骨董ことはじめ④ “白”を愛した唐という時代 History & Culture | 歴史・文化 白釉龍耳瓶 中国・唐時代 7世紀 九州国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 前回、中国大陸では古来より青磁の色や質感を至上の美として尊重し、2000年以上にわたって青磁を作り続けてきたと紹介しました。しかし6世紀から7世紀にかけて、混乱する中国大陸を統一王朝へとまとめあげた隋、そして唐という帝国では、一転して白磁が精力的に生産され、いまに伝わる名品を焼いています。 なかでも唐は、歴代の中国王朝のなかでも、これまでになかったちょっと独特な政治と文化を展開しましたが、その要因の一つに、皇帝となった李氏が漢民族ではなかったことが挙げられます。 白磁杯 中国・隋時代 7世紀 東京国立博物館 横河民輔氏寄贈 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 意外に思われるかもしれませんが、中国という国はもともと多民族国家であり、古代の殷の時代から、周、秦、漢と周辺の諸部族を制圧し、まとめあげるかたちで拡大しましたが、それでも文化圏としては同じ“漢民族”という括りのなかで広がっていきました。しかし日本人の大好きな三国時代以降は、北方の遊牧、騎馬民族など国境を超えた異民族が入り乱れての興亡を繰り広げ、それを7世紀になってようやく治めたのが、鮮卑と呼ばれるモンゴル系出身の貴族、李氏でした。 異民族といっても、すでに何代にも渡って漢民族と婚姻関係を経て、中原の文化に親しんでいた李氏でしたが、王朝成立にあたって従来の枠を超えた政治文化を展開しました。その一つが唐白磁や唐三彩と呼ばれるやきものです。先ほども書いたように古来漢民族は何よりも青磁が好きで、数千年も焼き続けているほどです。しかし唐ではそこから脱却して新しい表現を生み出したのです。これはまたほぼ同時代に王朝交代を行った朝鮮王朝(李氏)の白磁文化にも大きな影響を与えます。新しい時代に新しい美の基準をつくるのは、王朝のつとめともなりました。 白磁壺 朝鮮時代 18世紀 東京国立博物館 横河民輔氏寄贈 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 後に版図を中央アジアの先まで広げると西域の金工技術や唐草文・狩猟文といった文様なども伝わり、超絶技巧の金器や銀器も盛んに作られるようになりました。また当時、中国大陸では新興宗教の一派と見られていた仏教を国教とし、広く定着するのも唐の時代で、そうした唐の文化が世界各地に波及し、やがて奈良時代、平安時代の日本に大きな影響を与えます。同じく“白”を愛した日本にとっても憧れの大帝国というイメージが長く遺っていくのです。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第4号(2025.6月) 林屋亀次郎の眼 デジタル月額読み放題サービス 今特集は、書籍「林屋亀次郎の眼」(2025年6月発行)の見どころを紹介。昭和初期の実業家・林屋亀次郎の人物像や、コレクションのなかから名品をセレクトして茶道具の必須アイテムを初めての方にもわかりやすく解説しています。茶道具の来歴や人となりを知ることで、コレクションへの理解が深まるきっかけになればと思います。 また今回から「シリーズ連載 目の眼的骨董遊学」と題し、各地の骨董街とそこに佇む古美術店を訪ねるレポート記事を紹介していきます。今回はそのスタートとして上野・湯島・本郷にスポットをあてていきます。 試し読み 購入する POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 古信楽にいける 花あわせ 横川志歩 Vassels | うつわ 眼の革新 鈍翁、耳庵が愛した小田原の風 People & Collections | 人・コレクション TSUNAGU東美プロデュース 古美術商が語る 酒器との付き合い方 Vassels | うつわ 骨董ことはじめ③ 青磁 漢民族が追い求める理想の質感 History & Culture | 歴史・文化 骨董ことはじめ⑦ みんな大好き ”古染付”の生まれた背景 Others | そのほか リレー連載「美の仕事」|澤田瞳子 澤田瞳子さんが選んだ古伊万里 Ceramics | やきもの 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの 世界の古いものを訪ねて#2 アルフィーズ・アンティーク・マーケット|イギリス・ロンドン Others | そのほか 眼の革新 時代を生きたコレクターたち People & Collections | 人・コレクション 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション アンティーク&オールド グラスの愉しみ 肩肘張らず愉しめるオールド・バカラとラリック Vassels | うつわ 2023年8月号 特集「猪口とそばちょこ」 不思議に満ちた そばちょこを追って Vassels | うつわ