辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「黒茶碗の魅力」 RECOMMEND 陶芸家の辻村史朗さんと、京都でギャラリーを営む永松仁美さんが、古陶の茶碗について、作り手の視点から独自の見どころ勘どころを紐解いていく「茶碗談義」。 今回は2025年9月に横浜で開催されたアートフェア「Tokyo Gendai (以下、東京現代)」において、辻村さんが自作の黒茶碗50点を発表した展示会場にお邪魔し、黒茶碗のおもしろさや創作上のヒントなどさまざなお話をうかがいました。その展示の様子ともに紹介します。 1990年代にデヴォン窯で製作した黒茶碗 茶碗の歴史を彩った黒の世界 Tokyo Gendai 2025 黒茶碗の展示と辻村史朗さん(イムラアートギャラリーにて) 永松 この連載ではこれまで、辻村さんの半世紀におよぶ作陶活動のなかでライフワークとして長年取り組んでこられた「井戸茶碗」と「志野茶碗」についてお話を伺ってきました。そして昨年の「東京現代」ではその集大成の一つとして自作の志野茶碗だけを紹介する展示も行いましたが、実際会場に白い茶碗をずらりと並べてみたときに、ある意味対極にある黒いお茶碗にも辻村さん独自の世界観が反映されていることに気づきました。今回はこれまで数十年のうちに造られた黒茶碗のなかから辻村さんと一緒に選んだ名作選となっています。 辻村 黒茶碗はずっと作ってきましたけど、そんな昔のがあったかな? 永松 作品としては50年くらい前のものもありましたが、今回の展示では1990年代にイギリス・デヴォンの窯で作陶された茶碗がいちばん古いものですね。 辻村 ひとくちに黒茶碗といってもいろんなタイプがあるんです。比較的数多く作っているのは瀬戸黒茶碗のような「引き出し黒」やね。これは焼成中に窯から取り出して急冷させることで鉄釉が反応し、艶やかで深みのある黒色を出す方法で、これは織部黒も黒織部も基本的には同じ。ただ焼きが甘いと、黒というより茶色になってしまうので引き出すタイミングが重要。古作のなかにはわざと茶色く発色させた茶碗も多く造られていますね。 永松 タイミングはどうやって測るんですか。 辻村 温度とか時間とか作り手によっていろんな方法があるけど、要は釉薬の溶け具合やね。調べてみると黒茶碗というのは、もともと志野を焼くときに色味として一緒に窯に入れたんが始まりやったようです。昔は窯のなかで釉薬がどれくらい溶けてきたか色見用の茶碗を時折り取り出して測ってたのが、途中で引き出すことで黒くなることを発見したんやね。 永松 そうなんですか!? 辻村 もちろん今造るときは黒茶碗だけを専用の窯で焼いてますよ。引き出すタイミングだけでなくて、釉薬の調合によっても変わってくるんで私もいつも試行錯誤してます。 永松 釉薬は毎回変えているんですか? 辻村 長年焼いていくうちに基本的なレシピはできてくるんやけど、「今回はこんな黒を出したい」という理想がありますから微妙に調合は変えたりします。それで「気に入った黒ができた」と思ってどんどん焼き続けていくと釉薬がなくなってしまう(笑)。いや最初はいっぱい作るんですけど、なくなってくると継ぎ足し、継ぎ足ししていくうちに変わってしまうこともある。 永松 ラーメン屋さんみたいですね(笑)。 辻村 もちろん釉薬以外に焼成方法によっても大きく変わります。今回展示したなかに片面は艶っとした黒、もう片面はマットな感じ黒の両方を併せ持つ茶碗がありますが、これは還元焼成になって煙を吸うたんやね。 永松 焼くときに煙をいっぱい吸わせるとマットな黒になる、ということですか? 辻村 そう単純にいかないのが難しいところなんやけど(笑)、でも一つの茶碗のなかに両方の表情が出たのはおもしろいと気に入ってます。 永松 黒の濃さというか深みだけでなく、鏡面仕上げみたいな艶っと反射するような黒や、マットな質感の黒まで焼き分けることができるんですね。すごいなぁ。今回展示しているなかでは、瀬戸黒風をはじめ、織部黒風、黒織部風、黒樂風と、それぞれ古作の雰囲気を活かしながらも独自の解釈を織り交ぜて多彩なラインナップになりましたね。 辻村 これも意識的に変えたり、古作を再現しているわけやなくて、数を作ってくうちに自然に変化していったもんです。でも黒楽だけは造り方がちょっと違いますけど。 永松 今回は茶碗のほかに黒を塗り込めた抽象絵画作品も製作していただきました。 辻村 これも何十年と描き続けてるもので基本的には黒茶碗を造るのとほぼ同じ土や釉薬を画材として使っています。立体的に茶碗と成形するのかキャンバスに表現するかだけの違いやね(笑)。 連載「辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ」これまでの記事 志野茶碗〈前編〉 志野茶碗〈後編〉 井戸茶碗〈前編〉 井戸茶碗〈後編〉 *連載「辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ」は、『目の眼』電子増刊号に掲載しています。 ▷電子増刊号は、目の眼デジタル月額読み放題サービス、Amazon kindle、hontoでご購入、ご覧いただけます。 目の眼デジタル月額読み放題サービスのお申込は、こちら RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第7号 西洋骨董のある暮らし〜異国生まれの骨董しつらい デジタル月額読み放題サービス 特集「西洋骨董のある暮らし〜異国生まれの骨董しつらい」 日本では昔から外国産の文物をうまく取り合わせることが骨董あそびの極意とされています。今号は西洋をはじめとする異国生まれのアンティークをいまの私たちの暮らしに取り入れたしつらいやスタイル、うつわの使い方や遊び方のコツをプロの方々に教えてもらいました。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 世界の古いものを訪ねて#10 私たちはなぜ古代エジプト美術に惹かれるのか。秘宝をめぐる。 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(後編) Ceramics | やきもの 企画展紹介|Salon SCÈNE 北欧陶器とフランスのヴィンテージ家具の最先端をみる People & Collections | 人・コレクション アンティーク&オールド グラスの愉しみ 肩肘張らず愉しめるオールド・バカラとラリック Vassels | うつわ 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画 花あわせ 心惹かれる花は、名もなき雑草なんです 池坊専宗Vassels | うつわ 2023年8月号 特集「猪口とそばちょこ」 不思議に満ちた そばちょこを追って Vassels | うつわ 展覧会紹介|大阪市立美術館 特別展「NEGORO 根来−赤と黒のうるし」 熱量と刺激を感じる展示 白洲信哉 Vassels | うつわ 企画展紹介|ザ・プリマ・アートセンター(韓国) ソウルに新たな美術館 誕生 THE PRIMA ART CENTER Ceramics | やきもの 『目の眼』リレー連載|美の仕事 村治佳織さんが歩く、東京美術倶楽部で愉しむアートフェア Others | そのほか 札のなかの万葉 百人一首と歌留多のこころ History & Culture | 歴史・文化 コラム|大豆と暮らす#5 消えかかる台湾との縁。台湾で生まれた祖父と、日本で生きた曽祖父の物語 稲村香菜History & Culture | 歴史・文化