骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 RECOMMEND この記事は『目の眼』2023年11月号に掲載しています。 特集❖骨董の多い料理店❖ 料理とうつわだけじゃなく 本物が求められる時がきたと感じます ごだん宮ざわ 宮澤政人 京都の中心部を南北に走る市営地下鉄烏丸線、その「五条駅」から徒歩数分のところに「ごだん宮ざわ」はある。比較的閑静な一画にポツンと佇むお店だが、今回の企画(目の眼2023年11月号「目利きの京料理人」特集)にあたってはまず初めに紹介すべき重要な料理店だ。 主人の宮澤さんは神奈川県出身。実家が寿司店を営んでいたため中学生の頃から店を手伝ううちに、自然と料理の道を志したという。18歳のとき横浜の寿司割烹店へ修業に入ったが、あるとき京都を訪れてその街並、風情に感動し、京都で料理人として自立することを決意。「京都ホテルオークラ」「柿傳」「高台寺和久傳」といった名店で修業を重ね、2007年に四条で「じき宮ざわ」を開店、初心を貫いた。 「最初は10坪の小さな店で、厨房スペースが狭くて近くの旅館の調理場を借りて仕込みを行なってました。たまたまその旅館の朝食作りを請け負ったら、昼も夜もと頼まれてだんだん人手を増やしたのですが、やがて旅館が廃業することになって、また私1人に戻ろうかとも思ったのですが、せっかく縁あって集った4人の職人を手放すのも心苦しいので、新しい店を探して私がこちらに移ったんです」と教えてくれた。 宮澤さんと話していると、この「縁」、そして「本物」という言葉がよく出てくる。それほどこの2つを大事に考えているからだろう。この頃には宮澤さんの料理はもちろん、古陶磁や現代作家のうつわを巧みに使った美意識が受け入れられ、うつわ好きや美術商も通う人気店となっていた。〝古いうつわで提供する店は前からあったが、「宮ざわ」以前と以降で、盛り付けや提供のスタイルが変化した〟と、ある食通はいう。 「流れで始まった」という「ごだん宮ざわ」だが、さらに本格的な古陶磁を取り揃え、ときに数寄者や骨董好きの客がやって来たと見るや、あくまでさりげなく、何も言わず、愛好家が唸るような酒器やうつわで料理を供してくれることもある。そんな遊び心もこの店の人気の理由だ。 「阿吽の呼吸というか、共感というか、古いうつわを介してお互いに心で会話するような瞬間が生まれると嬉しいですね。それにしても今では反応するお客様が断然増えてきました。知識でなくて、感覚で反応されています。コロナ禍を経て、みんなが真剣に良し悪しを見分け、本物を求める時代になってきたからだと思います。だって日本人は400年以上前から茶事や宴席でこういう遊びを組み込んできたんですから」と微笑む。 そんな宮澤さんが古美術に目覚めたきっかけはいつだったのだろう。 「柿傳での修業中、茶事の料理を手がけたのですが、亭主を務めたお茶人方から自分達の道具をぜひ使ってほしいと依頼されて、志野や織部といった古陶磁に料理を盛り付けたとき衝撃を受けたんです。〝美しい〟と。それが原体験なのですが、考えてみればその人たちは税理士だったり医師だったり、普段は別のお仕事をしている、いわばアマチュアなんですよ。その方たちが数百年前の懐石に用いられた本物のうつわを使っているのに、どうしてこれを本職の料理人がやらないのか、これこそプロが担うべきことだと痛感したことがきっかけです」 以来、京都だけでなく各地へ出かけるたびに骨董店を巡り、心に響くうつわを探し求めてきたという。うつわ選びのポイントを伺うと、「ありません、意識してません」とのこと。 「私は本来、人見知りで出不精なんです。そんな私が道具屋さんに行こうと思い立って、そこで心に響くうつわに出会ってしまう、それはもう縁じゃないですか(笑)。人もうつわも、そんな自然な出会い方が理想です」 今回は、その縁の一端を紹介していただいた。 宮澤さんは近年、魯山人のテキストを読み込んでいるという。 「魯山人が星岡茶寮の会報誌『星岡』に長年連載し続けた文章があるんです。後に『獨歩─魯山人芸術論集』とか『北大路魯山人の星岡』という本にもまとめられているんですが、ここ数年、それを読み続けています。魯山人には毀誉褒貶、いろんな逸話がついてまわって、偏ったイメージで語られることも多くありますが、このテキストには魯山人の生の言葉がそのままに遺されています。そこから見えてくるイメージはまさしく獨歩青天。その中の一節に 「私は人間の皆が美しいことを好み、良い物を良いとわかり、本当の道を歩くことが本当だとわかり、仮りにも邪欲の道に陥ることのないよう力を尽したい」「この世の中を少しずつでも美しくして行きたい。私の仕事は、そのささやかな表われである」 という言葉があるのですが、これこそが彼の志した生き方だったと私は思います。あまりにも純粋に生きたからこそ、許せないこともあったのでしょう。実際に生きてたら、苦々しい方だったかもしれませんが(笑)、一度お会いして話を聞いてみたかったです。実はいま、北大路に新しい店を作っているんです。その名も「北大路 獨步」。まさにここに書かれている魯山人の理想、本当に伝えたかったことに思いを重ねて、この新店で精進して参ります」と教えてくれた。 Information ごだん宮ざわ 所在地:京都市下京区区東洞院通万寿寺上ル大江町 557 問合せ:075-708-6364 ※完全予約制 HP:https://jiki-miyazawa.com/ ※2023年9月に取材。同年10月には新店「獨歩」を開店している。 ※現在発売中の最新刊『目の眼』2・3月号「織部のカタチ」特集では、「獨步」を会場として織部の優品に美しいお料理を盛っていただきました。 ぜひご覧ください。 ▷ 目の眼2023年11月号「目利きの京料理人」特集号は、こちら ▷ 目の眼2025年2・3月号「織部のカタチ」特集号は、こちら 月刊『目の眼』2023年11月号より RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2026年2・3月号No.585 須恵器 世界を変えたやきもの SUEKI Change the World これまでにない大規模な須恵器の展覧会が、愛知県陶磁美術館から、兵庫、山口、東京と巡回します。 古墳時代に大陸から渡ってきた窯焼の技術によって、それまで日本になかった硬質のやきものが作られるようになりました。日本最大のイノベーションといわれる須恵器の誕生です。約30年ぶりという本格的な須恵器の展覧会を機会に、コレクターによる須恵器の愛玩の変遷もみながら、ご紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 名碗を創造した茶人たち Vassels | うつわ 世界の古いものを訪ねて#1 ジュドバル広場の蚤の市|ベルギー・ブリュッセル Others | そのほか 展覧会紹介 世界有数の陶磁器専門美術館、愛知県陶磁美術館リニューアルオープン Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 展覧会紹介 「古道具坂田」という美のジャンル People & Collections | 人・コレクション 展覧会紹介|大英博物館 なぜ世界はサムライを求め続けるのか?[ロンドン・大英博物館「Samurai」展] Armors & Swords | 武具・刀剣 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈前編〉 People & Collections | 人・コレクション 稀代の美術商 戸田鍾之助を偲ぶ People & Collections | 人・コレクション 加藤亮太郎さんと美濃を歩く 古窯をめぐり 古陶を見る Ceramics | やきもの 「美の仕事」特別編 池坊専宗 中国陶磁の色彩にあそぶ Ceramics | やきもの 新しい年の李朝 李朝の正月 青柳恵介 People & Collections | 人・コレクション 編集部レポート スキモノムスヒの会、待望の東京での茶事に初参加 Others | そのほか