骨董ことはじめ③ 青磁 漢民族が追い求める理想の質感 RECOMMEND 前回、古陶磁に描かれた文様について少し紹介しましたが、無文(文様のない)のうつわも人気があります。 文様がない分、姿形や色味、器面(釉薬)の美しさへと目がいくので、洗練された造形のものが求められます。無文のものというと、日本人はつい白磁を思い浮かべますが、中国大陸ではなんといっても青磁です。その人気ぶりは圧倒的です。 重要文化財 青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆 南宋時代・13世紀 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 青磁とは、ごく簡単にいいますと青緑色の釉薬をまとった磁器の総称です。ただしひとくちに「青緑色」といっても一様ではなく、オリーブのような濃い緑を基調にしたものから明るく淡い緑、雨が上がったばかりの空色など、その色合いには多くのヴァリエーションがあり、青磁の鑑定はプロの美術商でも難しいといわれています。逆に、その違いを的確に判断できるようになれば骨董上級者と認められる、それだけ重要なジャンルでもあります。 重要文化財 青磁鳳凰耳瓶 南宋時代・13世紀 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 青磁のはじまりは、なんと殷の時代からあるといいますから、紀元前をずーっと遡る古代から現代に至るまで、中国では三千数百年にもわたって青磁を焼き続けているということになります。それも時代や民族、王朝、さらには生産地によって理想とする色合いが微妙に違ったといいますから彼らの青磁好きは筋金入りです。世界一のやきもの大国であった中国で、それほどまでに求められる青磁とは、一体どういう存在なのでしょうか。 龍文玉壁 戦国~前漢時代・前4~前2世紀 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 一説によると、それは玉(ぎょく)の質感を求めて生み出されたものといわれます。玉というのは、現代の鉱物学でいう軟玉(なんぎょく)の一種で、古代中国では金やダイヤモンドよりも断然に高く評価された石のこと。宝石のようにピカピカと光るのではなく、艶やかで潤いのある肌や、手に持った時のすべすべとした質感が愛され、また所有者に幸せをもたらす神秘のアイテムとして珍重されました。 ですから青磁をみるときは、色合いや姿形ももちろん大事なのですが、青緑色に澄んだ水がうつわに凝(こご)ったような、そんな風情を感じさせるものかどうかも重要です。そうした玉の質感を人工的に生み出そうとし、いつしか玉以上の質感を求めて中国の人々が挑んだ錬金術の精華、それが青磁といえるかもしれませんね。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年12月号・2026年1月号No.584 廣田不孤斎の時代 新しい美の発見者 廣田松繁(不孤斎 1897 〜1973)は、東京・日本橋に西山保(南天子)とともに壺中居を創業し、国際的評価の高い鑑賞陶磁の名店に育てました。今号は小説家の澤田瞳子さんをはじめ、不孤斎本人を知る関係者の方々を取材。旧蔵品や資料から、不孤斎が見出した美を特集します。 そのほか宮武慶之さんと陶芸家の細川護熙さんの対談や、デザイナーのNIGO®さん、起業家の伊藤穰一さんへのインタビューなど、現代数寄者やクリエイターの方たちを紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 眼の革新 大正時代の朝鮮陶磁ブーム 李朝陶磁を愛した赤星五郎 History & Culture | 歴史・文化 加藤亮太郎さんと美濃を歩く 古窯をめぐり 古陶を見る Ceramics | やきもの 書の宝庫 日本 人の心を映す日本の書 Calligraphy & Paintings | 書画 コラム|大豆と暮らす#5 消えかかる台湾との縁。台湾で生まれた祖父と、日本で生きた曽祖父の物語 稲村香菜History & Culture | 歴史・文化 連載|真繕美 古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2 Ceramics | やきもの 私家本拝見① |「島桑 江戸指物の世界」 受け継がれる美意識、指物師の魂が宿る「島桑」の美術工芸品をまとめた1冊 Ornaments | 装飾・調度品 昭和時代の鑑賞陶磁ブーム 新たなジャンルを作った愛陶家たち People & Collections | 人・コレクション イベント紹介|スキモノムスヒ 茶と酒と人と道具と 軽やかに結ぶ スキモノムスヒ Vassels | うつわ 2023年8月号 特集「猪口とそばちょこ」 不思議に満ちた そばちょこを追って Vassels | うつわ 百済から近代まで 歴史の宝庫、韓国・忠清南道(チュンチョンナムド) History & Culture | 歴史・文化 超 ! 日本刀入門Ⅱ|産地や時代がわかれば、刀の個性がわかります Armors & Swords | 武具・刀剣 夏酒器 勝見充男の夏を愉しむ酒器 Vassels | うつわ