展覧会紹介

世界有数の陶磁器専門美術館、愛知県陶磁美術館リニューアルオープン

Ceramics | やきもの

愛知県陶磁美術館

 

やきもの好き必見の愛知県陶磁美術館が2023年6月から始まった改修工事を終え、4月1日にリニューアルオープン!3月30日に開催された開会式と内覧会を取材してきました。

 

 

 

 

愛知県陶磁美術館は、愛知県瀬戸市で発見された猿投窯(さなげよう)の遺跡・遺物を保存するため、1978年に開館。猿投山麓にある広大な敷地は28万平方メートル、東京ドーム約6個分。芝生が広がる気持ちのよい丘の中に、本館、南館、茶室「陶翠庵」、古窯館(窯の記憶Ⅰ,Ⅱ)、窯焚き広場などがあります。

 

今回のリニューアルは、建設からもうすぐ50年となる建物の改修工事なので、一見大きく変わったところはありませんが、これを機会に、学芸員の皆さんが、各施設に愛称をつけ、館内ガイドを一新するなど、より親しみやすく、分かりやすい展示になるよう工夫されたそうです。また作品がよく見えるよう太い枠のないガラスケースも追加導入されました。

 

 

 

 

 

 

新シュウ蔵品展 世界のやきものが集合!

 

リニューアルオープン第一弾は、購入・受贈によって新たに収蔵されたやきものを一堂にした展覧会。

展覧会タイトルの「シュウ」がカタカナのわけは、「秀」、「捜」、「受」、「拾」、「祝」、「修」など色々な意味をもつ漢字を展示のチャプターにしているため。その意味をたどりながら、展示作品の一部をご紹介しましょう。

 

 

 

【秀】 愛知県陶磁美術館の新たな顔となる瀬戸窯 至極の名品

 

灰釉蕨手文手付水注

 

愛知県指定文化財

灰釉蕨手文手付水注(かいゆうわらびてもんてつきすいちゅう)

瀬戸窯 鎌倉時代(14世紀前半) 令和2年度市橋保氏寄贈

 

 

愛知県陶磁美術館が建つ猿投山麓にあった古代最大の窯・猿投窯。その技術が伝播して開かれた瀬戸窯の名品が、2020年(令和2年)に愛知県陶磁美術館に寄贈されました。

この手付水注は、中国の水注をモデルに作られた逸品で、北大路魯山人の旧蔵品として古くから知られています。

 

灰釉とは、草木の灰を水に溶かした釉薬のこと。土でつくった器の表面に掛け、窯に入れて焼くと、釉薬がガラス質になり、様々な発色の光沢のあるやきものになります。

 

蕨手文は、やきもの表面に描かれた装飾文様です。古い瀬戸焼(古瀬戸)には、中国から伝わった印花文という技法で、装飾文様をスタンプしたやきものがあります。文様には一つ一つ名称が付けられていますが、この水注の特徴をもっとも表す文様として、蕨手文が名称に用いられています。

 

 

 

【受】 数多くの個人コレクションを受贈することで充実してきた収蔵品

 

愛知県陶磁美術館では、あらゆる時代・地域のやきものの寄贈を受け、収蔵品の大半を占めるそうです。今回の展覧会では、近年に受贈したやきものを時代別、地域別、ジャンルごとに紹介しています。

 

 

浮彫海の幸文花瓶

 

浮彫海の幸文花瓶(うきぼりうみ の さちもんかびん)

帯山与兵衛(八代、九代)作 明治10年代前後(1870〜1880年代)

令和6年度楠部敦子氏寄贈

 

 

帯山与兵衛(たいざんよへえ)は、江戸時代に代々京都の粟田口焼を制作していた陶工。明治以降の八代、九代の作品は京薩摩と呼ばれる華やかな花鳥が描かれた装飾的な輸出向けの作品を多く制作しました。本作品は、立体的に造形された波文様にフグやタコ、エイなどが単色による印影で効果的に表現された異色な作例。

 

 

 

 

【捜】 日本のやきものを語る上で重要な作品を捜索!

 

 

黄瀬戸手鉢 岡部嶺男 作

 

黄瀬戸手鉢 岡部嶺男 作  昭和41(1966)年頃

令和5年度購入

 

 

岡部嶺男(おかべ みねお 1919〜90)は、瀬戸の窯業を営む家に生まれ、瀬戸焼の陶芸家、古陶の研究家として知られた加藤唐九郎の長男。瀬戸焼の伝統技法をもとに独自の作風を展開し、その作品は今でも高い評価を受けています。

 

桃山時代の黄瀬戸とは全く異なる岡部嶺男の黄瀬戸は、地元瀬戸焼の近現代史を伝えるうえで是非とも収蔵したい作品。それが令和5年度に購入され、「ようやく収蔵」と解説のタイトルに付けられて、展示されています。

 

 

 

【祝】 お祝いにつかわれるやきもの

 

めでたいことや記念日の祝杯をあげるため、特別なやきものが作られたりします。愛知県陶磁美術館の開館記念では、もちろん祝杯はやきもので?(笑)。

 

展示では、「日常生活(ケの日)とは異なる非日常(ハレの日)に用いる作品、文化的・儀式的な側面」として、伝統文化への理解を深める「祝蔵品」が紹介されています。

 

 

色絵四君子文煎茶器揃

 

色絵四君子文煎茶器揃(いろえしくんしもんせんちゃきそろえ)

犬山焼  大正12年(1923)頃

令和元年度小島玲子氏寄贈

 

 

この煎茶器揃は、箱に「鳴海杻神社(なるみてがしじんじゃ)社務所竣成記念」と書かれています。鳴海杻神社は犬山市にある神社。地元のやきもので祝いの煎茶器が作られたのでしょう。

 

四君子とは、梅・竹・蘭・菊を徳の高いめでたい草木として称える言葉。お祝いにふさわしい文様が描かれ、金彩も施された豪華な煎茶器です。

 

 

 

【什】 柳宗悦が絶賛し、今も愛される日常雑器の美

 

瀬戸の窯は鎌倉時代から何百年もの間、日常雑器を生産し、東日本では、やきものをすべて「せともの」と呼ばれるほど、瀬戸焼は人々の暮らしに浸透していました。

江戸時代後期には、九州の有田で生産される磁器が庶民の間でも使われるようになり、瀬戸でも長石を用いる白くて硬いやきもの=磁器を作るようになります。そこで、土を素材にした従来のやきもの=陶器を「本業焼」、磁器を「新製焼」と呼んで区別しました。

 

 

片口鉢・入子片口・壺・信玄弁当・蓋付茶碗・徳利 瀬戸窯

 

片口鉢・入子片口・壺・信玄弁当・蓋付茶碗・徳利

瀬戸窯 江戸時代後期〜近代(19世紀頃)

令和6年度松浦繁蔵氏寄贈

 

 

本業焼として品野で作られていた麦藁手(むぎわらで)・木賊手(とくさで)とも呼ばれるたてじま文様のやきものは、民藝の提唱者で知られる柳宗悦が、著書『手仕事の美』の中で「日常の雑器でおそらく今一番よい品を作るのは品野であります。」と紹介したことで知られています。

 

 

 

【拾】 失われた窯趾からの貴重な資料

 

猿投窯

 

東山G-52・72号窯跡出土品

猿投窯 愛知県名古屋市  平安時代末期(11世紀末〜12世紀前葉)

令和6年度加藤久枝氏寄贈

 

 

平安時代末から鎌倉時代初めにかけての12世紀は、猿投窯の復興期と称され、名古屋市東部にあたる猿投窯東山地区には百ヵ所近い窯趾があったそうです。しかし開発が進み、現在では失われています。

 

生産内容を伝えられる貴重な資料が寄贈され、展示されています。

 

 

 

 

 

萱刈窯跡出土品

瀬戸窯 鎌倉時代末期(14世紀)

令和6年度加藤清之氏・加藤惇氏寄贈

 

 

多彩な文様が刻まれた瓶子や四耳壺片。魚波文の瓶子片は、重要文化財の灰釉魚波文瓶子(名古屋市博物館蔵)と同種のもので、表面いっぱいに見事な文様が入っています。

 

 

 

 

愛陶コレクション展 世界はやきものでできている

 

 

 

 

広い展示フロアを活かし、古代中国から近代ヨーロッパまで、世界中のやきものが展示されている常設展示。リニューアルオープンに合わせ、「愛陶コレクション展 世界はやきものでできている」と名称変更。

 

愛知のやきものを収蔵公開する資料館としてスタートした愛知県陶磁美術館は、現在ではおよそ8000件ものやきものを収蔵しており、世界のやきもの巡りができる総合的な陶磁専門の美術館として、アピールするにふさわしい展示です。

 

 

 

学芸員の企画が光る特集展示

 

このほか、学芸員が専門を活かしたテーマで作品10数点を展示する特集展示が多数行われています。スペースは広くないながら、個人蔵の作品も借用展示するなど、力の入った展示です。その中の一つをご紹介します。

 

 

【名古屋のやきもの】

 

愛知県はやきもの一大産地というだけあって、有名な瀬戸焼、常滑焼以外にも、様々なやきものが焼かれていました。

その中で、江戸時代に名古屋市とその周辺で焼かれた豊楽焼・笹島焼・藩士が余技として焼いた個性的なやきものを紹介。まだまだ知られざるやきものがある愛知の奥深さを知ることができる展示です。

 

 

岩絵具加彩撫子文瓶掛

豊楽焼 画:近藤美山  弘化2年(1845)  個人蔵

 

豊楽焼は、名古屋市の中心部、大須・前津付近で焼かれていた楽焼。1700年代から1920年代ごろまで焼かれていたそうです。楽焼とは、轆轤を使わず手ごねで作り、低温で焼かれた軟質施釉陶器です。主に抹茶碗や水指、茶入など茶陶が作られました。

 

 

 

河豚鉢・椎茸鉢

笹島焼 江戸時代後期(19世紀前半)

個人蔵

 

笹島焼は文化年間(1804〜18)に、名古屋の笹島(現在の名古屋市中村区付近)で、牧朴斎(1782〜1857)が開いた軟質施釉陶器窯。彫刻を得意とし、趣味性の高いうつわを制作しています。

 

 

 

【器になった動物たち】

 

古今東西、動物をかたどった器が展示されています。

 

 

 

鉄釉牛手焙(てつゆううしてあぶり)

瀬戸 加藤春宇 江戸時代後期(19世紀)

個人蔵

 

 

手焙とは、炭を入れて温め、暖をとる器具。陶器製が多く、動物の形をしたものが多いそうです。優れた表現の逸品。

 

常設展示は一年を4期に分けて、毎回テーマが変わるようにするそうです。特集展示もかわるがわる展示替えされるそうで、来館するたびに異なる展示が見られるようにするとのこと。リピーターになる方も増えそうですね。

 

 

 

リ・デザイン・狛犬

 

それまで西館で展示されていた陶製狛犬コレクションが、らせん状の台を使った立体的な空間展示で、正面入口入ってすぐのロビーで来館者を迎えています。

 

これらの陶製狛犬は、著名な陶磁研究家である本多静夫氏のコレクションを中心とした、愛好家の間ではよく知られた名コレクション。ぜひじっくり観て帰りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

洗面ボウルを陶芸作家作品に

 

リニューアルされた一階の入口すぐのトイレの洗面ボウルを瀬戸・常滑の作家が制作。やきものの美術館らしい内装に。

 

 

 

 

 

近くには愛・地球博記念公園内のジブリパークもあり、名古屋の行楽ゾーンとなっている愛知県陶磁美術館。

車があると便利ですが、電車の場合は、名古屋駅から東山線に乗って藤ケ丘駅でリニモに乗り換え。陶磁資料館南駅で下車して、南館まで600m。徒歩約15分です。

南館は来年2026年1月に開館予定。茶室も整備し、オープンする予定とのこと。今後のさらなる企画が待たれます。

ぜひ足を運んでみましょう。

 

 

 

「新シュウ蔵品展-美術館シュウシュウのあれこれ」

会 期: 4月1日(火)〜5月6日(火・振休)

休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合、翌火曜日は休館)

※5月5日(月・祝)・5月6日(火・振休)は開館

観覧料:一般 400円、高大生 300円、中学生以下無料

https://www.pref.aichi.jp/touji/index.html

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