スポーツとメモラビリア 近衞忠大 クリエイティブ・ディレクター 我が家はスポーツ一家だ。親族を含め若い頃はみな何かしらの運動をやっていたが、それ以上にスポーツ観戦に大変熱心だ。そんな家に育った私も当然スポーツ観戦が大好きだ。 大谷翔平選手の所属していたエンジェルスの試合(その日に限って出場せず)、JリーグFC東京に所属していた久保建英選手のデビュー戦、英国のサッカープレミアリーグ、アイスホッケー北米リーグ、競馬のドバイワールドカップ、F1グランプリなど色んな国で様々なスポーツを観戦した。 スポーツそのものも面白いが、特にそれを取り巻く文化に非常に興味があり、それも含めて楽しんでいる。各国の応援の違い、場内にある飲食店、競馬であればサラブレッドの歴史や血統、自動車レースはスポンサーが提供するサービスなど楽しみ方も多様だ。 そしてメモラビリアといわれる記念品も楽しみの一つだ。海外の観光地やスポーツイベントでは必ずと行っていいほどピンズが販売されていて、お土産の定番だ。蚤の市でもピンズを見かけるし、コレクターも存在するほど親しまれている。 国際的なスポーツイベントでは自国もしくは自チームのピンズを大量に持っていき、他チームの選手たちと交換する習慣がある。クレデンシャル(首から下げる通行証)の紐の部分にピンズをつけて、まだ手に入れていない国の選手を見かけると声を掛ける。そして自然と国際交流が生まれる。 学生時代に知的発達障がい者のスペシャル・オリンピックスのボランティアをやっていた関係で、ザルツブルグで行われた冬季世界大会に同行した。その際に各国の選手団とピンズの交換をしたことは非常に印象に残っている。交換するのはピンズだけではない。日本選手団には長いベンチコートが支給されていたが、アメリカのコーチが寒さに耐えかねてそれを欲しいという。彼が着ていたのは年季の入った皮のスタジャン。見るからに寒そうだったので躊躇したが、なんとそれはオリンピック・アメリカ代表の公式ユニフォームだった。彼は1984年のロスアンゼルスオリンピックに参加していた元選手だったのだ。 海老で鯛を釣った……というやつだが寒いものは寒い。 しかしそれを我慢するだけの価値があるメモラビリアだった。 *近衞忠大さんの連載「雪山酔夢」は雑誌『目の眼』で連載中。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年4月号より Auther 雪山酔夢 近衞忠大(このえただひろ) 1970年東京生まれ。公家、五摂家筆頭・近衞家の長男として生まれ、スイスで幼少期を過ごす。 武蔵野美術大学卒業後、テレビ番組、ファッションブランドの大型イベント制作などに関わる。特に海外との国際的な制作現場を数多く経験。伝統と革新、日本と海外といった違いを乗り越え 「文化とクリエイティブで世界の橋渡しとなる」ことを目指し、クリエイティブ・エージェンシーcurioswitch及びNPO法人七五(ななご)を設立、代表を務める。 この著者による記事: お盆 COLUMN近衞忠大 高野山 COLUMN近衞忠大 毛越寺 曲水の宴 COLUMN近衞忠大 祖父の思い出 COLUMN近衞忠大 インターナショナルスクール COLUMN近衞忠大 形見分け COLUMN近衞忠大 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年10月号No.577 李朝空間 癒やしのかたち 日本とは文化的に近しく、かつ異なる美を持つ李朝のやきものや絵画、道具や家具は、古くから日本の蒐集家に愛されてきました。近年は韓流ドラマが定着して、李朝時代の歴史に興味を持つ方も多く、李朝時代の骨董は新しいファンを増やしています。今回の特集では李朝の古美術を用いた心地良い空間の愉しみをご紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 美術史の大家、100歳を祝う 日本美術史家・村瀬実恵子氏日本美術研究の発展に尽くした60年 People & Collections | 人・コレクション 東京アート アンティーク レポート#3 骨董のうつわで彩る”食”と”花” Others | そのほか 夏休みにおすすめ! 古代ガラスの展覧会 Ornaments | 装飾・調度品 古信楽にいける 花あわせ 横川志歩 Vassels | うつわ 煎茶と煎茶道 日本人を魅了した煎茶の風儀とは? History & Culture | 歴史・文化 夏酒器 勝見充男の夏を愉しむ酒器 Vassels | うつわ 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(後編) Ceramics | やきもの 連載|真繕美 唐津茶碗編 日本一と評される美術古陶磁復元師の妙技1 Ceramics | やきもの 東京アート アンティーク レポート #4 街がアート一色に|美術店めぐりで東京の街を楽しもう Others | そのほか 百済から近代まで 歴史の宝庫、韓国・忠清南道(チュンチョンナムド) History & Culture | 歴史・文化 大豆と暮らす#4 骨董のうつわに涼を求めて ー 豆花と冷奴 稲村香菜Others | そのほか コラム|大豆と暮らす#5 消えかかる台湾との縁。台湾で生まれた祖父と、日本で生きた曽祖父の物語 稲村香菜History & Culture | 歴史・文化