夏酒器

勝見充男の夏を愉しむ酒器

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京焼盃。一面に描かれた草葉に、白い点々の一珍で蛍の光が描かれる。
ガラスのフラスコは明治。

 

例年の台風に加え、疫禍で家篭りが増えそうな2020年の夏。自宅にいながら楽しく晩酌をしたい。そんなとき、どんな酒器を、どんな取り合わせで使えば良いのでしょうか。酒器を楽しむ達人・勝見充男さんに、夏らしい取り合わせの極意を伺いました。

 

*この対談は『目の眼』2020年8月号に掲載されています。

 

 

ヘタリ具合が可愛い初期伊万里の徳利には、夏らしい染付の輪線。口が広いので使い易そうだ。盃は李朝。おそらく明器だろう。

 

 

――勝見さんは夏場、どういう風にお酒を楽しんでいますか?

 

勝見 真夏に家で飲む場合、酒を冷蔵庫でキンキンに冷やして飲むことがほとんどです。そのときの器は備前など、焼締(やきしめ)のものが案外いいんです。冷たい酒を注ぐと汗をかいて、触覚だけでなく視覚的にも涼しげです。

 平安の須恵器は無釉で地味ですが、形に緊張感があり、これに冷酒を注ぐと、夏のだらけた空気を引き締めてくれます。

 白磁は李朝の金海手。筆洗用の皿でしょうが、盃に見立てて使っています。べた底、総釉で重ね焼きしてあり、目跡が3箇所ほど。端反りがきつい分だけ口当たりがシャープなので、とても暑い日に使っています。

 宋胡録(すんころく)ですが、見込みにブルーの釉薬がたまっていて、すごく綺麗なんです。これは少し大振りなので、四合瓶をそのまま冷蔵庫で冷やして、盃で受ける、というさりげない使い方も良いかと思います。 

秦秀雄さん旧蔵の江戸後期くらいの古伊万里。浴衣のような模様が夏っぽく、湯上りにこれで冷酒を一杯、なんていうのも風流かも。 

 

 

勝見さん所有グラスたち

 

 

——勝見さんはグラスの盃もたくさんお持ちですよね。

 

勝見 グラスは見た目に綺麗で楽しいから、つい買ってしまいます。でも、実際使うとなると無色透明や、口辺に少し乳白の入っているものに限られます。その分、ガラスの質の気泡や、ユラユラ感が味わえるのです。江戸ガラスで紫や青のものがありますが、そのままテーブルの上に置くと、テーブルの色と盃の色が混ざってしまいます。せっかく江戸ガラスの色合いを楽しむなら、懐紙を下に敷くと良いですよ。

 面取りのグラス(上画像:右端中央)は、型で押してから、さらに面をカットしているのが珍しい、大正のものです。全面気泡のグラス(上画像:下から2列目中央)はキャンドルカップを見立てたもので、イギリスで手に入れました。こういう風に和洋取り混ぜながら使うのも面白いと思います。 

ピッチャーは、ノリタケの50年代くらいの製品。グラスは昭和初期くらいの作家もので、煎茶碗なんかに使ったのかも。70年代のスウェーデンで作られたプレスのトレイを合わせれば、仲間と気兼ねなく飲むにはぴったりの、気軽な取り合わせと言えるでしょう。

 

 

——やはり、夏、一番よく使うのはグラスですか?

 

勝見 グラスは視覚的に涼しいから、つい手が伸びますが、どんなに使っても味がつかないからなあ。 やはり陶磁器の方が使用頻度が高いです。それより、夏限定で楽しんでいるものに片口があります。なぜかといえば、徳利では隠れてしまう酒の水面が、なんとも涼しげに映るからです。

 でも、片口を酒器として使うようになったのは、ここ40年くらいのことです。それまでは、古くて良い唐津の片口があっても、注ぎ口をとって茶碗にしていました。勿体ない話ですがね。それが酒器として使われるようになったのは、思うに、秦秀雄さんが監修した松本の蕎麦屋、三城の演出が最初だと思うんです。秦さんのこだわりは、日本酒は冬でも常温。それを片口に容れてお客さんに出していたんです。その他の食器に関しても、現代物でも瀬戸や、無文の物にこだわっていた。秦さんらしいセンスですよ。

 また、その頃、日本酒、それも冷酒がブームになり、都内の有名な食器屋さんも片口に目をつけ、「酒器」として売るようになり、作家さん達も、こぞって片口を作るようになったんです。今では、すっかり定着していますけど。

 冷たい酒を入れる片口としては、骨董では焼締の、常滑系の片口があれば理想的ですが、常滑に小さいものはめったにありません。そこで、常滑の変形した山茶碗を片口として使ったりしています。

 他にも、白岩焼であったり瀬戸であったり、民藝風のものもよく使います。白岩焼の斑は溶けた氷のように見えて、涼しげです。しかし得てして言えるのは、大きな片口は数多くあるんですが、片手で扱いにくい。一合そこそこの小ぶりな物って、案外少ないんですよ。もし見つけたら即買いですね。

 

——なるほど。

 

 

奥から瀬戸筒物、麦藁手向付、李朝塩笥壺、高麗青磁盃。

 

 

勝見 上の写真は、ビールを注ぐと美味しい器ばかり集めました。麦藁手はもともと蓋付きの向付ですが、ビール用に見立てて使っています。左は塩笥の壺ですが、これもビールに合う。どういうわけだか、ドイツの本格的なビールジョッキも、口が内向きに抱え込んでいるんですよね。一見して飲みにくい形にしてあるわけですが、この辺の感覚は実に微妙で、実は口当たりの良さだけがいい器ではないんです。時には、飲みにくい器でチビチビ味わってみたいという思いが潜んでいて、ひょっとしたら、万国共通、酒は有り難く、時間をかけていただくもの、という観念があるのかもしれません。

 あとは、酒器を外に持ち出して使うのも良いかもしれません。たまたま朝の骨董市で見つけたこのブリキ缶は重宝しています。アメリカのもので、香辛料や紅茶を入れて使っていたのではないでしょうか。最初はなんとなく買ったのですが、帰ってうちの徳利を入れたらぴったりで嬉しくなっちゃって。品物の国籍は違うけれど、僕には、つじつまが合うんです。あ、それなら盃は何にしようかと家中を探し出すんです。徳利が小さいから、盃も、となるとなかなか無くて。そう言えば、娘の成人式にあげたはずの魯山人の麦藁と合わせるとピッタリで、内緒で使わせてもらおうと。包む布にしてみても、徳利には、少し「洋物」の匂いがする茶系のチェック、ブリキ缶の外箱には、ユーロ圏のドットのバンダナで包めば、これで完成とばかり一人悦に入るのです。少しばかり重たさが気になるけど、どこに行くか当て所ない夏休みの一式ができたわけで、頼もしい気持ちになれます。

 

 

 この時期は、何より気持ちが軽くなる取り合わせが一番です。コックリとした味の唐津や雨漏りの堅手は秋からの季節に取っておいて、それこそ、今まで骨董市で衝動買いした物の中からでも、思い思いに取り合わせてみる。意外に渋い備前の片口にバカラのグラスが似合ったりして、自分ならではの発見ができるのも、夏の酒器選びの楽しみだと思います。

 

——ありがとうございました。

 

 

『目の眼』2020年8月号 特集〈夏酒器 掌の涼を楽しむ〉より

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夏酒器掌の涼を楽しむ

青柳恵介/勝見充男

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