骨董ことはじめ⑧ 物語と笑いに満ちた江戸文化を楽しむ、ゆたかなる春画の世界 RECOMMEND お久しぶりです、編集のイトウです。 みなさん大河ドラマは見ていますか? 9/14に放送された「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」第35回 では蔦屋重三郎が世に送り出した浮世絵師・喜多川歌麿が代表作となる『画本虫撰(えほんむしえらみ)』に続いて、いよいよ「歌まくら」を描き上げましたね。 NHKがこの春画の傑作についてどのように描くのか、興味深く見ていましたが、少年期のトラウマを抱えながら育ってきた歌麿が、蔦重と共に生きることで人間的に成長した一つの到達点として描いていたのは、なかなか胸熱でした。 さて今回は春画について紹介しましょう。 「鮑取り」 喜多川歌麿筆 江戸時代・19世紀 大判 錦絵 3枚続 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 春画とは、性交・性行為・性風俗などをテーマに描かれた絵画のことで、日本で独自の発展を遂げましたが、近代化を急いだ明治以降はその評価に蓋をしたまま、美術的にはほとんど無視されたまま現代にいたりました。しかし実は当時の著名な浮世絵師の多くが春画を手がけており、その表現の多彩さ、完成度の高さから高く評価されており傑作も多く遺されています。 春画のはじまりは不明ですが、もともとは中国から渡ってきた房中術の図像から展開してきたのではないかと考えられています。平安時代には「おそくずえ(偃息図絵)」と呼ばれる、性を題材にした絵画が存在したことが同時代の記録にあり、主に貴族階級の子女の性教育に用いられたようです。 当初は肉筆が主でしたが、江戸時代に版画が普及すると春画も盛んに発行されて大人気となり、浮世絵の一大ジャンルとなりました。北斎や歌麿といった一流絵師のほとんどが春画も同時に手掛けていたり、「歌まくら」のように豪華なつくりのものから、モノクロの簡易な版画まで多様に刷られたということは、貴族や武士だけでなく、庶民にまで普及していた証でしょう。ただテーマがテーマだけに、幕府により何度か規制をされているのも事実です。しかしキリスト教やイスラム教のような戒律に縛られていない日本では、神代の時代から性には寛容な風土があり、春画を旅の土産として交換したり、厄除けや火伏せのお守りとしても用いるなど、西洋でいうポルノとは一線を画すものとして捉えられていたようです。 実際、江戸時代の春画は、笑い絵とも呼ばれ、陰湿なものというよりは、洒落やパロディを満載したユーモアあふれるものが多いのも特徴です。近年では若い研究者が春画を採り上げるようになり、2014年には大英博物館でも展覧会が開催されたのが大きな起点となって、日本の美術館でも春画展が開催されるようになるなど、今後は春画の世界に光があたろうとしています。 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年10・11月号No.583 名古屋刀剣博物館 サムライコレクション 2024年に新しくオープンした名古屋刀剣博物館(名古屋刀剣ワールド)。 東建コーポレーション蒐集の500振を超える刀剣のほか、甲冑や刀装具、武具など、武将をテーマにした絵画など、貴重な資料群を所蔵。それらをできるだけわかりやすく紹介したいと様々な工夫が施された展示も見どころとなっている。今回は、本誌刀剣ファンのために同館の見どころや貴重な作品をご紹介。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂 KYOTO店主) 辻村史朗さんに”酒場”で学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 札のなかの万葉 百人一首と歌留多のこころ History & Culture | 歴史・文化 大豆と暮らす#3 おから|大豆がつなぐ、人と食 稲村香菜Others | そのほか 骨董ことはじめ⑤ 明治工芸という世界|清水三年坂美術館・村田理如コレクション People & Collections | 人・コレクション 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション 骨董・古美術品との豊かなつきあい方① 自分だけのコレクション、骨董品との出会い方「蒐活」編 Others | そのほか 名碗を創造した茶人たち Vassels | うつわ 2023年8月号 特集「猪口とそばちょこ」 不思議に満ちた そばちょこを追って Vassels | うつわ 映画レビュー 配信開始|骨董界の夢とリアルを描いた 映画『餓鬼が笑う』 Others | そのほか 煎茶と煎茶道 日本人を魅了した煎茶の風儀とは? History & Culture | 歴史・文化 最も鑑定がむずかしい文房四宝の見方 硯の最高峰 端渓の世界をみる People & Collections | 人・コレクション 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画