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連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO)

辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(後編)

Ceramics | やきもの

*この連載記事は、『目の眼』電子増刊1号に掲載されています。

前号(『目の眼』電子増刊0号)からはじまった陶芸家・辻村史朗さんと永松仁美さんの「茶碗談義」。

 

 

 

 

「自分は学者でも研究者でもなく、歴史にも詳しくないから」と謙遜する辻村さんに無理をお願いし、数十年にわたる「作り手」としての経験からたどり着いた知見を、あくまで個人的見解として、できるだけ辻村さんの語り口そのままに紹介していきます。

 

今回は辻村さんが自分で建てたという茶室にご案内いただき、最近作のなかから気にいって育てているという大井戸茶碗で一服点てていただくところからスタートしました。ここでの話題は、辻村さんが惹かれたという「喜左衛門」、「六地蔵」、「老僧」という3つの名碗から井戸茶碗の勘どころ、読み解き方を教えていただきました。

 

 

 

 

 

 

技術では測れない井戸茶碗の魅力

 

喜左衛門

イラスト:植田工

 

永松 数十年も精魂込めて井戸茶碗を作り続けてきた辻村さんから見て、あらためて、喜左衛門の魅力ってどういうところにあるのでしょうか?

 

辻村 う〜ん、なんて言うたらええかな、なんとも言えん不思議な魅力がありますね。技術面から見ると轆轤がまともに回ってないし、決して上手とはいえません。実際「あんなん、アカン」と言う人もいるしね。でも眼が離せへんというか見入ってしまう。

 

永松 たしかに他の大井戸茶碗とくらべて雰囲気が違うと言いますか、一種異形ですよね。

 

辻村 造形的に大井戸茶碗の規範から外れてるんやね。梅皮花(かいらぎ)なんかも、たとえば細川井戸は高台の削ったところにキレイに並んでるでしょ。あれは意図的に狙った通り上手に作ってます。でも喜左衛門の梅花皮は片側に偏ってついてたりつかなかったり、たまたまこうなったという偶然性があるよね。

 

永松 規格から外れたおもしろさですね。

 

辻村 あと、梅花皮が真っ白なんや。

 

永松 え? 梅花皮って白いものでしょ?

 

辻村 あそこまで真っ白なんは喜左衛門だけなんですよ。

 

永松 そうなんですか、気づきませんでした。そういう変わったものが国宝に指定されてるのがおもしろいですね。

 

辻村 これは最初に取り上げた人がすごい。茶人の美意識なのか、お茶だけではない日本人の感性なのか。当時の韓国ではまったく評価さてなかったわけやからね。

 

 

 

六地蔵と老僧のかたち

 

六地蔵

イラスト:植田工

老僧

イラスト:植田工

 

 

 

 

永松 喜左衛門のほかに好きな井戸茶碗はありますか?

 

辻村 六地蔵と老僧かな。

 

永松 辻村さんはどちらも挑戦されてますね。どういうところに惹かれますか?

 

辻村 老僧や六地蔵は、大井戸に対して小井戸(古井戸)と呼ばれてるけど、当時の職人からしたらどうやら区別して作ったわけじゃなさそうなんや。

 

永松 といいますと?

 

辻村 これも実際に作ってみて実感したんやけど、轆轤作業するときは玉錬りにした土を事前に用意して、その塊から取っていくやろ。で、職人は大井戸から作りはじめる。なんでかいうと、大井戸が基本の製品で、いちばんお金になるからや。で、最後に残った土を引いてみたら量が足りない。それをギューっとひいてなんとか茶碗にしようとすると六地蔵や老僧みたいな形になる。

 

永松 そうなんですか!

 

辻村 無理に引き上げるから全体的に薄造りになるし、大井戸茶碗の形にはなりきれてない。それに高台も破れやすくなってるからあまり深く削れへん。六地蔵なんかほぼ削らずにそのままやろ。だから全体に対して高台の比率が大きくなるんや。

 

永松 なるほど、作り手からみると、六地蔵や老僧の造形が実に合理的に説明できるんですね。

 

辻村 あくまで個人的見解やからな(笑)

 

永松 でも作り手が、大井戸を主要製品として作り、余った土を使って小さな茶碗や、ぐい呑みとか皿を作ったという様子はよくわかりました。これまで六地蔵と老僧は、土の色味や景色が深くて、大井戸とは違う土で焼いているのかな、と思ってました。

 

辻村 井戸茶碗の土や釉薬についてはいろいろ言う人がいますけど、少なくとも大井戸と小井戸は基本的に一緒やと思ってます。青井戸に関してはちょっと粗っぽい土を感じるから、もしかしたら採った場所や精製方法が若干違うのかもしらんけどよくわかりません。

ただ井戸は基本的にその土地で普通に採取できた原料で、特別なもんは使ってないよ。実際ウチで作ってるのは近くの山で採った土やし、釉薬はふつうに売ってる合成土灰やし。色味とかは焼成方法でぜんぜん変わるよ。たとえば最初に出したこの茶碗[下 辻村史朗作/大井戸茶は前回話した還元の煙をたっぷり含ませて焼いたから黒っぽく上がって景色がついて見えるけど、2ヶ月前に作ったもんや。

 

 

 

永松 これで2ヶ月しか経ってないの?

 

辻村 ここだけは技やな(笑)

 

永松 そういうことオープンにしてるところが辻村さんのすごいところですよね。みんなビックリしはりますもんね。

 

辻村 別に秘伝でもなんでもない。前に偉いセンセイが個展を見に来てくれて、「これは良い釉薬を使ってるなあ」と褒めてくれたけど、いやいや、普通の合成土灰でっせ、ちなみに窯は電気窯でっせ、て説明したけどぜんぜん聞いてくれへんかった(笑)

 

永松 井戸のおもしろさはよくわかりました。ありがとうございます。次は志野について教えてください。

 

 

 

 

井戸茶碗〈前編〉は、こちらからご覧いただけます。

 

次回(『目の眼』電子増刊4号に掲載)は場所を変えて、志野茶碗のお話をうかがいます。

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