『目の眼』2026年4・5月号 塩笥のうたげ

“なにか”を秘めた粉引盃

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塩笥にはさまざまなバリエーションがあるが酒盃として使える小さいものほど希少。なかでも片手に収まる粉引の塩笥盃となると現在のところこの一点くらいしか見たことがない。その持ち主が白洲信哉さんだ。

 

 

 

白洲信哉さん

 

 

 

 

「酒器は長年いろいろと手にしていますが、この盃は十年近く前に親しい古美術商から求めました。塩笥は以前、井戸釉の筒茶碗を持っていましたが、この盃は特別な存在感があります。ちょうど花の蕾のようなサイズとソフトな手取り感で気持ちよく使えます。日本酒も呑みますが、もっぱらウイスキーをショットで呑む時に愛用していますので、酒宴では後半戦に登場しますね。もちろん冬だけということはなく、年中使ってます。たとえば夏に、白磁とか白い酒器だけを揃えて呑むのも爽やかでいいものですよ。ただ酒が染みるのも早いので、使いすぎないよう、ときどき数日陰干しして酒を抜きます。僕は抜きませんけど」と笑う。

 

実際、見込の内部は器面とくらべて一段黒くなっており、ほの青い釉垂れが一筋流れているのが印象的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「塩笥はたしかに雑器だったのでしょうが、粉引となると少し意味合いが異なってくると思います。李朝の時代は白が最上の色とされていましたし、薄造りながらふっくらと張った造形、口づくりや高台の繊細さ、その数の絶対的な少なさなど、他の塩笥と見比べていくと、これは庶民ではなく上層階級の人間、しかも女性が使った祭器なのかもしれないと思うようになりました。となると単なる調味料入れとは思えません。たとえば薬とか薬湯、またはなにか個人的に大切なものを入れてしまっていたのか……もちろん妄想ですが、そんな〝なにかを秘めた〟うつわだったのかな、と考えるようになりました」とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

箱も古い凝った作りで、誰のものか判別できないが蔵印も確認できる。塩笥を専門とする研究者はいないようだが、いつかその歴史と謎を明らかにしてほしいと思った。

 

 

*この記事は、『目の眼』2026年4・5月号の特集「塩笥のうたげ 見立てて楽しむ万能のうつわ」に掲載。

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見立てて楽しむ万能のうつわ

塩笥(しおげ)とは朝鮮半島において日常的に使用されていた小壺のこと。 花の蕾のように胴が膨らみ、口縁がすぼんで先端が端反りにひらく姿が特徴で、主に塩や醬などの調味料の容器として用いられていたという。やがて日本に伝わり雑器としてさまざまな用途に使われたが、サイズが手頃で景色や姿の良いものは茶碗として採り上げられ、また近年は酒器としても注目されています。これまで〝壺〞として認識されてきた塩笥の、見立てを誘う魅力を優品とともに紹介したいと思います。

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