高野山 近衞忠大 クリエイティブ・ディレクター ひょんな御縁から高野山を訪ねた。恵光院さんにお世話になり「世界遺産登録20周年記念フォーラムin高野」というシンポジウムにも行った。急な話だったので高野山に関して事前に勉強するでもなく、先入観なく行ってしまった。 有名な奥之院にも夕暮れ時にご案内いただき、燈籠堂にお参りした。燈籠堂はが建立し、藤原道長が現在の大きさにしたと言われている。また燈籠堂の目の前には近衞家の供養塔が八つほどあり参拝してきた。江戸時代には近衞も参拝し、幕末にはとも深い関係があるなど、これほどまでに長い御縁があるにも関わらず無知を恥じることしきり。 滞在中般若心経をあげることが何度もあったが、そちらも鈍っていることを痛感。子供の頃は夏休みに静岡の興津にある東壽院に行くことが常で、朝夕座禅を組みお経をあげていたので当事はスラスラと出てきたが、今は般若心経の真ん中あたりが心もとない。 供養塔の一番最近のものは近衞文麿のものだった。恵光院の広間には近衞文麿の額が飾られていた。妄想すること莫れとも読むようだ。様々な解釈があるが、妄想は執着、不安といったものを表し、そういったものから自由にならなければ悟りはない、といった意味か。 文麿は戦中、昭和十八年に高野山金剛峯寺に敵国降伏を祈る護摩を依頼したという話もあるようで、この地を訪れたのもこの時期だと思われる。首相を退き、終戦、和平工作に奔走していたこの時期に書いた莫妄想はどのような心境を表すのか。 お経といえば、道長が治安3年(1023)10月に高野山参拝した際に金泥で書かれた法華経と理趣経30巻を埋納したとされる。奈良の金峯山寺に埋められた経筒(重文)は発掘されていて、金峯山寺と五島美術館に収蔵されているが、高野山のものはまだ発見されていない。道長が高野山を訪れてから千年が過ぎたが、メンテナンスのために掘り起こすことなど出来ないのだろうか。 代わりに埋納するものを……などと請われたらたまらないな……などという妄想からは自由になろうと思う。 *近衞忠大さんの連載「雪山酔夢」は雑誌『目の眼』で連載中。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年9月号より Auther コラム|雪山酔夢 近衞忠大(このえただひろ) 1970年東京生まれ。公家、五摂家筆頭・近衞家の長男として生まれ、スイスで幼少期を過ごす。 武蔵野美術大学卒業後、テレビ番組、ファッションブランドの大型イベント制作などに関わる。特に海外との国際的な制作現場を数多く経験。伝統と革新、日本と海外といった違いを乗り越え 「文化とクリエイティブで世界の橋渡しとなる」ことを目指し、クリエイティブ・エージェンシーcurioswitch及びNPO法人七五(ななご)を設立、代表を務める。 この著者による記事: お盆 COLUMN近衞忠大 毛越寺 曲水の宴 COLUMN近衞忠大 祖父の思い出 COLUMN近衞忠大 インターナショナルスクール COLUMN近衞忠大 スポーツとメモラビリア COLUMN近衞忠大 形見分け COLUMN近衞忠大 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年10月号No.577 李朝空間 癒やしのかたち 日本とは文化的に近しく、かつ異なる美を持つ李朝のやきものや絵画、道具や家具は、古くから日本の蒐集家に愛されてきました。近年は韓流ドラマが定着して、李朝時代の歴史に興味を持つ方も多く、李朝時代の骨董は新しいファンを増やしています。今回の特集では李朝の古美術を用いた心地良い空間の愉しみをご紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 骨董ことはじめ⑧ 昭和100年のいまこそ! 大正〜昭和の工芸に注目 Others | そのほか 眼の革新 大正時代の朝鮮陶磁ブーム 李朝陶磁を愛した赤星五郎 History & Culture | 歴史・文化 東京アート アンティーク レポート #4 街がアート一色に|美術店めぐりで東京の街を楽しもう Others | そのほか 百済から近代まで 歴史の宝庫、韓国・忠清南道(チュンチョンナムド) History & Culture | 歴史・文化 大豆と暮らす#4 骨董のうつわに涼を求めて ー 豆花と冷奴 稲村香菜Others | そのほか 世界の古いものを訪ねて#1 ジュドバル広場の蚤の市|ベルギー・ブリュッセル 山田ルーナOthers | そのほか 世界の古いものを訪ねて#3 ケルン大聖堂 響きあう過去と現在 ー 632年の時を超え、未来へ続く祈りの建築 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 骨董ことはじめ③ 青磁 漢民族が追い求める理想の質感 History & Culture | 歴史・文化 展覧会情報 装い新たに 荏原 畠山美術館として開館 History & Culture | 歴史・文化 連載|真繕美 古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2 Ceramics | やきもの 古美術をまもる、愛でる 生糸染めから手機織りで受け継がれる、真田紐師 江南の唯一無二 Others | そのほか 白磁の源泉 中国陶磁の究極形 白磁の歴史(2) 新井崇之Ceramics | やきもの