中心地として栄えるこの街には、現在もたくさんの老舗や大店が鎬を削っており、400軒以上の美術商が集まっています。そこで今回は4月下旬開催の「東京アートアンティーク」と連携し、ユニークな企画展を行う約30店を厳選して紹介しています。 桜舞う季節、街歩きとともに美しいものとの出会いをお楽しみください。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 百済から近代まで 歴史の宝庫、韓国・忠清南道(チュンチョンナムド) History & Culture | 歴史・文化 名碗を創造した茶人たち Vassels | うつわ 展覧会紹介|五島美術館 愛しの青 五島美術館で古染付・祥瑞をみる Ceramics | やきもの 人材育成プロジェクト|東京美術倶楽部 千年の技と美意識を世界へ、KOGEIアート・プロデューサー育成始動 Others | そのほか 企画展紹介|Salon SCÈNE 北欧陶器とフランスのヴィンテージ家具の最先端をみる People & Collections | 人・コレクション 骨董ことはじめ④ “白”を愛した唐という時代 History & Culture | 歴史・文化 展覧会紹介|福本潮子ー藍の海ー 海のように藍が染まる〜福本潮子の世界を堪能する個展、銀座和光にて People & Collections | 人・コレクション 連載|美の仕事・茂木健一郎 テイヨウから、ウミガメに辿りついたこと(壺中居) Ceramics | やきもの 展覧会紹介|もうひとりの28 もうひとりの28 人気企画展ふたたび Others | そのほか 展覧会紹介|東京ステーションギャラリー 世界を旅するインド更紗。時を超えて愛される文様と色彩の物語 Ornaments | 装飾・調度品 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈前編〉 People & Collections | 人・コレクション 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(前編) Ceramics | やきもの