オークションを楽しむ

大聖雄幸

大聖寺屋代表

カン!”ハンマーを打ち付ける音がするや否や会場から大きな拍手が沸き起こった。それは8年前、香港で開催されたオークションで、美しい明時代の壺が日本円にして約11億円で落札された瞬間であった。当時学生であった私がオークションに魅了された瞬間でもある。それから時は流れ、現在美術商となった私は毎月のように海外のオークションに出掛けるようになった。

 

この度、目の眼編集部より古美術を中心とした海外のオークションを紹介するという機会を頂きました。近年、中国の経済成長の影響もあり、海外のオークションは大変盛況になっています。しかし、そこに参加する日本人は極めて少なく、また日本から海外へ名品が流出している傾向にあります。本コラムを通じ、オークションを身近に感じて頂き、海外から日本に古美術の名品を一つでも多くもたらす一助となることを願っております。

 

海外のオークションとは、古美術品を収集する人にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。それは質の高い作品を購入できる場であることは勿論、マーケットに関する情報の入手や目の研鑽に役立つと同時に、美術を楽しむ場であると考えます。そして、クリスティーズやサザビーズに代表される海外のオークションは、それらを満たす場として実に有意義な存在なのです。そういったオークションは開催される数日前から下見会が行われ、下見会場へは何の手続きも必要なく誰でも入ることが出来ます。会場では一堂に会した数多くの質の高い作品を一点一点見る事が出来、オークションの目玉となるような美術館クラスの作品も同様に手に取る事が出来ます。

 

私にとってオークションの楽しみは、カタログを受け取った瞬間から始まります。カタログに自分の欲しいものがないか、期待を膨らませページをめくります。もし好奇心が掻き立てられる作品があれば、形、色、質感など作品に対する想像がめぐり、オークション会場へ一刻も早く行きたい衝動に駆られます。また会場で下見していると、カタログでは気にも留めなかった作品に興味をひかれ、気に入ってしまうこともあります。

 

アジア美術の場合、ニューヨークやロンドンでは大手オークション会社のセール時期に、アジアウィークというフェアが開催されます。その期間、現地のギャラリーや美術館はアジア美術のイベントで賑わい、様々な人が美術を通じて交流する場となっています。期間中に現地のギャラリーを覘くと、日本の市場ではあまり流通していない珍しいものを見かけることもあります。

 

オークションにおいて、美術品を手に入れることは一番の目的であり、楽しみでもありますが、手に入れるまでの過程もオークションの大きな魅力なのです。そして海外のオークションに参加するということは、そこに付帯する事象も含め美術を楽しむ一つの方法であると言えるでしょう。

 

目の眼2014年2月号

Auther

オークション紀行 第1回

大聖雄幸(だいしょうゆうこう)

大聖寺屋代表。大阪の老舗茶道具商で修業後、東京にて東洋陶磁器を中心に取り扱っている。

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