イベント紹介|現代素材問答 -ristorante DONO- ristorante DONOから始まる、「美味しいは、美しい」という新しいアートの在り方 RECOMMEND 野生の鹿は古代から生息していたようです。毎年角が生え変わることから、いわゆる「甦り」や「豊作祈願」の象徴として弥生時代には霊獣として奉るようになったと言われていますが、鎌倉時代になると、春日神の使いとされる神鹿が雲に乗って飛来する姿を描いた「春日鹿曼荼羅」が登場します。また鹿は江戸時代には百人一首で詠まれたり、花札の意匠としても描かれました。現代では美術家の名和晃平が『PixCell-Deer』という彫刻作品を作り、メトロポリタン美術館にコレクションされたのも記憶に新しいところです。鹿島や鹿児島など地名にも鹿の文字を使われているところも多く、鹿は古代より日本人には馴染みの深い存在でした。かつては神聖な動物と言われていた鹿ですが、近年では高タンパク・低カロリーなジビエの代表として脚光を浴びています。 京都・岡崎の神宮道と仁王門通の交差点を西に向かうと直ぐに、白川のせせらぎを見ることができます。その東縁のモダンな建物の2階にristorante DONO(リストランテ ドーノ)はあります。オーナーシェフの中東俊文さんは、京都銀閣寺の「草喰 なかひがし」の主人・中東久雄氏を父に、京都花背の「美山荘」を営む中東久人氏を従兄に持ち、18歳でトスカーナに渡りイタリアンの道を一筋に歩いて来ました。満を持して2024年4月京都岡崎ristoranteDONOをオープン。野菜を存分に使ったイタリアンは評判を呼び、今年はミシュランガイド京都・大阪2025にミシュラングリーンスターとして掲載されました。 中東さんは野菜を主に美山から仕入れていますが、ある日、付き合いのあるお店の方からこんな話を聞くことになります。野生の鹿が増えすぎて、農業被害が発生していると。美味しい野菜をメインにイタリアンを極めようとしている中東さんにとって、これは大きな問題だと思われました。もし一頭の鹿を殺生するならば、一ミリも残さずとことん素材を使い切らねばならないと思い同世代の骨董商や美術商に声を掛けてスタートしたのが、今回の「現代素材問答 -ristorante DONO-」です。 お料理は、縄文土器など盛られたフィンガーフードから始まります。栗の素揚げ、落花生とさつまいもの金団、カスタニャッチョと猪のラグー、そしてカルタダムジカの4品。これらを手元の小皿に乗せていただきます。小皿は古伊万里・古唐津・明平焼などの骨董の器から選ぶことができます。折敷やフィンガーフードに合わせて小皿を選べるのも楽しいです。 続いてアミューズは、柔らかいかぼちゃのニョッキ。間引き人参のピクルスとエノキの実が添えられています。器は黒田辰秋の漆椀、欅でしょうか。たっぷりと肉厚の黒田らしい椀です。 前菜の1品目は、冷たいもの。アミタケのマリネのカルパッチョ仕立て。アミタケがレバ刺しのような濃厚な味わいです。自家製のチーズと絡めていただきます。 前菜の2品目は、温かいもの。鹿肉のミートボールに4種類のキノコの煮込んだものと泡仕立ての生姜が乗せられています。器は古染付の七寸皿。見込みに鹿の図柄、今回のテーマにぴったりのお皿です。 パスタの1品目は、スッポンのラグーソースとマコモタケと目玉焼を乗せた「ポヴェレッロ」仕立て。デルフトの大皿に盛られたものをシェフ自らが取り分けてくれます。 ポヴェレッロを取り分けていただきました。 パスタの2品目は、チーズのトルッテリ・イン・ブロード。ブロードは天然のマイタケのコンソメです。器は福村龍太の銀彩のパスタボウル。片口になっているので、残ったコンソメスープは蓋に注いでいただくことができます。 メインのお魚は宮津産のスズキのポアレに、発酵した万願寺のペペロターナと摘果ミカンが添えられています。お皿はこの料理に合わせて福村龍太が作陶したもの。銀彩が得意な福村が金彩にトライした宝石のようなお皿です。 お肉は鹿肉のロースト。鹿肉の出汁と大徳寺納豆、エビヅルのソースで。お皿は野口寛斎のオリジナル。お皿の黒い部分は鹿の骨を砕いて作った釉薬が使われ、白い部分は廃棄された真珠を再利用しているそうです。今回の料理の趣旨に相応しいお皿に、鹿肉が美しく盛られています。 箸休めに野菜のスープ。器は八木一夫の筒向。 ドルチェは柿とチーズ。それからスイートポテトに紅玉のジェラート。 うつわとして使われた笊は、飯塚琅玕斎作(鳳齋銘) 今回の主役は鹿肉でしたが、キノコと季節野菜がふんだんに使われ、器も趣向を凝らされています。まさに食のアートと呼ぶに相応しい内容です。 料理を彩る器の数々を提供しているのが、芦屋で「ギャラリー志(しるし)」を開いている秦高志さん。父も兄も古美術商という環境で、器と現代美術に特化して商いをしているそうです。今回も根来の折敷や椿皿、古唐津や古伊万里、古染付などのお皿提供しています。シンプルで凛とした器の数々は料理を引き立てます。 共同主催者の一人でもある鐘ヶ江英夫さんは、大徳寺門前でギャラリー「KANEGAE」を営んでいます。鐘ヶ江さんも古美術商の家に生まれ、幼少期から美術品に囲まれて育ったそうです。お店では時代屏風、近代美術工芸品、彫刻などを中心に扱い、時代やジャンルを超えた作品を紹介しています。今回も料理のコンセプトに合わせて野口寛斉や福村龍太などに器を、お店に飾られている絵は笑達に依頼。玄関に飾られた縄文土器や遮光器土偶も鐘ヶ江さんの見立てです。 今回の「現在素材問答 -ristorante DONO-」ではイタリアンと古美術/現代美術の全ての枠を取り払い、コラボレーションすることで衣食住が一体となる可能性を提示しています。素材を無駄にしないこと、それは料理でもアートでも同じというある意味、京都らしい在り方を大切にしたい。そんな想いが伝わってくるイベントです。Art collaboration KyotoからスタートするKyoto Art Monthをこの「現代素材問答 -ristorante DONO-」からお楽しみください。 ※実際に使用される器は、違うモノになる場合もございます。ご了承ください。 ◇ 現代素材問答 -ristorante DONO- 期間:2025年11月4日(月)~22日(金)の3週間 会場:ristorante DONO(リストランテ ドーノ) 住所:〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町62 ボーパサージュ京都岡崎2階(Googleマップ) 定休日:日曜日、月曜日、火曜日ランチ 営業時間: ランチ12:00―13:00(L.O) 、ディナー17:00-20:00(L.O) 特別料金: ランチ ¥15,000 / ¥17,500 ※尚¥6,500ショートコースに関しましては通常のお皿での提供となります。 ディナー ¥17,500 参加アーティスト 笑達、野口寛斉、森夕香、福村龍太 & 近代工芸、古美術品 予約サイト https://res-reserve.com/ja/restaurants/ristorante-dono Information 現代素材問答 -ristorante DONO- 会期 2025年11月4日(月)~22日(金)の3週間 会場 ristorante DONO(リストランテ ドーノ) 住所 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町62 ボーパサージュ京都岡崎2階 URL https://res-reserve.com/ja/restaurants/ristorante-dono RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第6号 残欠 仏教美術のたからもの デジタル月額読み放題サービス 今特集では仏教美術の残欠を特集。 残欠という言葉は、骨董好きの間ではよく聞く言葉ですが、一般的にはあまり使われないと思います。ですが、骨董古美術には完品ではないものが多々あります。また、仏教美術ではとくに残欠という言葉が使われるようです。 「味わい深い、美しさがあるからこそ、残欠でも好き」、「残欠だから好き」 残欠という響きは実にしっくりくる、残ったものの姿を想像させます。そこで今回は、残った部分、残欠から想像される仏教美術のたからものをご紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 展覧会レポート|泉屋博古館東京 “物語(ナラティブ)”から読み解く青銅器の世界 Others | そのほか 目の眼4・5月号特集「浮世絵と蔦重」関連 目の眼 おすすめバックナンバー 1994年9月号「写楽二〇〇年」 Calligraphy & Paintings | 書画 札のなかの万葉 百人一首と歌留多のこころ History & Culture | 歴史・文化 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(2) 新井崇之Ceramics | やきもの 企画展紹介|ロンドンギャラリー六本木 仏教美術に触れる、金峯山遺物の粋を集めた展示会が開催 Religious Arts | 宗教美術 世界の古いものを訪ねて#7 アラビア〈バレンシア〉の絵付けにみる、北欧デザインと生活。 山田ルーナVassels | うつわ ビンスキを語る ビンスキは どこからきたのか 〜その美意識の起源を辿る History & Culture | 歴史・文化 骨董ことはじめ⑨ 物語と笑いに満ちた江戸文化を楽しむ、ゆたかなる春画の世界 Calligraphy & Paintings | 書画 東西 美の出会い 日本・オーストリア文化交流の先駆け|ウィーン万国博覧会 森本和夫History & Culture | 歴史・文化 スペシャル鼎談 これからの時代の文人茶 繭山龍泉堂 30年ぶりの煎茶会 龍泉文會レポート People & Collections | 人・コレクション リレー連載「美の仕事」|土井善晴 土井善晴さんが向き合う、桃山時代の茶道具 土井善晴Ceramics | やきもの 世界の古いものを訪ねて#8 2025秋のシャトゥ蚤の市。フランスの小さなカフェオレボウルと、見立ての旅。 山田ルーナOthers | そのほか