コレクションの魅力 大聖雄幸 大聖寺屋代表 『The George Eumorfopoulos Collection 』 by Hobson,R.L. Ernest Benn, Ltd., London 1925-28 シングルオーナーセール、それは一つのコレクションの出品から成るオークションをいう。中でも、長い年月を経てなお調和を保っていたコレクションのセールは、作品の魅力を引き立て、より人々の関心を集める。最近では、Christie’sのR.F.A. Riesco Collectionや、BonhamsのWrangham Collectionのシングルオーナーセールが記憶に新しい(2014年時)。 古美術品はその性格上、流通する量は限られており、質の高い作品は市場に不足している現状にある。その中で、海外に赴き魅力ある作品を日本にもたらす事は、市場の活性化を図るうえで重要な意味を持つ。特に中国美術に関しては、欧米に伝来しているコレクションのセールにおいて、価値ある作品と出会えることが多い。 ヨーロッパには、17世紀から東インド会社により毎年何万点もの東洋陶磁器が運ばれたという歴史的背景がある。そして、20世紀初頭に起こった中国の動乱に端を発した文物の大量流出を契機に、中国美術は欧米を中心とした巨大市場を形成した。特にイギリスは中国陶磁器の研究がどこよりも進んでおり、現在大英博物館に収蔵されているPercival DavidやGeorge Eumorfopoulosなどの偉大なコレクションを数多く輩出している。1925年〜1928年に発行された後者のコレクション図録は、当時としては数少ない中国陶磁書物として、日本の研究者や収集家に多大な影響を与えた。 私が初めてイギリスの歴史あるコレクションのセールと出会ったのは、ロンドン市内から車で一時間ほど離れた、小さなオークションハウスである。まるで町工場のような建物の階段を上がると、待ち受けていたのは「Mrs. Otto Harriman Collection」であった。それは1940年代から60年代にかけて収集された、明時代の官窯磁器を中心とするコレクションである。簡素な下見会場に無造作に並べられた30点余りの作品群は、眩い光を放っているかのようだった。大明宣徳年製在銘の青花龍文鉢や明時代初期の釉裏紅鉢など、数ある名品の中で特に私の目を引いたのは、大明嘉靖年製在銘の青花龍文皿であった。それは私の知る限り嘉靖期の青花皿としては文様の精妙さ、コバルトの発色の艶やかさにおいて白眉といえる作品であり、これを日本に持ち帰ろうという思いを胸にパドルを手にした。しかし、いざオークションが始まるとみるみるうちに競り上がり、手に入れることが出来なかった。残念であり悔しくもあったが、半世紀にわたり維持されてきたコレクションの、最後の姿に立ち会えたことに感謝し会場を後にした。 コレクターの審美眼や収集スタイルを反映したシングルオーナーセールには、人を惹きつける不思議な魅力がある。そういったコレクションとの出会いもまた、オークションの楽しみの一つである。 目の眼2014年4月号 Auther オークション紀行 第2回 大聖雄幸(だいしょうゆうこう) 大聖寺屋代表。大阪の老舗茶道具商で修業後、東京にて東洋陶磁器を中心に取り扱っている。 この著者による記事: オークションを楽しむ COLUMN大聖雄幸 RELATED ISSUE 関連書籍 2014年2月号 No.449 百人一首と歌留多のこころ 日本の正月の定番、かるたや百人一首。江戸時代初期に西洋からもたらされたカードゲームの影響から始まったといわれます。あまり知られていない江戸期の札の美と、そこに込められた日本の文化をご紹介します。ほかにも特集をご紹介し豪華三本立 ! 根来特集でもご登場頂いた黒澤和子さんに、父・黒澤明のお正月料理と器を教えて頂く「黒澤家のお正月」。大英博物館で開催され大人気の「春画」展。ここでしか読めない展覧会担当者とコレクターの対談を掲載! 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 百済から近代まで 歴史の宝庫、韓国・忠清南道(チュンチョンナムド) History & Culture | 歴史・文化 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 骨董ことはじめ① 骨董と古美術はどう違う? History & Culture | 歴史・文化Others | そのほか 加藤亮太郎さんと美濃を歩く 古窯をめぐり 古陶を見る Ceramics | やきもの 骨董ことはじめ⑧ 昭和100年のいまこそ! 大正〜昭和の工芸に注目 Others | そのほか 阿蘭陀 魅力のキーワード 阿蘭陀の謎と魅力 Ceramics | やきもの 古唐津の窯が特定できる「分類カード」とは? 村多正俊Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(後編) Ceramics | やきもの 羽田美智子さんと巡る、京都の茶道具屋紹介 茶道具屋さんへ行こう Vassels | うつわ 「美の仕事」特別編 池坊専宗 中国陶磁の色彩にあそぶ Ceramics | やきもの 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画 根付 怪力乱神を語る 掌の〝吉祥〟を読み解く根付にこめられた想い Ornaments | 装飾・調度品