『目の眼』リレー連載|美の仕事 村治佳織さんが歩く、東京美術倶楽部で愉しむアートフェア RECOMMEND 今秋もまもなく開催される東京美術倶楽部の東美アートフェア2025(2025年10月17日・18日・19日)。昨秋の同時期には、東美特別展をレポートしていただいたクラシックギタリストの村治佳織さんに、この夏はもっとカジュアルに美術品のお買い物を楽しめる東美正札会を体験していただきました。 *この記事は、雑誌『目の眼』2025年10月/11月号のリレー連載「美の仕事」に掲載されています。 東京美術倶楽部の東美正札会へ 昨年10月に東美特別展に伺いました。それからあっという間に半年、次回の取材は再び東京美術倶楽部の催事はいかがですかと目の眼編集部から連絡がありました。特別展とはまた違った雰囲気との事で、どんな会なのだろうと伺いました。 東京美術倶楽部の前に到着すると、入口の脇にキッチンカーが2台出ています。確かに特別展とは全く違う雰囲気です。入場も無料だそうで、お客様が自由に出たり入ったりして、ドリンクや軽食を楽しんでいます。 会場には出展者ごとのブースはなく、会場を仕切ったパーテーションに絵画や掛け軸がかけられ、その下に赤い毛氈を敷いた低い陳列棚があって、茶道具や陶磁器、ガラスの器、漆器など様々なものが所狭しと並んでいます。 東京美術商協同組合理事で東美正札会実行委員長の玉鳳堂の山田高久さんにご挨拶して、4階から案内をして頂くことになりました。正札会は特別展やアートフェアよりも歴史が古く1952年(昭和27年)から、もともとお中元とお歳暮に合わせたセールとして開催されるようになったそうです。約5千点もの品物が出されているそうで、本当にたくさんの品物がありました。留学中にパリで行った骨董市のようですが、さすがにこちらの方が整然としています。「以前は1万点近くも出されたこともあるんですよ」と山田さん。美術コレクター、お茶をされる方を中心に色々な方が訪れるそうです。最近では本物の古いうつわを使いたいと、5客、10客と揃った向付や皿などを求めにこられる飲食店の方も増えているとか。骨董市のように値引き交渉はできるのか伺うと、「正札会は2万円からとお値段を抑えて出品されるセールなのでそれは難しいですね。ですが、骨董や茶道具の他に最近のブランド食器で新品同様のものなど、新しいものを買うよりもお得なことが多いですよ。」と山田さん。 品物には名称と金額が書かれたお買い上げ伝票(正札)が添えられています。気に入った品物があったら、会場内にいる古美術商さんに伝えて売約済みの札をもらい、お買い上げ伝票と入れ替えに置いて、1時間以内にお支払いを済ませて帰る際に商品を受け取るというシステム。慣れないとハードルが高い気もしますが、逆に面白いようにも思います。 そんな70年以上の伝統がある東美正札会ですが、主催する東京美術商協同組合では新しい試みもされていて、「TSUNAGU」という東京美術商協同組合員の美術商が出店しているオンラインモールを運営しているそうです。3階ではそのリアル展示会をしていました。 今年のテーマは没後50年の棟方志功特集と酒のうつわの二本立て。この二つを選ばれた理由をいけだ古美術の池田祥三さんに伺うと、「どちらもとても人気があるんです。この展示は3回目なのですが、酒器の展示がとても好評だったので今回は没後50年の棟方志功と一緒に開催しました」。棟方志功はお酒が好きだったのかなと、ふと思って聞いてみると、「出品に協力している画廊が志功に詳しいので聞いてみましょう」と池田さん。そばにいた西邑画廊の渡辺信知さんに声をかけると、「大好きでした」とニコニコしながら教えてくれました。 酒器も磁器や陶器、七宝、ガラスなど色とりどり。目の眼の連載でもお馴染みの勝見充男さんが、ガラスコップを布に包んで茶缶におさめたセットを蓋をあけて見せてくれました。薄くて繊細なグラスも持ち歩けるようにと作られたそうです。お店に好きな酒器を持っていって呑まれる方も多いとか。とても興味をそそられました。 会場では軽井沢の酒店さんが長野ワインや日本酒を販売されていました。試飲もされていたので、「展示の酒器でも試飲できたりしますか」と伺うと、「出展業者がOKであれば大丈夫ですよ。ぜひ試してみてください」と言っていただいて、唐津の盃で日本酒を少しいただきました。私はお酒は普段ほんの少し嗜む程度なのですが、日本酒が唐津の肌からひんやりと手にも伝わって、とても美味しく感じました。 現在はインターネットだけで美術品を買うお客様が増えてきたそうで、オンラインモールは維持費もかかり大変ながらも、徐々に認知度が上がってきているとのこと。「ECサイトに力を入れているのは若いお客様が増えてほしいというのもあります」と池田さん。そこはクラシック業界も同じ。最近、中学校で演奏しましたが、子供の頃に聴いた音楽は記憶に残るので、大人になった時に思い出してくれそうです。次の世代に色々な機会を提供するのはとても大切だと思います。私は昨年Canon(カノン)というAIを作りました。LINEでダウンロードして質問していただくとカノンがお返事を返します。美術も音楽もその場で感動や癒やしをもらうものですが、新しいツールでの情報発信はまさに「つなぐ」ために活用できると思います。 さて2階では呈茶もあり一休み。お茶を一服いただいて床を拝見しました。鑑賞陶磁の展示もされていて陶磁器の歴史を教えていただきました。驚いたのは約6千年前の縄文土器も買えるということ。手に取って見るのも初めてです。そして1階に到着。翌日に行われる能登半島復興支援のチャリティーオークションの下見会が行われていました。「能登半島は輪島塗でも広く知られています。日本美術にも関わりが深いですから、少しでも支援になればと昨年に引き続き行っています」と、東京美術商協同組合の青年会理事長を務める小西大閑堂の小西將元さんに伺いました。文化を力に復興を支援できる素晴らしい取り組みだと思います。音楽の分野でも、能登で解体される建物の古材を使ってギターやドラムなどを作っている会社があります。私もギターをお借りしたので、これからコンサートで演奏する予定です。 オークションは誰でも参加できるそうで、下見会の奥にオークション会場がありました。下見会で先に入札もできるそうで、すでに札が入っている作品も結構あります。今回は下見会だけで実際のオークションを見ることはできませんでしたが、気軽にオークションを体験できそうで、機会があったら参加してみたいと思います。 この取材でいつも思うのですが、詳しい美術商の方とお話しながら作品を見るのはとても楽しい経験です。今回の東美正札会はたくさんの方と出会えて、企画も盛りだくさん。東京美術倶楽部の印象がまた変わって親しみを感じました。まだ行ったことがないという方には東美正札会がおすすめです。 Information 東美アートフェア 2025年10月17日 ~ 2025年10月19日 会場 東京美術倶楽部 住所 東京都港区新橋6-19-15 URL https://toobi.co.jp/special TEL 03-3432-0191(代) RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年10・11月号No.583 名古屋刀剣博物館 サムライコレクション 2024年に新しくオープンした名古屋刀剣博物館(名古屋刀剣ワールド)。 東建コーポレーション蒐集の500振を超える刀剣のほか、甲冑や刀装具、武具など、武将をテーマにした絵画など、貴重な資料群を所蔵。それらをできるだけわかりやすく紹介したいと様々な工夫が施された展示も見どころとなっている。今回は、本誌刀剣ファンのために同館の見どころや貴重な作品をご紹介。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 展覧会紹介|東京ステーションギャラリー 世界を旅するインド更紗。時を超えて愛される文様と色彩の物語 Ornaments | 装飾・調度品 骨董ことはじめ⑥ 骨董ビギナー体験記|はじめて骨董のうつわを買う Others | そのほか 古唐津の窯が特定できる「分類カード」とは? 村多正俊Ceramics | やきもの 骨董ことはじめ④ “白”を愛した唐という時代 History & Culture | 歴史・文化 台北 古美術探訪|国立歴史博物館 歴史と古美術を満喫、台北「国立歴史博物館&植物園」を探訪 History & Culture | 歴史・文化 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの 超 ! 日本刀入門Ⅱ|産地や時代がわかれば、刀の個性がわかります Armors & Swords | 武具・刀剣 リレー連載「美の仕事」|土井善晴 土井善晴さんが向き合う、桃山時代の茶道具 土井善晴Ceramics | やきもの Book Review 会津に生きた陶芸家の作品世界 Others | そのほか 眼の革新 時代を生きたコレクターたち 青柳恵介People & Collections | 人・コレクション 私家本拝見① |「島桑 江戸指物の世界」 受け継がれる美意識、指物師の魂が宿る「島桑」の美術工芸品をまとめた1冊 Ornaments | 装飾・調度品 東京アート アンティーク レポート #1 3人のアーティストが美術・工芸の継承と発展を語らう Others | そのほか