骨董ことはじめ⑩

大河ドラマから知る、日本の歴史の奥深さ

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今年に入ってから、大河ドラマばかり観ています。高校のときは世界史が大好きで、資料集に載った絵画や建築物、地図などをコピーしノートに貼って自分なりの年表を作ったり、歴史ものの映画を見漁ったりしていました。ただ、日本史については「信長と秀吉と家康って、同じ時代に生きてたんだっけ」と疑問が浮かぶほど。それでも目の眼で古美術・骨董にふれる機会をいただき、いま私が生きているこの土地がどう成り立ってきたのか、改めて知りたくなりました。きっと何か本でも開けばよかったのでしょうが、私が開けたのは大河ドラマの扉でした。創り話とは承知しているものの、その時代を生きた人がその名のままに登場するので、誰が何をしてどうなったか、どんな時代を人々がいかに生きたのか、だいたいの流れは掴めます。ネットで検索すれば、史実を記した記事や絵画もわんさか出てきて、衣装や小道具に時代の特徴を見るのもまた楽しく、次から次へと観てしまうのです。

 

最初にその楽しみを教えてくれたのは、『鎌倉殿の13人』でした。源頼朝が挙兵し、源平合戦を経て鎌倉の地に政権を樹立。13人の御家人が権力争いを繰り広げるなか、北条義時が鎌倉幕府において最高権力を持つまでの生き様が描かれます。物語は、流人として過ごしていた源頼朝が、監視役であった伊東祐親の娘・八重との間に子を設けたことで祐親に追われる身となり、北条家に匿われるところから始まります。平清盛は後白河上皇を幽閉し自分の孫を天皇に即位させるなどやりたい放題。そんな清盛を見かねて、全国の源氏に向けた平家討伐の勅令が出されます。これに応じて頼朝をけしかけるのが、北条家の嫡男である宗時です。乗り気でない頼朝に対して、繰り返し「打倒平家、源氏再興」を訴えます。

 

鎌倉時代といえば北条政子の名前がうっすら浮かぶくらいの私にとっては、「源氏再興」が何を意味するのか、『源氏物語』の“源氏”とは何が違うのか、なぜ阪東武士は自分たちで世を作らず源氏を担ぎ上げるのか、よくわかりません。「源頼朝」で検索し、上から二番目に出てきたのが刀剣ワールドの記事でした。ゲームキャラクターのような見目麗しい頼朝のイラストとともに、その生涯をまとめた動画や生涯関わった重要人物たちをまとめた人物相関図など、頼朝に関する情報がとてもわかりやすく載っています。

 

 

「平安時代 保元の乱・平治の乱」

源義朝 VS 平清盛下記画像 出典:刀剣ワールド財団(東建コーポレーション株式会社)

源義朝 VS 平清盛

 

◎画像出典 刀剣ワールド財団(東建コーポレーション株式会社)

 

◎参考サイト

「平安時代 保元の乱・平治の乱」(刀剣ワールド財団)

 

 

その他にもネットで拾い集めた源氏に関する情報を大雑把にまとめてみると、平家と源氏はどちらも元々皇族で、天皇の臣下に下りそれぞれ平(たいら)と源(みなもと)の姓を賜り、武士として生きる家系が出てきました。朝廷の皇位継承をめぐる争いから発展した「保元の乱」(1156年)に駆り出された平家と源氏は、同じ陣営で戦い勝利を収めます。平家が立身出世のきっかけを掴んだ一方で、恩賞に差のあった源氏は不満を募らせて「平治の乱」(1180年)を起こしました。この戦いで勝利した平清盛は栄華を極めますが、源義朝は殺害され、三男で嫡子の頼朝は伊豆へ島流しにあいます。そう、これが源頼朝です。この頼朝が20数年の時を経て、父の宿敵であった平家に対していかに行動していくのか。これが、北条宗時のセリフ「打倒平家、源氏再興」に込められていたのでした。ドラマで、頼朝をめぐる親戚同士の“小競り合い”が時代を変える大きな戦いと繋がっていく様は、この時代をほどんど知らない私でもストーリーとして理解しやすく、それをもとに情報を集めていくとより壮大な物語を見ることができました。

 

 

◎参考サイト

「戦国武将一覧 源頼朝の歴史」(刀剣ワールド財団)

 

源平のなりたち「演目解説 義経千本桜」(文化デジタルライブラリー)

 

 

ある日、北条宗時は道端で町民に「打倒平家」を唱えていた怪しげな僧侶・文覚を見つけ、頼朝のもとへ連れてきます。文覚は懐から“父・義朝の髑髏”を取り出して説得にあたり、義時も国衙にあった木簡から兵力を推し量って勝算を説き、法皇様からも密使が届いたことで、頼朝は重い腰を上げて挙兵の決断を下すのでした。もっとも「文覚という僧侶が父・義朝の髑髏を持ってきて頼朝を説得した」というエピソードは創作だろうと思い調べてみると、『平家物語』にきちんと記されているというから驚きです。そのあたりまでネットで検索できるのだから、これまたありがたい話です。

 

◎参考サイト

「文覚(もんがく) 13人の合議制(鎌倉殿の13人)関連人物」(刀剣ワールド財団)

 

 

 

『鎌倉殿の13人』では重要な場面で、仏像または仏教の存在に、たびたび光が当たります。

たとえば、挙兵したばかりの頃、石橋山の戦いに敗れてしとどの窟に隠れていた頼朝が、髻(もとどり)に隠していたのが二寸銀の観音像です。これを取り出して祈りますが、首を斬られた時に命を惜しんで仏にすがっていたと知られたら源氏の頭領らしくないとの理由から、その場所に置いて立ち去ります。後に僧侶の弟子がこれを見つけ頼朝のもとへ届けた、というところまで本当の話です。ドラマの中では、鎌倉殿として足場を固めていく過程で「観音様は捨て申した」と言い放ちますが、臨終間際に頼朝の髻からこの観音像が再び出てくるのです。源頼朝は特に信心深い人物であったと言われていますが、裏切りや騙し合いの入り乱れる世だからこそ仏にすがる人々の心に、この時代の姿を見ます。

 

また、北条家のため珠玉の仏像の数々を生み出した運慶も、物語におけるキーパーソンとして登場します。鎌倉幕府第二代将軍・源頼家暗殺の命を下すため、刺客・善児のもとを訪ねた北条義時は、兄・宗時がいつも腰から下げていた巾着を見つけます。しかし義時は、兄の仇であるはずの善児を咎められないほど悪事をなしてきたことを自覚し少なからず悔いもあるからか、まっすぐな怒りを抱くことはありません。その後、久々に会った運慶に「悪い顔になった」と言われます。「けれど迷いがある。そこに救いがある。悪い顔だがいい顔だ。いつかお前のために仏を彫ってやりたい」と。

 

そこから時を経て、執権に上り詰めた義時は運慶に神仏と一体となったおのれに似せた仏像を作るよう依頼します。すると運慶は、「迷いのない顔になった。つまらん顔。」とつぶやきながら、しぶしぶ制作を引き受けます。しかしこの仏像があまりに禍々しいことを理由に運慶を斬り、義時は「そりゃ顔も悪くなる」と言いながら、悪行を振り返るのです。その際、姉・政子に対する嘘が明らかとなり、最期を迎えることとなりました。これは、あくまでも『鎌倉殿の13人』の筋であり史実とは異なりますが、為政者が仏師に仏像をつくらせることは当時にどんな意味を持っていたのでしょう。

 

調べてみると、平安後期頃には「仏法の繁栄は正しい政治の証となる」という思想があったようです。為政者は大きな寺院を建て、仏像を造って、仏教を発展させるべく様々な施策を講じることが責務と理解されてきました。鎌倉幕府が成立したあと、頼朝や初代執権・北条時政は奈良の復興で名を上げた運慶を呼び寄せて仏像を造らせます。運慶の生み出すリアルで力強い仏像の姿に、為政者たちは新しい時代の到来を感じたことでしょう。この場所で新しい政を行なっていくのだという意思表示の面もあったのでしょうか。目の眼でもたびたび特集される仏像ですが、その時代においてどのような存在だったのか、ストーリーで観てみるとより想像できる範囲が広がります。

 

先日、奈良の東大寺を訪ねる機会があり、運慶の手がけた南大門の金剛力士像を見てきました。写真で見ていたよりも迫力があり、その後ろから今にも突風が吹いてきそうでした。さらに現在東京国立博物館でも特別展「運慶 祈りの空間 ― 興福寺北円堂」が開催中で、運慶晩年の傑作として知られる7体の仏像が見られるようです。これも必ず行かなくては。

 

大河ドラマを趣味にしてから、楽しみが増えて仕方がありません。あの源義経がいた平泉は中学の修学旅行先でした。ほの暗い階段を登った以外に何も覚えていないのですが、いつか奥州藤原家の築いた中尊寺をこの目で見直したいものです。鎌倉の近くに住んでいた時期もあり何度も歩いたはずなのに、何も知ろうとしなかった鶴岡八幡宮。あの源頼朝が基礎を築いた場所だったとは、もったいないことをしました。

 

刀剣ワールド、ウェブ記事、そして目の眼も。調べればいろいろ学べる時代。いささか大雑把ながらも、日本の歴史を大きな物語として知るこの趣味を、これからも楽しんでいきたいと思います。先人たちが言葉やものを遺してくれたことに感謝ばかりです。

Auther

稲村香菜

稲村豆富店 店主

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