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連載|真繕美

古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2

Ceramics | やきもの

 

数百年、千年の刻を生き抜いてきた古美術・骨董品は、どれほど大切にされてきた伝世品であろうとも全くの無傷完品の状態を保つのは難しく、補修は欠かせない。そこで陶磁器の修復では日本一と評される美術古陶磁復元師の繭山浩司さん親子の工房を訪ね、やきもの修復の現場を拝見させていただいた。

 

連載「真繕美」第2回は、日本一と評される美術古陶磁復元師の繭山浩司さんとご子息の悠さんの工房を訪ね、やきもの修復現場を拝見!
古い直しを外したあとの無地唐津茶碗の素地を整えていく過程を紹介していきましょう。

 

今回は、金直しを外したあとの素地に、調合した下地を埋め、整形していく作業を行う

大量にストックされた陶器や磁器の粉末と顔料から材料を選定していく作業には、経験と勘が要求される

 

 

前回(連載第1回の記事はこちら)、金直しを外したことによって、茶碗の口縁部数カ所に剥離した素地がむき出しとなりました。まずはこれらを埋めていく作業を行います。

 

色の調整の前に、まずは胎土の粗滑度、質感を合わせていく

 

すると悠さんは、作業机の横に設えられた棚や引き出しからいくつかのガラス瓶を抜き取り、机に並べ始めました。中には色とりどりの粉末が入っており、ラベルには名称らしきものと数字が記されています。

 

 

「この粉は、簡単に言うと、岩絵の具の原料となる天然石の粉末や、陶器や磁器の素地となる陶土や陶石をして粉末状にしたものです。基本となるのは〝岩白〟と呼ばれる白色のもので、ここに何色かの色を混ぜていくことで修復するものの色に近づけていきます。ラベルにある数字は粉末の細かさを示すもので数字が上がるほど細かくなり、ウチでは〝5〟から〝12〟あたりまでを揃えています。唐津焼は胎土の粗いものから細かいものまで幅広いのですが、今回の茶碗だと〝10〟あたりかな」と説明しつつ、慣れた手付きでガラス板に落としていく悠さん。そこに透明なジェル状の樹脂を合わせて練っていきます。

 

ガラス板の上に数種類の粉末と樹脂を調合し練っていく

 

 「岩白にはガラス質も多く含まれていて、練っているうちに透明度が上がっていくものもあるんです。先ほど説明した胎土の粗い細かいの再現も大切なんですが、とくに磁器の場合などは透明度の再現というのも私たちの仕事には重要なんですね」と浩司さんが補足してくださった。最近はやきものを見るときにライトで光を透かして見る人も多く、例えそうされても違和感のないように修復するのはなかなかに技術のいる仕事なのだそうだ。

 

まずは白いまま練り上げた原料を篦で掬って、茶碗の素地と合わせてみる悠さん。

「この茶碗はだから素地も滑らかですが、唐津の場合は砂を噛んだものもあるので、そういう場合にはもう一工夫必要なんです」とのこと。素地の質感を確認した上で、今度は色を載せていく作業。悠さんは少し考えて〝金茶〟〝丁字茶〟〝象牙色〟の三つを少しずつ配分を変えながら練っていく。

 

唐津茶碗に載せる色としては意外な青を少しだけ混ぜていく

こればかりはプロの経験値に拠るところが大きい作業だ

 

 「色合わせには様々なやり方があって決まりはないのですが、最初から多くの色を混ぜることはしません。唐津の場合、僕はだいたい三色を基本に調合します。ここで大事なのは、この段階では器肌表面の色味に合わせるのではなく、素地に合わせるということですね。化粧で言えば下地づくりのようなもので、この作業の後でとなるものを載せ、最終調整をしていきますので、若干薄めに仕上げておくのがコツです」と解説してくれた悠さんが、少し首をひねって「ここは青味が要るな」とつぶやいた。すると浩司さんが「赤味じゃないか?」と助言をはじめ、しばらく二人で意見の交換が続いた。結局、少量の〝紫群青〟を足すことでまとまり、練り上げた原料を篦と指で丁寧に載せていく。最後はやはり指の感覚が重要なようで表面の肌合いを作っていく。

 

篦で丁寧に埋めたあと、最後に指先のタッチで肌の調子を作る

 

このまま数日乾かして今回は終了。

次回は、いよいよ最終仕上げをご紹介する。

 

 

参考として見せていただいた「鸞天目」の修復見本。

赤い矢印の先で示した部分が修復箇所だそうだが、かなりアップで撮影しても境目がわからないほどの出来 !

釉薬を掛け流したような地文様まで完全に再現されている

 

 

『目の眼』2019年3月号 特集〈鉄斎さんと京都をあるく〉

Auther

繭山浩司・繭山悠

陶磁器の修復では日本一と評される美術古陶磁復元師の繭山浩司さん、悠さん親子。 修復の仕事を始めたのは名人と謳われた先代の萬次さんからで「直しの繭山」、「修復の魔術師」との異名をとるほどの活躍。その秘伝を当代の浩司さんと後継者の悠さんがすべて受け継いでいる。

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