骨董ことはじめ⑧

昭和100年のいまこそ! 大正〜昭和の工芸に注目

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みなさんご存知でしたか? 実は今年は〝昭和100年〟にあたるんですって!

 

最近は若い人たちのあいだでレトロブームと呼ばれて、昭和や平成に流行ったものが注目されています。たしかにこの時代は日本人独特の感性が発揮されてユニークなモノたちが溢れていました。たしかこの連載の初回で、「アンティークの基準は100年以上前のもの」と紹介しましたが、いよいよ昭和の文物がアンティークの仲間入りするわけです。

 

骨董の世界では、早くから昭和モノが人気で、骨董市・蚤の市などでは専門のショップも多く出店しています。ただ古美術となると、絵画以外の美術工芸品で昭和の時代を積極的に扱っているところはまだ少ないでしょう。

 

 

髪梳ける女

橋口五葉筆 髪梳ける女 1920年(大正9年)  東京国立博物館所蔵[出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)]

 

 

 

一方、明治の美術工芸は、すでに国立の美術館でも展覧会が開催され、たとえば自在置物や正阿弥勝義などの金工品をはじめ七宝、彫刻、陶磁器の優品など、海外のオークションでは一点数千万という価格で取引されている状況で、その価格はまだ上がるのではないかと見られています。そうすると今後は大正~昭和時代の工芸をどのように評価するのか、どう価値を高めていくのか、ということが重要になってくるかと思います。

 

 

老猿

老猿 高村光雲作 1893年(銘字26年)
東京国立博物館所蔵[出典 ColBase (https://colbase.nich.go.jp)]

 

 

自在蟷螂置物 

自在蟷螂置物 高瀬好山作 大正〜昭和時代 20世紀
東京国立博物館所蔵[ColBase (https://colbase.nich.go.jp)]

 

 

日本は外圧に弱いとよく言われますが、実を言いますと、たとえば日本の明治工芸は何十年も前から欧米では評価が高かったのですが、それをほとんどの日本人が知らず、評価されなかった時代がありました。明治の工芸は、もともと海外向けに作られたものが多かったということも一因でした。明治維新でパトロン(庇護者)を失った江戸の職人たち、主に刀装具や調度品を作っていた金工師や、やきもの師たちは、明治政府が出展した万国博覧会で日本の工芸品が大好評を博したことを知り、外貨を獲得したい政府の意向もあって、輸出用の工芸品を作ることに注力しました。そのためこの時代の名品はほとんどが海外に輸出され、日本人の眼にふれていなかったのですが、この10年、20年でようやくその真の姿が知られ脚光を浴びるようになったのです。

 

いま、海外の目ざといディーラーのなかには大正時代の工芸品に注目している人もいます。昭和100年を迎えた今年、大阪・関西万博が開催されていますが、そのテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。未来に眼を向けることはもちろん大事ですが、いまのうちに大正〜昭和の美を日本から発信していけるといいですね。

 

 

鴻池家伝来永楽関係資料 交趾釉猫形手焙(白)

鴻池家伝来永楽関係資料 交趾釉猫形手焙(白) 永楽善五郎(16代) 昭和時代・20世紀
京都国立博物館 Kyoto National Museum所蔵[出典 ColBase (https://colbase.nich.go.jp)]

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