新刊発売

「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と

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本田慶一郎がみつめる「まなざし」の先

 

 

 

10月5日より、全国書店にて発売となった新刊書籍「まなざしを結ぶ工芸」は、岐阜の大人気骨董店「本田」主人・本田慶一郎さんが初めて綴ったエッセイ集です。

 

5日〜6日と2日間にわたって、本書の刊行を記念した骨董即売会イベントを、代々木上原のhako galleryで開催し、会場では両日とも17時より本田さんのトークイベントを行いますが、チケットは告知からわずか3日ほどで全席完売となってしまいました。

 

ここでは本書を手に取ってくださった方、イベントには参加できないという方々のために、「まなざしを結ぶ工芸」はどのような思いで書かれたのか、本田慶一郎さんご本人にインタビューした記事の前半を紹介します。

*インタビュー後半は、目の眼倶楽部有料プランでご覧いただけます(目の眼オンラインストアへ

 

 

「本田」店舗外観

 

 

 

 

☯著書にこめたもの

 

━━ この度は初の著書刊行おめでとうございます。まずは「まなざしを結ぶ工芸」というタイトルについて教えてください。

本田 本書に掲載されている品々はこれまで僕が扱ってきたものたちで、ほぼ古いものばかりですが、今回は「工芸」として括りました。まえがきにも書いたように、この世界に入って15年、世界を旅しながら心惹かれる道具を探し続けてきたわけですが、実際に僕がものを選び取る瞬間というのは「直観」だけなんです。「これは売れそうだな」という計算はあまり浮かばなくて、一瞬の心の動きに反応して買ってしまう。そういうとき「新しいか古いか」「東洋か西洋か」というような価値観を一方に偏らせないことが大事なのかな、と最近感じています。骨董や古道具もそれを作った人がいて、買って使い続けた人を経て、僕と出逢った。自分にとって確かな工芸品なんだなと思いました。

 

 

━━ 今回の本は、そうした瞬間的に心惹かれたものと、それを見つめながら本田さんがじっくりと考えた物事が交差しながら進んでいきますね。

本田 グラビアページが充実していますので、写真集のように見てもらっても、文章を読んで一緒に考えてくださっても楽しめる本にできたらいいな、と思います。

 

 

━━ 骨董の世界に入って15年目とうかがいましたが、今回の本はその間に扱った品々の全体像を紹介していますか?

本田 いえ、この5〜6年の間に店や企画展などで紹介したものが中心で、その集大成といったラインナップです。それらはすでにお客様のコレクションとなっていまして、今回の本は、そうした品々を生み出した作り手、それを見つけて紹介した「伝え手」、さらにそれを継承してくださった「使い手」。時と場所を超えた3つの「まなざし」が交差したものですから、このタイトルにしました。

 

 

━━ 本を書く、という仕事はいかがでしたか?

本田 楽しかったですよ。でも、最初の書き出しまでが苦労しました。2週間くらい手が動きませんでしたね(笑)。ただ今回は、写真家の大沼ショージさんが、先に全作品を撮影してくださったんです。ウチの店と自宅と、すべて自然光で。ちょうど秋の光の美しい頃で、それを手伝いながら久しぶりにものと向き合う時間があって、書くことをまとめていった感じです。

 

 

━━ ものを眺めて感じたり考えたりすることと、それを言葉で伝えることはまた別物ですからね。

本田 そうですね、これまで言葉にできていなかった、ものに対する思いをことばにできたこともそうですが、今回の経験を経て、次の時代にどんなものを遺し伝えていくべきか、今後自分が扱っていくべきものを整理できたことが大きな収穫だと思っています。

 

 

 

 

 

━━ それはたとえばどんなものですか?

本田 象徴的なのは、表紙にも掲載した木馬でしょうか。本にも書きましたけど、あれはパリの蚤の市で見つけたものですが、最初は見逃して通り過ぎてしまったものなんです。そのとき同業者の知人の「正面を見て歩いても見つからない時は地面や空に眼を向けたりすると、いいものがあったりするよ、という言葉を思い出して見つけたものなんです。その木馬は、子ども用のおもちゃとして、身近にあった材木で作られたもので、いわゆるフォークアートなのですが、すでに子どもの玩具としての使命を終えて、のちに作業台にでも使われたのか背や腹は無数の疵痕だらけでした。でもボクには、その姿が使い込まれたウィンザーチェアとか、宗教美術として神社に安置された神馬のようにも見えました。他の人が見れば、何の用もなさないぼろぼろの木馬だって誰かの祈りを込めて作られたもの。立派な工芸品なんです。こういうものを見つけて採り上げていくのが僕の仕事なんだな、とあらためて認識しました。

あと、「聖アンナと聖母子の刺繍画」も木馬と同様、ボクにとって重要な作品で、この本を作るきっかけになった作品ですし、やきもので言えば、東洋磁器を写して作られたデルフトと、ヨーロッパへの輸出用として西洋を意識して作られた古伊万里を並べた「交差する憧憬」という展示会で紹介した品々は、まさに東洋と西洋の作り手のまなざしが交差したものですごく思い入れがあります。

 

 

 

 

 

 

━━ たしかに幾重ものまなざしが重なって、角度によって見え方が変わってくるものばかりですね。

本田 工芸品はその土地の風土と密接な関係があると思います。その土地で生まれ育った作り手が、何をどのように見ていたのか。そのまなざしが文様やかたちとなって生まれてくる。それを「民藝」というのでしょうが、それは日本ばかりでなく世界各地にあって、そんな知られざる民藝を追い求めていきたいなと思います。

 

 

━━ 本田さんのものを選ぶ感性が独特なのは、ご自身の眼だけでなくて、そうした複数の視点を重層的に見ているからなんですね。

本田 感性なんていうとちょっと恥ずかしいですけどね(笑)。この本には具体的なものの選び方とか買い物のコツなんかは書いていませんが、読者にとってものをみるヒントになればいいなと思います。

 

 

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