雪山酔夢|宮中歌会始 近衞忠大 クリエイティブ・ディレクター 宮中歌会始の季節がやって来た。令和六年のお題は「和」だ。 さて、2023年の1月号では宮中歌会始とお菱花びらに少しだけ触れたが、宮中歌会始のあとに頂くお餐に関して書こうと思う。歌会始が終わると、両陛下よりお言葉を頂き、少し休んだ後にお食事を頂く。毎年歌を選んでおられる選者の方々、宮内庁の関係者、そして我々披講諸役、20人ほどが石橋の間(しゃっきょうのま)に移動。能楽の演目「石橋」に因んだ部屋なので、日本画に描かれた赤い鬣の獅子が睨みをきかしている。 諸役にとっては年末の練習から続いている緊張が解ける時でもあり、こちらでいただく熱燗が何より有り難い。尾頭付きの鯛、黄身をかけて焼いた鮭、大きなかまぼこ、炊いた人参と芽キャベツ、八つ頭膾。(なます)のお椀、鯛の刺身、生海苔などが乗ったお椀、蒸し寿司のお椀。 豪華とお思いかもしれないが、神饌のお下がりである事を感じさせるシンプルな盛り付けだ。一人前では無く持ち帰ることを前提にしている。生ものだけを頂いて、残りを持ち帰るのが作法。初めて歌会に上がった際にはそれを知らずに、全てを少しづつ頂こうと頬張ったが、その様な真似をしてはいけない。 皇居を後にすると披講諸役のみで記念撮影と、打ち上げをするのが習わしだったがそれもここ数年で簡素化されてしまった。時代とともに伝統も少しづつ代わっていくのは仕方が無いが、宮中歌会始自体も大きな変化にさらされている。ここ数年コロナ禍の影響でアクリル板が置かれたり、マスクをしたり本来の形で行われていない。一番困るのは、本来披講(註1)諸役全員が一つの机を囲むのに、密を避けるために全員が離れて座ることだ。その結果、所作が変わり、声の通りがいつもと違うので苦労する。 三年もすると、元の形を憶えている人が少なくなっていたりする。変化は継承された元の形があって始めて変化なので、元がわからなくなるのが一番怖い。元通りの形に戻るのはいつになるのか。 (註1)披講(ひこう):和歌を読み上げたり、詠じること。宮中歌会始で披講を行うメンバーを披講諸役と言う。 月刊『目の眼』2024年1月号より Auther 雪山酔夢 近衞忠大(このえただひろ) 1970年東京生まれ。公家、五摂家筆頭・近衞家の長男として生まれ、スイスで幼少期を過ごす。 武蔵野美術大学卒業後、テレビ番組、ファッションブランドの大型イベント制作などに関わる。特に海外との国際的な制作現場を数多く経験。伝統と革新、日本と海外といった違いを乗り越え 「文化とクリエイティブで世界の橋渡しとなる」ことを目指し、クリエイティブ・エージェンシーcurioswitch及びNPO法人七五(ななご)を設立、代表を務める。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第2号(2025.3月) 2025年上半期 骨董市&アートフェアガイド デジタル月額読み放題サービス 美術館の展覧会はもちろん、今年も古美術・骨董のイベントがたくさん開催されます。骨董・古美術のアイテムを蒐めるための入口はこれほどたくさんあるのに、どこに行ったらいいかわからない方も多いのではないでしょうか。目の眼では各地で開催される骨董市やフェア、注目のイベントを独自の視点で紹介します。 試し読み 購入する POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 夏酒器 勝見充男の夏を愉しむ酒器 Vassels | うつわ 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション 新しい年の李朝 李朝の正月 青柳恵介 People & Collections | 人・コレクション 骨董ことはじめ④ “白”を愛した唐という時代 History & Culture | 歴史・文化 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 超 ! 日本刀入門Ⅱ|産地や時代がわかれば、刀の個性がわかります Armors & Swords | 武具・刀剣 アンティーク&オールド グラスの愉しみ 肩肘張らず愉しめるオールド・バカラとラリック Vassels | うつわ 茶の湯にも取り入れられた欧州陶磁器 阿蘭陀と京阿蘭陀 Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂 KYOTO店主) 辻村史朗さんに”酒場”で学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの 小さな煎茶会であそぶ 自分で愉しむために茶を淹れる History & Culture | 歴史・文化 昭和時代の鑑賞陶磁ブーム 新たなジャンルを作った愛陶家たち People & Collections | 人・コレクション