日光東照宮(前編) デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社代表取締役社長 小西美術の原点は日光です。日光には二社一寺と言って、二荒山神社、東照宮、輪王寺があり、合わせて約110棟の国宝・重要文化財が集中しています。 東照宮はご承知の通り、家康公を神様として祀っているので、当時の幕府の権力と技術の粋を集結した最高傑作と言っても過言ではありません。とりわけ日光の彫刻彩色は、日本の彩色発展の中では頂点として評価されています。日光にしかない仕様もたくさんあり、国内の全ての技術を一箇所に集約した、唯一無二の存在と言えるでしょう。 建造物の漆塗りでは、日光は全国の半分近くの漆面積を占めると言われています。平成19年からは日本産漆を100%使用し、明治時代以降、テレピンで漆を希釈する方法が工芸品の多くに採用されますが、日光は漆を希釈しない本来の伝統方法を最も厳しく守っている社寺です。 希釈をすることで見た目を良くすることができますが、実際には、一番の目的は職人の負担を軽くすることです。塗りやすくなることで効率は良くなりますが、耐久性が著しく低下しますので、企業方針として小西美術では4年前から原則、希釈しない方針を全国で実行しています。手間がかかることは理由にならないと私が判断したからです。 (つづく) 月刊『目の眼』2017年4月号 Auther 連載|ふしぎの国のアトキンソン デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社代表取締役社長。元ゴールドマン・サックス証券アナリスト。1965年、イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。2009年、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社。2011年に同社長に就任。日本の文化財の価値を見いだし、旧来の行政や業界へ改革の提言を続けている。『新・観光立国論』、『新・所得倍増論』など著書多数。最新刊は『国宝消滅―イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』。 この著者による記事: 御宸翰(ごしんかん)に出会う COLUMNデービッド・アトキンソン 京の町家 COLUMNデービッド・アトキンソン 茶の湯 COLUMNデービッド・アトキンソン 40年ぶりに蘇った陽明門を拝見して COLUMNデービッド・アトキンソン 日光東照宮(後編) COLUMNデービッド・アトキンソン RELATED ISSUE 関連書籍 2017年8月号 No.491 尚 王家の末裔 野津圭子さんと歩く 琉球〜沖縄 お茶をやり出して間もない頃、茶道具の山下さんの大寄せ茶会に出かけましたら、大きな床の間にこの写真の御宸翰が掛けられていました(73頁)。まず表具に感動しました。房が付いている御軸は初めて拝見したからです。また、霊元天皇は、養母が父帝の中宮徳… 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 『目の眼』リレー連載|美の仕事 橋本麻里さんが訪ねる「美の仕事」 大陸文化の網の目〈神 ひと ケモノ〉 橋本麻里People & Collections | 人・コレクション 世界の古いものを訪ねて#7 アラビア〈バレンシア〉の絵付けにみる、北欧デザインと生活。 山田ルーナVassels | うつわ 古美術をまもる、愛でる 生糸染めから手機織りで受け継がれる、真田紐師 江南の唯一無二 Others | そのほか 台北 古美術探訪|国立歴史博物館 歴史と古美術を満喫、台北「国立歴史博物館&植物園」を探訪 History & Culture | 歴史・文化 眼の革新 大正時代の朝鮮陶磁ブーム 李朝陶磁を愛した赤星五郎 History & Culture | 歴史・文化 骨董・古美術品との豊かなつきあい方② 自分だけのコレクション、骨董品との別れ方「終活」編 Others | そのほか 正宗の風 相州伝のはじまり “用と美”の革新、名刀匠正宗の後継者・正宗十哲が繋ぐ相州伝 Armors & Swords | 武具・刀剣 骨董ことはじめ⑩ 大河ドラマから知る、日本の歴史の奥深さ 稲村香菜Others | そのほか 夏休みにおすすめ! 古代ガラスの展覧会 Ornaments | 装飾・調度品 『目の眼』リレー連載|美の仕事 村治佳織さんが歩く、東京美術倶楽部で愉しむアートフェア Others | そのほか 小さな煎茶会であそぶ 自分で愉しむために茶を淹れる 佃梓央前﨑信也History & Culture | 歴史・文化 東西 美の出会い 日本・オーストリア文化交流の先駆け|ウィーン万国博覧会 森本和夫History & Culture | 歴史・文化