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札のなかの万葉

百人一首と歌留多のこころ

History & Culture | 歴史・文化

百人一首

百人一首/奥野かるた店蔵/『目の眼』2014年2月号に掲載

 

百人一首かるたは、お正月遊びの定番のように思われているが、本来は季節を問わず楽しまれていたものである。

 

札あそびとしての百人一首やかるたは、室町時代末期にやって来たキリシタンたちが手慰みにしていた西洋式のカードゲームが、他のキリシタン文化、例えば鉄砲やカステラなどと同様に我が国に浸透し、成立したといわれている。しかし百人一首の場合は、西洋文化を和洋化したという単純なものではなかったようだ。そのバックボーンには、色紙(形)や歌仙絵、貝覆(かいおおい)、絵あわせという平安朝以来の連綿とした文化があり、それがカードという媒体との親和性が高かったため広く伝播し、長く流行したと考えられている。

 

 

百人一首

百人一首/奥野かるた店蔵/『目の眼』2014年2月号に掲載

 

 

色紙(形)とは、細長い短冊に対しての正方形に近い紙の呼び名で、そこに詩歌などを書き付け、邸宅の障子や屏風などに貼って鑑賞することが当時流行していたようだ。このことについて和歌研究者で日本大学名誉教授の有吉保氏は『百人一首』(桜楓社)のなかで、

 

 

「百人一首は、百人の歌人からそれぞれ一首を選んだという意味であるから、他の百人一首、例えば、後撰百人一首・新百人一首などと区別するために、小倉百人一首とよぶ。

古くは「小椋山庄色紙和歌」と言った。現存最古の注釈書の応永十三年奥書本に、

 

右百首は京極黄門小倉山庄色紙和歌也。  それを世に百人一首と号する也。

 

とあるごとく、室町期の古写本類にはほぼ同様の趣旨が述べられており、名称の由来が知られる。すなわち、京極黄門(藤原定家)の山荘が小倉山(京都の嵯峨)にあり、「色紙(形)和歌」として障子に書きつけたものと考えられていたからである。」

 

 

と述べられ、そもそも百人一首の成立には色紙(形)文化が深く関わっていたことがわかる。また歌仙絵についても同書のなかで、

 

 

「歌仙絵としては、公任撰の『三十六歌仙』に、歌仙絵が添えられていることは周知の通りである。その他、俊成撰の『三十六人歌合』とか、後鳥羽院撰『時代不同歌合』にも歌仙絵が添えられていたらしい。百人一首の場合も、頓阿(一二八九―一三七二)の水蛙眼目に、嵯峨の山庄の障子に、上古以来の歌仙百人のにせ絵を書きて、各一首の歌を書き添へたる。

 

とあるように、歌仙の似絵(肖像画)が添えられていたと推察できる。百人一首の場合、歌仙絵として、室町以前の存在は知られないが、他の歌仙絵としては、かなりの質量が知られている。

 

 

とあって、秀歌をその作者の肖像画を添えて楽しむという文化もかなり古くからあり、それが百人一首という一種の歌仙オールスターによる秀歌撰にも採用され、江戸期にカード化されて公家や武家の子女への和歌の入門テキストとしてその普及に一役買ったものと思われる。

 

 

百人一首

百人一首かるた 江戸時代後期/奥野かるた店蔵/『目の眼』2014年2月号に掲載

 

 

例えば白洲正子『私の百人一首』(新潮社)の「六十の手習 序にかえて」には、

 

 

「子供の頃私が使っていたかるたも、これ程上手ではないが、同じ種類のものであった。

やはり読み札には絵が描いてあり、書はお家流のたっぷりした肉筆で、だから字がよめない子供にも、形を見るだけでわかったし、歌は文字からではなく、音で覚えた。というより、歌と書は不可分のものであり、それに絵が加わって、百人一首という一つの世界をかたちづくっていた。昔の子供達はそういう風にして、遊びの中から自然に歌を覚え、文字を知っていった。」

 

 

とあり、まさにこれこそが「百人一首かるた」というものがこの世に生み出され、長きに渡って作り続けられてきた目的であろう。遊びのなかに学びがあり、学びのなかに遊びがあるのだ。

 

 

百人一首

百人一首/奥野かるた店蔵/『目の眼』2014年2月号に掲載

 

 


 

奥野かるた店

かるた、百人一首、花札、トランプ、囲碁、将棋などのカードゲームを中心に関連書籍などを取り扱う日本唯一のかるた専門店。店舗2階には展示スペースが設けられている。

所在地:東京都千代田区神田神保町2

https://okunokaruta.com/

 

月刊『目の眼』2014年2月号

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