器と心 永松仁美 昂KYOTO店主 文月。 街中、商店という商店の玄関先には賑やかに祇園祭りの奉賛の札が貼られ、祭りが無事に終わるまでの間、皆がそっと心で手を合わせ感謝し見守りながら、それぞれの気忙しさが増す祇園街です。 梅雨が去り一瞬爽やかに初夏の風が吹き渡り、どこまでも高くなった日差しと意気揚々とした興奮にも似た気持ちの高鳴りは、この地で生きるお商売の人々にとって欠かす事の出来ない大切な祈りの区切りなのです。 私は、この街で現代を生きる作家の作品を主に扱う小さな器のギャラリーを生業としています。古陶に憧れ先人のやり尽くしたであろう技術、社会に翻弄された時代の中で生き残った証と対話をしながら、時には厳しいお言葉なども頂きながら、彼らは自身と戦い今を生きています。物に溢れ、便利に事、物足りるこの時代の中にも関わらず頭の中の理想を追い求める、そんな刹那の中、若手作家達は直向きに作品を生み出しています。 生みの苦しみ喜びを側で見せて頂ける事は私にとって何にも変え難き有り難き経験であり、それはまた健気であり純粋でいてとても美しく私には映ります。しかしどこか何かが足りない感覚にいつも打ちひしがれていた私が、陶芸家辻村史朗氏が最初で最後と仰る21歳で書かれた「器と心」という寄稿文を拝読した時、衝撃が走りました。 それはそれは、もの作りへの心の底から叫ぶ「魂」でありました。 今も全く心揺れ変わる事なく貫く姿勢はまさにロックなのです。 人がどう思うかではなく自分がどう生きるか 作陶は仕事ではなくそれが生き様である事を知らしめた氏の言霊に私の脳もハートも打ち砕かれたのでした。 たまに、ふらりと我ギャラリーに寄られては、時に厳しく時に救われる言葉を若手作家達にかけながら今も尚、彼らの技術に関心を持ち情報を交換され、同じ作り手としての本質を鋭くついて下さる事も大変有り難く、夕飯を共にし解散した4時間後にはホテルで休まれていると思いきや2時間程仮眠をし早く窯入れしたくなり戻ったと窯場から電話が鳴る早朝5時が常の77歳。 「作る事は生きること」 つまりそういう事なのです。 私達、この夏も絶対負けてはいられません。 *永松仁美さんの連載「京都女子ログ」は『目の眼』2023年1月号〜2024年10月号まで掲載。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年7月号より Auther コラム|京都女子ログ 永松仁美(ながまつひとみ) 1972年京都生まれ。京都・古門前の骨董店の長女として育ち、結婚、子育てを経て、2008年京都・古門前に店を構える。2012年、祇園に移転しアンティーク&ギャラリー「昂KYOTO」をオープン。 この著者による記事: 水無月の思い出 永松仁美 スープの伝言 永松仁美 座右のポット 永松仁美 心に刻むひな祭り 永松仁美 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年6月号 No.573 古美術をつなぐ 「 美の仕事」の現在地 美術が珍重される背景には古美術商の努力がありました。活躍してきた良い古美術のコレ数奇者クションをつくるには、信頼できる古美術商とのかかわりが欠かせません。 江戸時代の大名、明治以降の近代数奇者と深いつながりを持っていた茶道具商、世界に東洋の美を広めた山中商会、作家や芸術家との縁が深かった京都や日本橋京橋の大店など、古美術商には古美術を見極める眼力を持ち合わせているだけでなく、個性的で人間味にあふれている方が多いようです。長い命を持つ美術品を過去から未来へと繋ぐ古美術商とその仕事について紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 東京アート アンティーク レポート #4 街がアート一色に|美術店めぐりで東京の街を楽しもう Others | そのほか 縄文アートプライベートコレクション いまに繋がる、縄文アートの美と技 Ceramics | やきもの 骨董の多い料理店 進化しつづける「獨歩」の料理と織部の競演 Ceramics | やきもの 大豆と暮らす#3 おから|大豆がつなぐ、人と食 稲村香菜Others | そのほか 映画レビュー 配信開始|骨董界の夢とリアルを描いた 映画『餓鬼が笑う』 Others | そのほか 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画 大豆と暮らす#1 受け継がれる大豆と出逢い、豆腐屋を開業 稲村香菜Others | そのほか 小さな壺を慈しむ 圡楽窯・福森雅武小壺であそぶ Ceramics | やきもの 美術史の大家、100歳を祝う 日本美術史家・村瀬実恵子氏日本美術研究の発展に尽くした60年 People & Collections | 人・コレクション 骨董ことはじめ⑧ 昭和100年のいまこそ! 大正〜昭和の工芸に注目 Others | そのほか 骨董ことはじめ⑦ みんな大好き ”古染付”の生まれた背景 Others | そのほか 骨董・古美術品との豊かなつきあい方① 自分だけのコレクション、骨董品との出会い方「蒐活」編 Others | そのほか