展覧会紹介|石水博物館 NIGO®と茶碗と半泥子 ─ 川喜田半泥子と歩んだ作陶10周年 RECOMMEND *この記事は、『目の眼』2025.12月・2026.1月号に掲載されました。 ある日、NIGO®さんご本人から陶芸展の案内メールをいただいて驚いた。NIGO®さんといえば90年代にストリートカルチャーを背景にしたファッションブランドを立ち上げ世界的なブームを巻き起こしたデザイナーで、その名はファッションに疎い骨董雑誌の編集者でも知っている。しかも川喜田半泥子に私淑してコレクションも多数所蔵しており、自作の陶芸作品と半泥子の茶碗を並べた陶芸展を2025年11月から石水博物館で開催するというのでお話をうかがった。 展覧会は、2025年11月15日〜2026年1月12日に石水博物館、2026年1月17日〜4月12日にZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUMで開催される。 ── 今回の陶芸展はどのような経緯で始まったのですか? 私が作陶を始めて最初に教えていただいた作家さんが三重県にある仙鶴窯(せんかくかま)の藤村州二さんで、この窯はかつて廣永窯(ひろながかま)といって半泥子が戦後に作陶したゆかりの窯なんです。当時は月に一度くらい作陶に通っていて、半泥子の茶碗について教えてくれたのも藤村さんでした。僕はそれまで基本に忠実にきっちり作っていたんですが、半泥子の崩した感じの自由な作風が刺さりまして、仙鶴窯の行き帰りに石水博物館にも寄ってよく展示を見てたんです。 今年が作陶10周年にあたることもあって、ダメ元で企画を持って行ってたら興味を持ってくださって実現に至りました。石水博物館ではこれまで現存作家の展示をしたことがなかったので学芸員さんと話して、これまで集めた半泥子作品とあわせて展示するということになりました。 川喜田半泥子作 伊羅保風茶碗 銘:いよの秋 NIGO®作 灰釉刷毛目茶碗 銘 半白 仙鶴窯(旧廣永窯) ── 作陶を始められたきっかけは? 妻(女優の牧瀬里穂さん)から今度お茶事をするから茶碗を作って、と頼まれたのがきっかけです。ちょうど京都の家の茶室ができた頃かな。軽く引き受けて1ヶ月くらいで100碗くらい作って見せたんですが、妻はじっと見て、結局取り上げたのは2碗だけだったんです。ありがとう、とは言ってくれたんですが、僕としては全部良い出来だと思っていたのでびっくりして(笑)。 ── ショックを受けたわけですね。 そのときはお茶をやっていなかったのでポイントが違っていたのかな、と考えて、それからお茶も習い始めて、作陶も本格的に取り組むようになりました。 ── 先ほどの藤村さんをはじめ、各地の窯元へ出稽古にも熱心に通われたそうですね。 萩の三輪休雪さん(不走庵)や長門の田原陶兵衛工房、坂倉新兵衛窯、唐津の矢野直人さん(殿山窯)、岐阜の林恭助工房、林友加工房、伊賀鈴木さん(高倉窯)、湯河原では細川護煕さん(不東庵)と、いろいろな伝手を頼って修業させていただきました。これも半泥子が各地を巡って作陶したことに倣ってのことです。確かにみなさん個性があって、成形や焼成方法といった具体的なやり方とか作品に対するアプローチがそれぞれ違っておもしろかったですね。ほかにもまだ行ってみたい窯があるのですが…… NIGO®作 井戸茶碗 銘 ごかご 不東庵 ── そこまで傾倒する半泥子の魅力とは? いろいろありますが、僕は半泥子を陶芸家ではなくクリエイターとしてみています。作陶もすれば書画もやり、写真も撮る。いまで言うマルチプレイヤーですね。あくまで余技としながらも轆轤は相当うまかった。基礎がしっかりしているからですね。唐九郎が教え込んだと言ってますが、古い名碗をよく見て学んでいたんだな、と思います。僕は魯山人も好きだったんですが、彼はやきものにはディレクター的に携わっていますね。対して半泥子は自分でどんどん作っている。しかも堅苦しくない。僕は性格なのか、服づくりもかっちり作るタイプで、茶碗を作るときもつい高台をきれいにフラット整えてしまうんです。定型を崩して奔放に作るというのは言うほど簡単じゃなくてなかなか難しいことなんですが、半泥子はその辺がうまい。センスなんだと思います。 川喜田半泥子作 唐津手茶碗 銘:春しぐれ ── 展覧会ではそんなNIGO®さんが魅了された半泥子の茶碗コレクションも50碗ほど紹介されるそうですね。10年かけてそれほど集められたんですか? 展示するのは50ですが、茶碗以外も含めると200点くらいあるんです。最初は買いやすかったのですが、近年半泥子の人気と価格が上がってきて、なかなか買えなくなってきました(笑) 川喜田半泥子作 黄瀬戸茶入(荒川豊蔵の窯で製作。豊蔵の書付) 川喜田半泥子作 ペルシャ釉鉢 (昭和12年初個展「無茶法師作陶展」出品作) ── 先ほど魯山人も好きだとうかがいましたが、そのほか古いものもお持ちなんですか? ずっとアメリカンカルチャーのヴィンテージものが好きで、家具とか近現代アートはコレクションしています。少し前から日本のものが好きになって魯山人や半泥子を求めるようになりましたが、骨董までは買ってないですね。でも美術倶楽部のアートフェアや正札会などには行きますし、お茶を続けていますので茶道具屋さんにはときどき顔を出します。 ── 日本の文物に傾いたきっかけはなんですか? 40歳くらいの頃かな、妻から歌舞伎を観に行こうと突然誘われたんです。ちょうど前の会社を売却した時期で気が抜けていたんでしょうか。毎日つまらなそうな顔をしていた、と後で妻から聞きました。最初はなんの興味もなかったのですが、観に行ったら無茶苦茶おもしろくて頻繁に通うようになって……そこからですね、日本文化にハマっていったのは。 ──NIGO®さんの人生に、奥様の存在がたいへん重要だということがよくわかるエピソードですね。展覧会を楽しみにしています。ありがとうございました。 川喜田半泥子作の茶碗(高台) 川喜田半泥子作品の撮影:山畑俊樹 Information 特別展 「NIGO®と半泥子」 開催中 ~ 2026年01月12日 会場 石水博物館 住所 三重県津市垂水3032-18(JR・近鉄津駅東口より三重交通バス 「青谷口」下車徒歩8分/JR阿漕駅より徒歩12分) URL https://sekisui-museum.or.jp/ TEL 059-227-5677 入場料 一般500円[400円]・学生300円(中学生以下無料) 備考 開館時間:10時〜17時(入館は16時30分まで) 休館日:月曜(祝日の場合翌日) 12/29〜1/3 ※巡回展 ZENBI-鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM 2026年1月17日(土)~ 4月12日 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年12月号・2026年1月号No.584 廣田不孤斎の時代 新しい美の発見者 廣田松繁(不孤斎 1897 〜1973)は、東京・日本橋に西山保(南天子)とともに壺中居を創業し、国際的評価の高い鑑賞陶磁の名店に育てました。今号は小説家の澤田瞳子さんをはじめ、不孤斎本人を知る関係者の方々を取材。旧蔵品や資料から、不孤斎が見出した美を特集します。 そのほか宮武慶之さんと陶芸家の細川護熙さんの対談や、デザイナーのNIGO®さん、起業家の伊藤穰一さんへのインタビューなど、現代数寄者やクリエイターの方たちを紹介します。 試し読み 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画 世界の古いものを訪ねて#10 私たちはなぜ古代エジプト美術に惹かれるのか。秘宝をめぐる。 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 東京アート アンティーク レポート#2 いざ美術店へ |「美術解説するぞー」と行く! 鑑賞ツアー レポート Others | そのほか 世界の古いものを訪ねて#9 ショパン国際ピアノコンクールを聴きにワルシャワへ 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 TOKYO ANTIQUE FAIR 夏の定番、古美術フェア|東京アンティークフェア Others | そのほか 古美術をまもる、愛でる 生糸染めから手機織りで受け継がれる、真田紐師 江南の唯一無二 Others | そのほか 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈前編〉 People & Collections | 人・コレクション 編集部レポート スキモノムスヒの会、待望の東京での茶事に初参加 Others | そのほか トピックス|刀剣文化の応援はじまる 「刀剣乱舞」の生みの親 ニトロプラスが刀剣文化の調査・研究に助成 Armors & Swords | 武具・刀剣 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション 超 ! 日本刀入門Ⅱ|産地や時代がわかれば、刀の個性がわかります Armors & Swords | 武具・刀剣 古信楽にいける 花あわせ 横川志歩 Vassels | うつわ