日光東照宮(後編) デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社代表取締役社長 日光東照宮 (1)からの続き 江戸幕府が終焉し、明治時代に入ると、日光東照宮は大きな逆風に晒されて大変な時代を迎えました。その時から、日光は様々な形で最先端を走っています。東照宮は文化財が多く、他に例を見ない程の絢爛豪華さを誇り、細部に至るまで丁寧に装飾されています。また棟数も多いため、数十年に一度の式年遷宮ではなく、毎年が式年遷宮のようなものですから、維持管理をすることは大変です。この負担があるからこそ、東照宮は昔から業界の常識を変えるしかなかったのです。 東照宮ではかなり前から拝観料の徴収を導入しています。また御社殿の解説等も極めて高い水準にあります。音声ガイドや境内の解説など、その拝観料に見合ったサービスも充実しています。2016年にオープンした宝物殿では、家康公の生涯や修理の仕方を映像化し、展示品を分かりやすく解説するなど、観光客の目線に立って、丁寧に東照宮の歴史・文化を説明しています。やはり、長時間文化財を見ていると疲れますので、カフェなどのくつろげる安らぎの空間も作っています。 私が小西美術に入社した際に、東照宮をはじめ二社一寺にご挨拶の参拝に参りました。東照宮の宮司さんにご挨拶をした時に、外国人社長を受け入れてくれるのかと不安でしたが、心配は不要でした。宮司さんから、小西美術をこう変えて欲しい、経営理念はこういうことも考えて欲しい、とお互い初対面なのに様々な建設的な議論ができたことを嬉しく思い、今でも強く印象に残っています。 当時、小西美術は四割ほどの職人が非正規で、若い人材の採用も不十分でした。また品質管理、現場管理など不十分な点が幾つかありましたが、ご指摘をいただき、3年をかけて徐々に良い方向に改善しました。職人の技術を再検証し、若い人を計画的に毎年採用する制度を構築、全員正社員化など様々な改革をやりました。やはり、日光とは昔からお付き合いが長いですし、同じ日光に工房を構えています。ですから決して甘えることなく、良い仕事を残してきたからこそ、現存する文化財装飾修理の老舗の二社が両方とも日光で生き残れたと思います。 東照宮との付き合いは年々進化しています。最近は、宝物殿の英語解説のご奉仕をさせて頂きました。観光戦略を一緒に考えて行ける程の付き合いにも発展しています。日光は日本の歴史、文化、宗教 、建築、観光地などの様々な面で、国または世界の宝です。この貴重なご縁を頂戴して、私の人生は激変をしました。感謝申し上げます。 月刊『目の眼』2017年4月号 Auther 連載|ふしぎの国のアトキンソン デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社代表取締役社長。元ゴールドマン・サックス証券アナリスト。1965年、イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。2009年、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社。2011年に同社長に就任。日本の文化財の価値を見いだし、旧来の行政や業界へ改革の提言を続けている。『新・観光立国論』、『新・所得倍増論』など著書多数。最新刊は『国宝消滅―イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』。 この著者による記事: 御宸翰(ごしんかん)に出会う COLUMNデービッド・アトキンソン 京の町家 COLUMNデービッド・アトキンソン 茶の湯 COLUMNデービッド・アトキンソン 40年ぶりに蘇った陽明門を拝見して COLUMNデービッド・アトキンソン 日光東照宮(前編) COLUMNデービッド・アトキンソン RELATED ISSUE 関連書籍 2017年8月号 No.491 尚 王家の末裔 野津圭子さんと歩く 琉球〜沖縄 お茶をやり出して間もない頃、茶道具の山下さんの大寄せ茶会に出かけましたら、大きな床の間にこの写真の御宸翰が掛けられていました(73頁)。まず表具に感動しました。房が付いている御軸は初めて拝見したからです。また、霊元天皇は、養母が父帝の中宮徳… 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 骨董ことはじめ⑥ 骨董ビギナー体験記|はじめて骨董のうつわを買う Others | そのほか コラム|大豆と暮らす#5 消えかかる台湾との縁。台湾で生まれた祖父と、日本で生きた曽祖父の物語 稲村香菜History & Culture | 歴史・文化 展覧会紹介 世界有数の陶磁器専門美術館、愛知県陶磁美術館リニューアルオープン Ceramics | やきもの 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」 東京国立博物館に蔦重の時代を観に行こう Calligraphy & Paintings | 書画 最も鑑定がむずかしい文房四宝の見方 硯の最高峰 端渓の世界をみる People & Collections | 人・コレクション 茶の湯にも取り入れられた欧州陶磁器 阿蘭陀と京阿蘭陀 Ceramics | やきもの 骨董・古美術品との豊かなつきあい方② 自分だけのコレクション、骨董品との別れ方「終活」編 Others | そのほか 東京アート アンティーク レポート#2 いざ美術店へ |「美術解説するぞー」と行く! 鑑賞ツアー レポート Others | そのほか 連載|真繕美 唐津茶碗編 日本一と評される美術古陶磁復元師の妙技1 Ceramics | やきもの 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈後編〉 People & Collections | 人・コレクション 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(2) 新井崇之Ceramics | やきもの 映画レビュー 配信開始|骨董界の夢とリアルを描いた 映画『餓鬼が笑う』 Others | そのほか