展覧会情報

装い新たに 荏原 畠山美術館として開館

History & Culture | 歴史・文化

荏原 畠山美術館入口

 

東京・白金台にある荏原 畠山美術館(旧畠山記念館)は大茶人として知られた畠山一清(号:即翁 1881〜1971)が蒐集した茶道具、古美術品を収蔵する美術館。1964年10月に開館してから60周年となる今年、本館改築と新館が完成し、装いも新たに開館しました。

 

 

荏原 畠山美術館の庭園内にある畠山一清還暦像
大茶人 畠山即翁

 

大茶人  畠山即翁

 

畠山即翁(そくおう)は、機械機器メーカーである荏原(えばら)製作所の創業者です。室町時代から続く名門畠山氏の分家である能登畠山氏の後裔として、金沢に生まれました。東京帝国大学の機械工学科を首席で卒業。ポンプの設計で成功し、1920年(大正9)に荏原製作所を創立します。

 

世が世なら殿様と呼ばれる身分だった即翁ですが、幼少期は、父の事業が失敗し、貧乏暮らしだったそうですが、宝生流の能の教授でもあった父の謡(うたい)を聞いて育った即翁は自然と能が好きになり、会社を立ち上げた40歳頃から、本格的に宝生流を習い、免許皆伝の腕前になります。同じ頃からお茶も始め、茶道具を中心に名品を蒐集し、一大コレクションを形成するに至りました。

 

 

重要文化財 清滝権現像 鎌倉時代 13世紀
*即翁は、水に関連するポンプ事業につながる縁を感じて購入したそうです。
(開館記念展Ⅰ「與衆愛玩―共に楽しむ–」にて展示 12/8まで)

 

 

畠山記念館から荏原 畠山美術館へ

 

即翁がコレクションを一般に公開するため、畠山記念館(旧名)を創設したのは1964年。東京・白金猿町のかつて寺島宗則伯爵邸であった約1万平方メートルの土地に建てた私邸「般若苑」の敷地内に建設しました。

庭と建物が一つの如く融合していることを「庭屋一如(ていおくいちにょ)」といい、日本邸宅の伝統であり、理想的なあり方。畠山即翁もまたその理想を追求しています。

即翁が自ら設計したという本館は書院風の格式高い建物で、大きな廂のある設計が特徴。展示室内の柱や長押(なげし)に使われた最高級の木材は経年によって美しい風合いとなっており、今回の改築では、一度解体して木材を洗い、再び組み直して使用しているそうです。

 

 

 

 

 

樹齢300年の黒松などがあり、江戸時代からの風情を保たせている庭園と

本来の姿を損なわないように改築された本館

 

 

展示室もこれまで通り自然光を取り入れ、茶室のような陰影を醸し出しています。新たに採用した展示ケースは一枚ガラスで、細い脚にすることでケースに入っていることをなるべく意識することなく、茶道具がよく見えるように工夫されています。

 

 

茶室の雰囲気をたたえた本館展示室の新しいガラスケース

 

 

 

 

開館記念展Ⅰ[序]與衆愛玩―共に楽しむ

 

12月8日(日)まで開催の「開館記念Ⅰ[序]與衆愛玩―共に楽しむ–」では、本館展示室では開館記念と創立60年を祝って「祝祭の宴」と題した展示がされています。

重要文化財「伊賀花入 銘 からたち」や、最近重文指定となった朝鮮時代の「割高台茶碗」など、畠山コレクションを代表する名品の数々を、前半は茶会に伺った気分になるように、後半は即翁が酒を傾けながら、ご自慢の品を披露するイメージで、展示されたそうです。順路通りに観覧していくと、濃茶、薄茶、展観といったお茶会の流れのように、取り合わせをみていくことができます。

 

 

重要文化財 継色紙 伝  小野道風筆 平安時代    10-11世紀

 

 

重要文化財 伊賀花入 銘 からたち 桃山時代 16-17世紀

 

 

重要文化財 割高台茶碗 朝鮮時代 16世紀

 

 

日本の美を意識した新館

 

増築された新館は、世界的に著名な現代美術家・杉本博司氏と、建築家の榊田倫之氏が運営する新素材研究所のよる設計。
展示室Ⅰには、展示品のみが美しく見えるよう、ガラスへの映り込みをふせぐ黒しっくいの壁が展示ケースの前に設置されています。これはMOA美術館でも採用されている杉本氏設計ならではのしかけ。また庭園も新たに整えられ、新館からも茶室や庭石がながめられるようになっており、外壁にモダンな黒い陶板を用いて、景観と融合する建築になっています。

 

 

新館の外観 黒の陶板を用いた外壁が和風な印象

 

 

茶庭から望む新館

 

 

 

既存の景石を活かして、新たに整えられた新館の中庭

 

 

 

新館2階展示室1には能舞台の松を描いた鏡板が展示され、江戸時代の豪華絢爛な能装束コレクションの展示とともに即翁が能を舞う映像が。

 

 

段替に唐花根笹模様厚板唐織 江戸時代 弘化4年(1847)

 

 

新館の地下1階展示室2では、畠山即翁の娘婿で荏原製作所の社長を務めた酒井億尋(さかい おくひろ 1894-1983)の絵画コレクションが展示されています。億尋は画家志望でしたが視力が悪くなり断念。芸術を愛し、芸術家に惜しみない支援をしたそうです。億尋自身が描いた作品も1点展示されていますが、とても清爽な印象の絵でした。
また夏目漱石の門下でもあった画家、津田青楓とも親しく、その交遊を知る写真や青楓の作品も貴重な展示です。

最後に忘れず見ておきたいのは、「即翁與衆愛玩と刻まれた畠山即翁の愛蔵印。展覧会タイトルにもなっている與衆愛玩(よしゅうあいがん)とは、「自らのコレクションを独占するのではなく、多くの人と共に楽しもう」という即翁の想いが込められているそうです。

 

畠山即翁は、
「日本趣味というのは外形のものよりも内面的な精神を味わうものだと思う。(中略)
外観は何気ないような動作であっても、目に見えない何かが、ピーンと相手に伝わるというのが、日本趣味のもつ大きな特徴といえるだろう。」

「そして“只今” “現在”は、二度とめぐってくることがない、だから一生懸命、大切にする——というゆかしい心根を持つようになれば、“一期一会”の真髄にふれ得たことになると思う」
と自伝に書いています。

 

 

一期一会の覚悟を持ち、さりげなく、自然にふるまう。そんな、お茶の精神を体得した畠山即翁も、骨董の名品を買うために銀行頭取を務める友人に借金を頼み、けんかしたこともあったとか。

50年かけ苦労して集めた名品をともに楽しもうという、即翁の想いが伝わってきます。

 

 

 

伝統を大切に、新しい美術鑑賞のスタイルも取り入れた荏原 畠山美術館。まだ訪れていない方はぜひ足を運んでみてください。

12月8日までは、庭園のライトアップも行われており、晩秋の色彩を楽しむことができます(16時30分〜17時まで)。

 

さらに開館記念展は来年も続きます。今後もご紹介していきますのでお楽しみに。

 

 

 

開館記念展

Ⅰ[序]與衆愛玩―共に楽しむ–

 

開催期間 令和6年10月5日(土)~12月8日(日)
開館時間 午前10時~午後4時半(入館は4時まで)
休館日     月曜日

 

入館料 *完全キャッシュレス
<オンラインチケット料金>
一般:1,300円
学生(高校生以上):900円
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要)

 

<当日チケット料金>
一般: 1,500円(1,300円)
学生(高校生以上): 1,000円(900円)
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要)

 

Ⅱ[破]琳派から近代洋画へ 数寄者と芸術パトロン 即翁、酒井億尋

2025年1月18日〜3月16日

Ⅲ[急]松平不昧と江戸東京の茶(仮)

2025年4月12日〜6月15日

 

 


 

 

参考文献
荏原畠山記念館プレスリリース
「畠山記念館ハンドブック」2014年
『歴史をつくる人々 14 荏原製作所会長 畠山一清 熱と誠』ダイヤモンド社 1965年
ほか

 

Information

店名

荏原 畠山美術館

TEL

050-5541-8600(ハローダイヤル)

住所

〒108-0071 東京都港区白金台2丁目20-12

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