静寂の南画家 甲斐虎山 ー孤高の生涯と芸術ー 絶景を目にして「まるで山水画のよう」と形容することがあります。「山水画」は、山岳と河水が織りなす自然の風景を描く、東洋絵画のジャンルです。これは単に山や川を描いた風景画というだけではありません。 中国では、古くから山を神々や仙人、霊獣が住まう霊的な空間であると考える神仙思想が流行しました。神仙は人里を離れた深山幽谷に住むものであり、その世界を描いた絵を飾り、眺めることは、鑑賞者の精神を清浄な霊地にいざなうものだと考えられていたのです。 そして「山水画」は、実際に現地で観ることはできない、記憶や想像の中だけに存在する風景を目にする手段として受け入れられていくことになりました。それが中国の代表的な絵画様式の「南宋画(南画)」の典型的特徴の一つとなったのです。そしてそれは室町時代以降、日本にも大きな影響を及ぼしました。 甲斐虎山は大分の臼杵に生まれ、生涯にわたって画壇とは距離を取りながら、豊後南画の技法と精神を貫きました。そのせいで殆ど名前も知られることもなく、孤高の存在として京都で生涯を閉じましたが、その画は清浄して斬新。晩年には現代美術と見紛うような作品の数々を生み出しました。 編著者は京都女子大学教授の前崎信也先生と大阪国際大学教授の村田隆志先生という関西美術界を代表する若手研究者お二人による甲斐虎山の画と賛の魅力、虎山の画を通じて南画の見方・楽しみ方もわかりやすく解説。南画や文人画に触れたことがない方でも楽しめる一冊です。南画は難しいから良くわからないと言われますが、わからないからこそ面白いと言えるのではないでしょうか ●編著者プロフィール 前崎 信也 京都女子大学家政学部生活造形学科教授 1976年、滋賀県生。ロンドン大学SOAS博士課程修了、2009年、博士号取得(PhD in History of Art)。立命館大学アート・リサーチセンター客員協力研究員、京都市立芸術大学芸術資源研究センター客員研究員等を兼務。専門は日本工芸文化史、東洋陶磁研究、文化情報学など。近著に『アートがわかると世の中が見えてくる』(IBCパブリッシング、2021年)。 村田隆志 大阪国際大学国際教養学部国際観光学科教授 1978年、兵庫県生。学習院大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程単位取得満期退学。日本水墨画美術協会理事、京都女子大学文学部非常勤講師等を兼務。専門は日本近世・近代美術史、近代南画研究、博物館学など。近著に『明治の金メダリスト 大橋翠石~虎を極めた孤高の画家~』(神戸新聞社、2020年)。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年8・9月号No.582 古美術をまもる、愛でる 日本の古美術には、その品物にふさわしい箱や仕覆などを作る文化があります。 近年では、そうした日本の伝統が海外でも注目されるようになってきましたが、箱や台などをつくる上手な指物師、技術者は少なくなっています。 そこで今回は、古美術をまもる重要なアイテムである箱・台などに注目して、数寄者のこだわりと制作者たちの工夫をご紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの 正宗の風 相州伝のはじまり “用と美”の革新、名刀匠正宗の後継者・正宗十哲が繋ぐ相州伝 Armors & Swords | 武具・刀剣 骨董・古美術品との豊かなつきあい方② 自分だけのコレクション、骨董品との別れ方「終活」編 Others | そのほか 連載|美の仕事・茂木健一郎 テイヨウから、ウミガメに辿りついたこと(壺中居) Ceramics | やきもの 超! 日本刀入門Ⅰ|日本刀の種類について解説します Armors & Swords | 武具・刀剣 骨董ことはじめ⑥ 骨董ビギナー体験記|はじめて骨董のうつわを買う Others | そのほか 大豆と暮らす#3 おから|大豆がつなぐ、人と食 稲村香菜Others | そのほか 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈後編〉 People & Collections | 人・コレクション 展覧会情報|大英博物館 ロンドン・大英博物館で初の広重展。代表作「東海道五十三次」など 山田ルーナCalligraphy & Paintings | 書画 小さな壺を慈しむ 圡楽窯・福森雅武小壺であそぶ Ceramics | やきもの ビンスキを語る ビンスキは どこからきたのか 〜その美意識の起源を辿る History & Culture | 歴史・文化 超 ! 日本刀入門Ⅱ|産地や時代がわかれば、刀の個性がわかります Armors & Swords | 武具・刀剣