夜長のお茶時間 永松仁美 昂KYOTO店主 燃えるような夕焼けに心打たれ、厳しき夏を無事に乗り越えたと十五夜の名月に手を合わせ、姿は見えぬ美しき虫の音に心癒され、そんな五感を愉しむ余裕が戻りつつ有る、あゝこの心地の良き感覚よ。暑さで空を見上げる気力さえ無かったあの夏の日を忘却の彼方へと誘ってくれる長月。夕飯の後片付けもそこそこに床に着くまでの時間を大切にできるような気がする初秋であります。 そんな夜長の自分時間には、お茶を淹れる主となる器以上にお気に入りの名脇役の道具達を愛でる時間がことの外楽しいのです。と、大袈裟に申しまても数寄者とは程遠い私は普段毎日使うキラリとした台所道具を見つけた喜びをただ1人噛みしめ喜ぶ主婦なのです。脇役の道具達こそ主役の華である器を引き立て、その仕事に徹する当たり前に凛と佇む控えめな姿にさえ私はキュンキュンするのです。 ホテルなどのアフタヌーンティーには当たり前に出て来る受け皿付き銀製ティーストレーナー。アンティークショップのどこにでも見かけはするものの、受け皿も揃いでこれという繊細な代物にはなかなか出会うことは難しくなりました。決して華美で無いシンプルな姿が好みです。かといって何も無いのも寂しかったりするわけで気持ち色気も欲しいのです。持ち手が長く有るため実用的であり、何よりも使っていて茶漉しに漉された銀に写る茶葉でさえキラキラとエレガントに見えてしまうからまた嬉しいのです。そして意外にも日本にこのタイプの茶漉したる物がなかなか存在していない事は不思議です。ホールマークは左からメーカーマーク、王冠、獅子、Cと刻印されています。メーカーマークはマッピン&ウエップ刻印、王冠マークはシェフィールドの産地刻印、歩く獅子はスターリングシルバーを示す純度刻印、Cは年号刻印となります。 刻まれた刻印をルーペで覗きながら年代や生まれた場所などを調べながら地図を広げ次の渡英に訪ねてみようかと夢馳せる夜長のお茶時間が尚更また頑張る活力へと繋がります。裕福な淑女達のサロンでリッチなカップ&ソーサーの側で気持ち良くお茶を頂く為の名脇役であったティーストレーナーこそ気を抜かぬ細やかな手仕事の妙は豊かな時代の象徴であります。そんな私はこのティーストレーナーと共に今夜は月見団子とお番茶を頂くのでありました。 *永松仁美さんの連載「京都女子ログ」は『目の眼』2023年1月号〜2024年10月号まで掲載。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年9月号より Auther コラム|京都女子ログ 永松仁美(ながまつひとみ) 1972年京都生まれ。京都・古門前の骨董店の長女として育ち、結婚、子育てを経て、2008年京都・古門前に店を構える。2012年、祇園に移転しアンティーク&ギャラリー「昂KYOTO」をオープン。 この著者による記事: 秋涼の風吹く 神無月 COLUMN永松仁美 私の夏時間 COLUMN永松仁美 器と心 COLUMN永松仁美 水無月の思い出 COLUMN永松仁美 スープの伝言 COLUMN永松仁美 座右のポット COLUMN永松仁美 心に刻むひな祭り COLUMN永松仁美 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年10月号No.577 李朝空間 癒やしのかたち 日本とは文化的に近しく、かつ異なる美を持つ李朝のやきものや絵画、道具や家具は、古くから日本の蒐集家に愛されてきました。近年は韓流ドラマが定着して、李朝時代の歴史に興味を持つ方も多く、李朝時代の骨董は新しいファンを増やしています。今回の特集では李朝の古美術を用いた心地良い空間の愉しみをご紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「黒茶碗の魅力」 Vassels | うつわ 世界の古いものを訪ねて#4 石に囲まれた風景と、人の暮らしに根ざした歴史をたどる History & Culture | 歴史・文化 大豆と暮らす#3 おから|大豆がつなぐ、人と食 Others | そのほか 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 連載|真繕美 古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2 Ceramics | やきもの 稀代の美術商 戸田鍾之助を偲ぶ People & Collections | 人・コレクション 根付 怪力乱神を語る 掌の〝吉祥〟を読み解く根付にこめられた想い Ornaments | 装飾・調度品 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 企画展紹介|Salon SCÈNE 北欧陶器とフランスのヴィンテージ家具の最先端をみる People & Collections | 人・コレクション 箱根小涌谷 岡田美術館、2013年オープン時のコレクションを振り返る People & Collections | 人・コレクション 日本橋・京橋をあるく 特別座談会 骨董街のいまむかし People & Collections | 人・コレクション 最も鑑定がむずかしい文房四宝の見方 硯の最高峰 端渓の世界をみる People & Collections | 人・コレクション