秋涼の風吹く 神無月 永松仁美 昂KYOTO店主 仕事で向かうはイギリスロンドンから車で北東へ3時間余り走ったノッテンガムシャー州に位置するニューアーク。ヨーロッパ最大級のアンティークフェアです。 イギリス全土では牧場の敷地を借りて毎月と言って良いほどフェアが開催されています。 家具、庭石、銀器、ジュエリーから台所用品そして、おもちゃまで様々なジャンルのアンティークが所狭しと売られています。芝生の上にそのまま銀器を置いているご主人、お酒を飲みながら商売よりもおしゃべりが楽しい店主達、雨が急に降り出しても絨毯屋の店主は「また乾くさ」と椅子に腰掛け本を読んでいます。確かにお日様が顔を出しカラリとすっかり青空となりました。そうです、このゆったりとした雰囲気がなんとも言えない心地よさなのです。 雨が凌げる牛舎や倉庫も会場の連ねた倉庫の最後の棟に書籍や紙ものを扱うお店を見つけました。どう見ても紙を愛する店構え、まだ若い店主の彼のセレクトがとても素敵です。私はふと足が止まりました。絵や挿絵を描く名も無き作家達のデッサンやスケッチ、落書きまでもが一枚一枚大切にスクラップされたコーナーを見つけました。描きかけの絵もあれば猫の仕草ばかり描かれた絵、父が娘を抱きしめるスケッチかと思えば裏には労働する男性の走り書きが描かれているのです。 書画を扱っておりました父が常に私に口癖のように話しておりました。 「有名無名関係なく無心に描かれ生まれた生き生きとした線や、感情までも宿っているかの瞬間のスケッチを見つけた時の喜びよ」 お次はお次はと期待を胸に一枚一枚めくる胸の高鳴り。あの頃そう言った父のたまらぬ気持ちを重ねると多幸感半端なく目頭までも熱くなりました。楽しいぞ。そんな私が熱心に見ていると若い青年店主も目をキラキラさせて同じ事を言うのです。 気づけば2時間もそこに居りました。そしてまた次の日も訪ねました。 せっかく生まれたものに対する取りこぼさぬ気持ちの出会いがこの地で蘇った事がとても嬉しくて自分の目を信じ大切に生きようと再確認出来た日となり、眼目を見抜き可能性を引き出す事が出来ますよう精進して参ります。 二年間に渡る「京都女子ログ連載」これにて終了。 御皆様、お目汚し長きお付き合いを頂きました事、誠に誠にありがとうございました。 秋の虫が寂しいよなんて鳴いてくれています。そしてまたいつかどこかで。 *永松仁美さんの連載「京都女子ログ」は『目の眼』2023年1月号〜2024年10月号まで掲載。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年10月号より Auther コラム|京都女子ログ 永松仁美(ながまつひとみ) 1972年京都生まれ。京都・古門前の骨董店の長女として育ち、結婚、子育てを経て、2008年京都・古門前に店を構える。2012年、祇園に移転しアンティーク&ギャラリー「昂KYOTO」をオープン。 この著者による記事: 私の夏時間 COLUMN永松仁美 夜長のお茶時間 COLUMN永松仁美 器と心 COLUMN永松仁美 水無月の思い出 COLUMN永松仁美 スープの伝言 COLUMN永松仁美 座右のポット COLUMN永松仁美 心に刻むひな祭り COLUMN永松仁美 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年8月号 No.575 阿蘭陀 魅力のキーワード 「阿蘭陀」とはオランダと読み、近世にヨーロッパで中国陶磁を写して作られた色絵陶磁です。江戸時代にもたらされ、茶陶として愛用されました。「阿蘭陀」は必ずしもオランダで作られたやきものだけではなく、フランスやイギリスで作られたものもあり、それぞれに異なるところも魅力のひとつです。華やかで奥深い「阿蘭陀」の世界をご紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 骨董・古美術品との豊かなつきあい方① 自分だけのコレクション、骨董品との出会い方「蒐活」編 Others | そのほか 展覧会情報|大英博物館 ロンドン・大英博物館で初の広重展。代表作「東海道五十三次」など 山田ルーナCalligraphy & Paintings | 書画 東京アート アンティーク レポート#3 骨董のうつわで彩る”食”と”花” Others | そのほか 世界の古いものを訪ねて#3 ケルン大聖堂 響きあう過去と現在 ー 632年の時を超え、未来へ続く祈りの建築 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 骨董・古美術品との豊かなつきあい方② 自分だけのコレクション、骨董品との別れ方「終活」編 Others | そのほか 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」関連 目の眼 おすすめバックナンバー 1994年9月号「写楽二〇〇年」 Calligraphy & Paintings | 書画 連載|真繕美 唐津茶碗編 日本一と評される美術古陶磁復元師の妙技1 Ceramics | やきもの 稀代の美術商 戸田鍾之助を偲ぶ People & Collections | 人・コレクション 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 秋元雅史(美術評論家)x 北島輝一(ART FAIR TOKYOマネージングディレクター) スペシャル対談|アートフェア東京19の意義と期待 People & Collections | 人・コレクション リレー連載「美の仕事」|土井善晴 土井善晴さんが向き合う、桃山時代の茶道具 土井善晴Ceramics | やきもの 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの