箱根小涌谷 岡田美術館、2013年オープン時のコレクションを振り返る

RECOMMEND

2025年11月22日にサザビーズ香港にて、岡田美術館の東洋美術コレクションの一部125点がオークションにかけられます。再発見として話題となった喜多川歌麿「深川の雪」をはじめとする浮世絵や円山応挙、横山大観などの日本絵画、宋〜元時代の鈞窯の梅瓶、古九谷や織部などの中国、日本の陶磁器の名品、優品が出品されます。

 

目の眼では、2013年10月4日のオープン前を取材。初代館長(2025年2月に退任)の小林忠氏に、白洲信哉氏(元 目の眼編集長)がお話を伺いました。2013年11月号に掲載しましたその際のスペシャル・インタビュー記事を再録します。

 

 

 


 

2013年10月4日、箱根小涌谷・岡田美術館開館 近年稀有な個人コレクションがついに一般公開された

 

 

インタビュー◎小林 忠氏 岡田美術館館長(2013年当時)

聞き手:白洲信哉 本誌編集長 (2013年当時)

 

 

10月4日、箱根に東洋美術の巨大美術館が誕生する。実業家・岡田和生氏のコレクションを一般公開するという近年ではめったにない快挙だ。館長に就任された学習院大学名誉教授の小林忠先生に、開館間近の館内をご案内頂き、お話を伺った。

 

白洲 とても大きな美術館ですね。

 

小林 展示室は5階まで全15室、展示総面積は約5千平方メートルあります。1階は中国と韓国の陶磁器、2階は日本陶磁、3、4階は日本絵画、5階が仏教美術です。半分はやきもの、半分は絵画という構成にしています。恐らく「目の眼」読者にも満足してもらえる美術品が揃っていると思いますよ(笑)。

 

白洲 所蔵点数はどれくらいなんですか?

 

小林 総数は800点ぐらいです。展示しているのは、そのうち約350点ほどですので、少しずつ展示替えをしていく予定です。

 

白洲 (1階の展示室に入り)すごいですね!

 

小林 最初の部屋は当館を知って頂くために、陶磁器、青銅器、埴輪などの名品を並べました。

 

 

 

饕餮文方罍 殷(商)時代後期

饕餮文方罍 殷(商)時代後期

 

 

 

壺をのせる女性 杯をもつ女性たち 古墳時代後期(5〜6世紀)

壺をのせる女性 杯をもつ女性たち 古墳時代後期(5〜6世紀)

 

 

 

青花蓮池水禽文盤 景徳鎮窯 元時代(14世紀)

青花蓮池水禽文盤 景徳鎮窯 元時代(14世紀)

 

 

 

白洲 日本の縄文、埴輪、古九谷と中国の青銅器、清朝陶磁器が並び立ってますね(笑)! てっきり小林先生が館長と伺って日本絵画がメインと思っていましたが、陶磁器も素晴らしいものが揃っていますね!

 

小林 岡田さんは陶磁器も大変好きですね。その品揃えには私も驚かされました。

 

白洲 最近の蒐集と聞いてそれほどの名品は期待できないと思っていたので驚きました。岡田さんはいつ頃から蒐集を始められたんですか?

 

小林 十数年前からと聞いていますが、かなり早い段階から美術館構想があって、古美術商の方に依頼されていたそうです。美術商も最近そういうチャンスが少ないので、使命感をもって喜んで協力してくれてますね。私に館長をというお話があったのは一昨年ですから、コレクションに関わったのは2年ちょっとなんです。

 

白洲 では、先生の前にアドバイザー的な方がいらっしゃったんですか?

 

小林 そうですね。最初は色々な古美術商とお付き合いしたようですが、だんだん信頼できる業者にお願いするようになったようです。一流の業者さんから一流のものを蒐めてますね。

 

白洲 この李朝の白磁壺は素晴らしいですよ!これだけでも愛好家にはたまらないです。私は持っていた古美術商に心当たりがありますが、これを出したなんて驚きです。資金が必要なのはもちろんですが、お金があるだけではこれだけのものは蒐められないですよ。古美術商も相手を見ますから、これだけいいものを出したということは、お互いに呼吸が合って、いい関係を持てたということでしょうね。趣味がちゃんと通っていて、ご自分の意向で蒐めているということが展示を見てわかります。

 

 

 

白磁壺 朝鮮時代

白磁壺 朝鮮時代

 

 

 

小林 岡田さんは歴史と美術に対して敬意をもっている方だということは間違いないですね。こちらに来られるととても嬉しそうなんですよ。美術品に接すると心が安らぐそうです。同様に美術愛好家の方に楽しんでもらいたいという気持ちがあるようです。

 

 

成長を続ける美術館、2階は日本の陶磁器

 

 

小林 2階は日本の陶磁器です。中世のやきものや茶道具はやや手薄でまだこれからですが、乾山、仁清はよいものが入っています。

 

 

 

日本陶磁器と横山大観の大作を展示する2階大展示室。柱がない広々とした1フロア構造で、土器・土偶から六古窯、伊万里、京焼と、時代やジャンルに囚われない展示が新鮮だ。

日本陶磁器と横山大観の大作を展示する2階大展示室。

柱がない広々とした1フロア構造で、土器・土偶から六古窯、伊万里、京焼と、時代やジャンルに囚われない展示が新鮮だ。

 

 

 

白洲 鍋島と古九谷も充実してますね。あの大きな富士山の絵もすごいですが。

 

小林 横山大観の作品です。義太夫の竹本津太夫の快気祝いとして描かれた大作で、幅が873㎝もあります。しばらく行方がわかっていなかったんですよ。美術館という動きがあると物がよってくるようです。

 

 

横山大観筆「霊峰一文字」 大正15年(1926)

横山大観筆「霊峰一文字」 大正15年(1926)

 

 

白洲 成長を続けているコレクションなんですね。経済の第一線で活躍されている実業家の方が美術に目を向けられて、こうした個人美術館を創るということは最近にはないことですし、今の日本の美術界にとっても大きなことだと思います。

 

 

 

日本絵画の名品を集めた3階、4階展示フロア

 

白洲 3、4階は先生のご専門の日本絵画ですね。

 

小林 岡田さんが東洋美術を蒐集したきっかけは屏風絵からだそうで、そこで私を館長にというお話も出たのだと思います。元信や宗達、北斎の名品を含む狩野派、琳派、文人画、浮世絵などの江戸期の絵画から菱田春草や横山大観といった近代日本画に到るまで、素晴らしいものが入っています。嬉しい驚きもありまして、この「修学院図屏風」は修学院を造った後水尾上皇の在世中に描かれたことがわかっている貴重なもので、私にとって特に思い入れがあるものなんです。ここで出会えて本当に嬉しいです。

 

 

尾形光琳「雪松群禽図屏風」江戸時代中期

尾形光琳「雪松群禽図屏風」江戸時代中期

岡田和生氏が美術館建設の構想を抱くきっかけとなった作品。

 

 

 

修学院図屏風 江戸時代前期

修学院図屏風 江戸時代前期

 

 

 

 

白洲 それにしても全部じっくり観覧しようと思ったら、一日では見きれませんね。

 

小林 そうですね。場所が小涌谷ですから、ぜひ温泉旅行がてらに一泊二日で来て頂けたら。二日目割引などもこれから検討ですね(笑)。美術館でも風神雷神図を再現した福井江太郎氏作の大壁画「風・刻」を眺めながら足湯ができる趣向になっているんですよ。ここは明治期に外国人向けホテル「開化亭」があったところで、その遺構を活かした庭園や「箱根蔵町」という食事ができる施設も来春以降にオープン予定です。ゆったりと観覧して、1点でも2点でもお気に入りを見つけて頂けたら嬉しいですね。

 

 

大壁画 福井江太郎「風・刻」

大壁画 福井江太郎「風・刻」

 

 

 

 

◇ 美術館 INFORMATION

岡田美術館

神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1

開館時間:9時〜17時(入館は16時30分まで)

休館日:12月31日・1月1日、展示替え期間

入館料:一般・大生2800円  小中高生1800円

問合せ:0460-87-3931

アクセス:小田原駅よりバス約40分、箱根登山鉄道 箱根湯本駅よりバス約20分、「小涌園」下車、徒歩1分

http://okada-museum.com

 

 

開催中の展覧会 「愛と平和の江戸絵画」2025年12月7日(日)まで

次回の展覧会 「愛でたい美術」2025年12月14日(日)〜2026年6月7日(日)

 

 

RELATED ISSUE

関連書籍

2013年11月号 No.446

朱とみずがね姫 

〜 根来の源流を探る

この秋、空前絶後の根来展が開催される。黒漆の下塗りの上に朱漆が重ねられた漆器は「根来塗り」と呼ばれ、神饌具や、仏具、食器や酒器、茶道具、文房具など様々な用途に使われた。名の由来となった紀州根来寺は鎌倉時代から南北朝にかけて隆盛を極めたが、豊臣秀吉の根来攻めで灰燼に帰し、戦火を逃れた工人たちが、根来塗りの技法を各地に伝えたといわれている。日本にある根来の優品のほとんどを集めた展覧会の開催に合わせ、展覧会の見どころとともに根来の魅力、また個人コレクターを訪ねるなど、深く切り込んだ特集をお送りします。

POPULAR ARTICLES

よく読まれている記事