フリーメーソンの懐中時計 Vintage Masonic トライアングルポケットウオッチ 大江丈治 時計評論家 COLUMN マソニックウオッチは、特徴的な三角形の形状と文字盤に描かれたモチーフから分かる様に、フリーメイソン会員のための時計です。 時計が作られた目的はフリーメイソンの会員がロッジ内外で自分の身分、すなわちアイデンティティーを示すため。それゆえ他人から見て、持ち主がフリーメイソンの会員である事がはっきりわかる意匠になっています。 三角形は、フリーメイソンの教義において、「神の全能の目」「神の摂理」「調和」などを象徴するものとして、特に正三角形は重要な図形とされ、他に例の無いその形は時計をよりユニークな存在にしています。 会員同士が初対面であっても、特徴的な時計を見る事で同胞ということがすぐ分かる。 身分証の役割で、さしずめ今ではロータリーやライオンズクラブのバッジでしょうか。ちなみにロータリー、ライオンズ共、創設者はメイソンのメンバーでした。 今と違って、かつてフリーメイソンは世界中で機能し、政治やビジネス界で成功していました。マソニックウオッチはそう言った中で、会員の昇進や引退の時の記念に送られた事が多かった様です。 フリーメイソンは1717年にロンドンで発祥し、マソニックウオッチは18世紀後半から作られていた様です。 アメリカでは建国時から活躍して、勢力を伸ばしています。世界の会員数の1/3がアメリカだった事から、マソニックウオッチはアメリカで多く見られ、ウオルサムやハミルトンといった著名なメーカーも手掛けました。 生産自体は19世紀後半から20世紀前半までがピークで、1940年頃後半からは徐々に見られなくなっていきました。 さて、この時計はと言うと、スイス・ジュネーブのTempor Watch Co.,社が1920年から30年代に作ったシルバーケース製ポケットウオッチで、マソニックウオッチの典型的なモデルです。従来ポケットウオッチの素材にはゴールド製が比較的多く見られるのに対し、マソニックウオッチではシルバー製がほとんどです。それは、フリーメイソン会員達は経済的背景に関わらず平等であることを重んじ、シルバーの持つ「純粋」「清廉」「誠実」と言う昔からの象徴な意味合いから好まれました。 一方、特筆すべき点はケースを取り巻く素晴らしい装飾でしょう。「G」「B」「J」の神とソロモン神殿の2本の柱を意味するシンボルに加え、ケースサイドやバックケースも神秘性のあるモチーフが彫り込まれており、精巧な銀細工として堪能できる仕上がりです。 フリーメイソンの歴史や活動が殆ど知られていないが故に、日本では何かと神秘的に語られますが、時計界においてマソニックウオッチは、その歴史の一編を飾るアイテム。 決して色物ではないのです。 Auther 大江丈治(おおえ じょうじ) 1964年生まれ。時計評論家。大学工学部卒業後、大手化学メーカー勤務などを経て趣味であった時計業界へ飛び込む。有名ジュエリーウオッチブランド数社でマーケティングなどを担当。またスイスの独立時計師達とも親交が深い。 この著者による記事: Audemars Piguet | 薄型高精度の美学 COLUMN大江丈治 PATEK PHILIPPE | 日本が注文した小型の腕時計 COLUMN大江丈治 SEIKO | 日本初、そして最後の高級機械式腕時計 COLUMN大江丈治 BULOVA | アメリカンウオッチ 最後の栄光 COLUMN大江丈治 RELATED ISSUE 関連書籍 2013年11月号 No.446 朱とみずがね姫 〜 根来の源流を探る この秋、空前絶後の根来展が開催される。黒漆の下塗りの上に朱漆が重ねられた漆器は「根来塗り」と呼ばれ、神饌具や、仏具、食器や酒器、茶道具、文房具など様々な用途に使われた。名の由来となった紀州根来寺は鎌倉時代から南北朝にかけて隆盛を極めたが、豊臣秀吉の根来攻めで灰燼に帰し、戦火を逃れた工人たちが、根来塗りの技法を各地に伝えたといわれている。日本にある根来の優品のほとんどを集めた展覧会の開催に合わせ、展覧会の見どころとともに根来の魅力、また個人コレクターを訪ねるなど、深く切り込んだ特集をお送りします。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 新刊発売 「まなざしを結ぶ工芸」著者インタビュー 本田慶一郎と骨董と音楽と People & Collections | 人・コレクション 世界の古いものを訪ねて#3 ケルン大聖堂 響きあう過去と現在 ー 632年の時を超え、未来へ続く祈りの建築 History & Culture | 歴史・文化 企画展紹介|ザ・プリマ・アートセンター(韓国) ソウルに新たな美術館 誕生 THE PRIMA ART CENTER Ceramics | やきもの 展覧会情報|東京国立博物館 東京国立博物館 特別展「はにわ展」|50年ぶりの大規模展覧会 Ceramics | やきもの 展覧会紹介|大阪市立美術館 特別展「NEGORO 根来−赤と黒のうるし」 熱量と刺激を感じる展示 白洲信哉 Vassels | うつわ 展覧会紹介|茨城県陶芸美術館 余技の美学〜近代数寄者の書と絵画 Calligraphy & Paintings | 書画 古美術をまもる、愛でる 生糸染めから手機織りで受け継がれる、真田紐師 江南の唯一無二 Others | そのほか リレー連載「美の仕事」|土井善晴 土井善晴さんが向き合う、桃山時代の茶道具 Ceramics | やきもの 辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「黒茶碗の魅力」 Vassels | うつわ 眼の革新 時代を生きたコレクターたち People & Collections | 人・コレクション オークション情報|Christie's クリスティーズNY、北斎の希少な肉筆画や写楽作品、明永樂の甜白釉など。秋季オークションに注目! Others | そのほか 私家本拝見① |「島桑 江戸指物の世界」 受け継がれる美意識、指物師の魂が宿る「島桑」の美術工芸品をまとめた1冊 Ornaments | 装飾・調度品