「美の仕事」特別編

華道家 池坊専宗 中国陶磁の色彩にあそぶ

Ceramics | やきもの

池坊専宗

 

華道家の池坊専宗さんに、昨年末に東京・京橋にオープンした新しい古美術店を訪ねていただきました。専宗さんの眼に、骨董・古美術の世界はどのように映ったのでしょうか。

*この記事は、『目の眼』電子増刊第3号の特集「美の仕事 総集編」に全文が掲載されています。

 

 

 

『目の眼』ではこれまで『花ノ風月』と題した連載を受け持ち、骨董・古美術店の一画で花を生け、写真におさめてきました。毎回異なる環境・空間で花を生けるというのは思った以上に集中力を要します。しかも何百年、ときには千年の刻を経た古物が相手、すがたかたちも毎回変わりますし、何かの拍子に傷つけたりしないかと緊張が張りつめ、お店の様子をゆっくり鑑賞する余裕はあまりありませんでした。

ところが今回は特別企画ということで、「美の仕事」の取材として、花鋏も撮影機材も持たずにお店を訪ねることになりました。いつもとは勝手が違いましたが、新鮮な体験を楽しみたいと思います。

 

 

 

 

 

❖日本一の骨董街をあるく

 

今回、案内していただいたのは東京・京橋にある「稲村美術」。この京橋から日本橋・銀座にまたがるエリアは古くから美術店が立ち並ぶ〝日本一の骨董街〟であり、なかでもメインストリートにあたる仲通の一画にこのお店はあります。

 

迎えてくださった店主の稲村全史さんによると、「この場所はもともと五月堂さんという老舗が長く営業していたのですが、昨秋日本橋に移転されたため、昨年末から私が新しく始めました」とのこと。まだ40代なかばの溌剌とした方で、このような若い世代の方が活躍している世界なんだなあと親近感を持ちました。

 

稲村さんは中国や韓国の陶磁器を主に扱っているとうかがっていましたが、店頭のウィンドウに不思議な鳥形の壺のようなものが飾ってありました。

 

「これはペルシャの陶器で〝ラジュヴァルディナ〟といいます。〝ラジュヴァルド〟は藍色のことで、そこに金彩などを施して造形的に作っていますね。鳥の頭をかたどった造形は「鳳首瓶」など中国陶器にもみられますがその原形ですね」と稲村さん。

 

「胴部にある文様も印象的ですね」と答えると「パルメットといって植物をモデルにした文様を貼り付けたような装飾技法でこれも唐三彩などによく用いられます」とのこと。

 

唐の文化はそれ自体で完成されたイメージがありましたが、周辺のいろんな文化の影響を受けていることがわかりました。その集大成として中国陶磁器の大きな山が積み重なっていることを、店頭の鳥が象徴してくれているのでしょう。

 

 

 

 

❖初めて知る単色釉の世界
店内に入ると意外に広く、今日のためにさまざまなものを展示してくれていました。なかでも中央のガラスケースには色とりどりのうつわが並んでいます。

「中国陶磁にもいろいろありますが、なかでも私は単色のものが好きでしてそれを主力にしています」と稲村さん。

 

 

 

 

「単色釉とは、例えば青磁とか白磁のように一つのうつわに一つの色の釉薬だけをかけて焼いたもので、古代の青磁に始まって二千年以上それぞれの時代で作られていますが、私はとくに唐から宋の時代にかけて、技法的にもデザイン的にも極まっていく過程の産物が好きなんです。絵や文様があるとそこに目が行きがちですが、それらを取り除くと釉調とかたちだけに集約されて物自体の美しさがはっきりとわかります。そのシンプルかつ奥深い世界に見入ってしまうんです」とのこと。

 

漢代は主に青磁に重きがおかれ、隋・唐の時代に白磁が洗練されて、また褐色や緑、藍が導入されて唐三彩が生まれ、宋の時代にそれぞれの釉色が頂点を極められていく。さらにその過程で技術革新が進み、明・清の時代にはパステルカラーや淡いピンクの単色釉まで作られるようになる。その話をうかがっていくなかでおもしろかったのが、それは最先端科学の開発と同じで、必ずしも「美」という観点だけを重視してきたのではないということ。国家事業として莫大な経費をかけつつも、どれだけ効率的に無駄なく採算化できるかについても突き詰めていった結果、中国は世界のやきもの先進国になったという話でした。中国陶磁は工業製品でもあるという視点はこれまでのイメージの美術史とは違い、新鮮な目で中国陶磁の見方を教えてもらったような気がしました。

 

 

****** 続く ******

 

 

記事の全文は、『目の眼』電子増刊第3号でご覧いただけます。

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