展覧会レポート|泉屋博古館東京

“物語(ナラティブ)”から読み解く青銅器の世界

Others | そのほか

重要美術品《鴟鴞尊(しきょうそん)》
中国・殷(前13-前12世紀)
泉屋博古館 蔵

東京・六本木一丁目に位置する美術館、泉屋博古館(せんおくはくこかん)東京で、同館が誇る青銅器コレクションを中心とした企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン」が開催中です。

 

多くの愛好家がいる一方で、「鑑賞のポイントがわからない」「魅力をもっと理解したい」という声も根強い、中国古代の青銅器・青銅鏡の世界。本展は、現代を生きる私たちの目から見ても斬新で刺激的なデザインと、その背景にある神話などの世界観を、親しみやすい切り口で紹介しています。

 

 

泉屋博古館東京 外観

泉屋博古館東京 外観

 

 

 

ふくろう・みみずく、鳥、神獣!?

青銅器は“時代を超える ゆるかわデザイン”が満載

 

展示は全五章の構成。中国古代の「動物/植物」「天文」「七夕」「神仙への憧れ」という4つの観点からデザインの背景を読み解き、その後の日本美術へ与えた影響も紹介しています。

 

開幕に先立って開催された報道内覧会で 展示構成を解説する担当学芸員の山本 尭さん

開幕に先立って開催された報道内覧会で 展示構成を解説する担当学芸員の山本 尭さん

 

 

まず「第Ⅰ章 天地つなぐ動物たち」では、同館のSNSに度々登場するマスコット的な存在、《鴟鴞尊(しきょうそん)》と、《戈卣(かゆう)》を展示。

 

フクロウやミミズクなどの動物がモチーフのこれらは、多様な文様や顔のような装飾が全身に施されています。鳥モチーフが多めなのは、コレクションした住友家の第15代当主 住友春翠の好みだそう。

他にも、うさぎやカエル、神獣など、本展全体の展示作品に、さまざまな動物たちが登場しています。展示室を巡って、楽しみながら探してみてください。

 

《戈卣(かゆう)》 中国・殷(前12-前11世紀) 泉屋博古館 蔵

《戈卣(かゆう)》
中国・殷(前12-前11世紀)
泉屋博古館 蔵

 

続く「第Ⅱ章 聖なる樹と山」では、鏡や画像石に見られるモチーフなどを、さらに深堀りして紹介。

 

古代中国における扶桑の樹をめぐる伝説や、さまざまな神話の場面を表現したデザインが見られました。解説によれば、世界各地の神話にも類似した場面やエピソードが見られるそうで、不思議な偶然にさらに興味がわきます。

 

 

 

日本の年中行事や暦の由来となった、古代中国の物語たち 

 

現代の私たちにも身近な星座や七夕のお話、宇宙や天文にまつわる知識は、中国古代の人々にとっても、暮らしの基礎である暦に不可欠でした。と同時に、世界で起こるさまざまな出来事を前もって知るための技術、でもあったそう。

 

そして、太陽や月、星々の存在は、日夜、現れては消え、再び変わらぬ姿で出現することから、“死と再生を体現するもの”として当時の人々の心をとらえ、特別な意味をもって表現されたことが、さまざまなデザインからも伺えます。

 

 

「第Ⅲ章 鏡に映る宇宙」展示風景

「第Ⅲ章 鏡に映る宇宙」展示風景

 

 

「第Ⅲ章 鏡に映る宇宙」では、中国古代の天文の様子をいまに伝える、非常に貴重な南宋時代の石碑の拓本「淳祐天文図」や、漢代に流行した「方格規矩四神(ほうかくきくししん)」の鏡などを展示。

 

《方格規矩四神鏡(ほうかくきくししんきょう)》は、天地の象徴である、T・L・Vの文字とともに、東西南北の方角に、四神(青龍・白虎・玄武・朱雀)の文様が配され、中国古代の宇宙観を凝縮したかのようなデザインです。

 

 

《方格規矩四神鏡(ほうかくきくししんきょう)》 中国・前漢末(前1世紀-後1世紀) 泉屋博古館 蔵

《方格規矩四神鏡(ほうかくきくししんきょう)》
中国・前漢末(前1世紀-後1世紀)
泉屋博古館 蔵

 

 

鏡は両手に収まるほどのサイズながら、その全面に、健康長寿や富への憧れといった持ち主の願いが細やかに表現され、いずれも目を見張りました。

 

 

《重列神獣鏡(じゅうれつしんじゅうきょう)》 中国・後漢後期 泉屋博古館 蔵

《重列神獣鏡(じゅうれつしんじゅうきょう)》
中国・後漢後期
泉屋博古館 蔵

 

 

 

また、「第Ⅳ章 西王母と七夕」では、伝説上の山岳・崑崙山(こんろんさん)に暮らし、不死の仙薬を持つとされた仙女・西王母や、七夕の日の牽牛・織女の物語を紹介。

 

その背景には、農耕儀礼にもとづいた信仰や、死と再生をめぐるシンボリズムなどが存在しているといい、本展を締めくくる「第Ⅴ章 神仙への憧れ、そして日本へ」へ、充実した展示が続きます。

 

 

第Ⅳ章 西王母と七夕」展示風景

第Ⅳ章 西王母と七夕」展示風景

 

 

 

「第Ⅳ章 西王母と七夕」展示風景

「第Ⅳ章 西王母と七夕」展示風景

 

 

 

第Ⅴ章 神仙への憧れ、そして日本へ」展示風景

第Ⅴ章 神仙への憧れ、そして日本へ」展示風景

 

 

 

中国から日本の美術へ、そして年中行事へと、細かな意味合いやニュアンスは変わりつつも、壮大な時間の中で物語は受け継がれ、現代につながっていることを実感するでしょう。

 

 

 

東京館では初展示。現代作家らが手がけた「泉屋ビエンナーレ」の作品群。

 

本展と同時開催されている「泉屋ビエンナーレSelection」の一室もお見逃しなく。佐治真理子さんや久野彩子さんら現代の鋳金作家が、同館の中国古代青銅器コレクションを見学し、新たに制作したという作品群を公開しています。

 

「泉屋ビエンナーレ」は過去2回とも京都・鹿ヶ谷の京都館のみの開催だったため、東京館では初めての展示とのことでした。

 

 

「泉屋ビエンナーレSelection」展示風景

「泉屋ビエンナーレSelection」展示風景

 

 

 

なお、単眼鏡をお持ちの方はぜひご持参ください。細部の細部までじっくりと鑑賞すればするほど、青銅器の奥深い魅力を再発見できることでしょう。

 

企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン」は、2025年7月27日(日)まで開催しています。

なお京都館には、青銅器だけを展示した青銅器館があり、8月17日(日)まで「ブロンズギャラリー 中国青銅器の時代」が開催中です。こちらもぜひ訪れてみてください。

 

 

京都・鹿ヶ谷の泉屋博古館 青銅器館

京都・鹿ヶ谷の泉屋博古館 青銅器館

 

 

 

 

文・撮影:Naomi

https://lit.link/NaomiNN0506

 

 

 

Information

死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン

6/7~7/27

会場

泉屋博古館東京

会期

6/7~7/27

住所

東京都港区六本木1-5-1

URL

TEL

050-5541-8600(ハローダイヤル)

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