みんな知っているもの|大英博物館三菱商事日本ギャラリーのいちばん人気アイテム 矢野明子 大英博物館アジア部三菱商事キュレイター 今さらと思うなかれ、大英博物館三菱商事日本ギャラリーのいちばん人気アイテムは、甲冑である(画像)。これを目指して日本ギャラリーに足を運ぶ人は多い。 集客効果が高いので、日本ギャラリーの館内ポスターやバナーにもなっている。甲冑とあわせて江戸時代の太刀や短刀、刀装具、鐙、陣羽織なども一緒に展示されていて、平穏な時代の武家の美意識をかいま見るにはうってつけだ。 人気があるということは、サムライへの関心が高い証拠だ。世界中の人々の頭の中に何かしら日本の「サムライ」に対するイメージが存在するというのは、なかなか驚くべきことである。でもそのイメージの生成をうながす情報源が、必ずしも歴史についての知識でないことのほうが多いのは、海外と日本とを問わず似たような状況ではないだろうか。しかもサムライに分類される人たちが生きていた時代とひと口に言っても、彼らの社会的役割は変化していったし、その職業身分が廃された後もイメージはさまざまな付加価値をまとって発展し続けてきた。 サムライという複雑な存在を大胆にすくい上げ、作られたイメージと現実のどちらにも目を向ける特別展「サムライ」が、来年春から当館で開催される。同僚学芸員ロジーナの企画を乞うご期待。しかしサムライが何たるか誰もがある程度知っているということは、逆手にとれば先入観があるということだ。個々人の、しかも多くの場合「熱い」思い入れを脱構築するのは、企画する側にとってはかなり難易度が高そうだ。 それにしても、日本の甲冑というのは機能メインの精巧で美しい工芸品である。多種の材料を特質によって組み合わせ、用途にかない、色味などの装飾性で美意識を表す。各所に鶴丸紋が表されたこの甲冑は、江戸時代に赤穂や三日月藩の藩主だった森家の伝来といい、箱と采配まで一具が揃って現在にまで伝わる優品である。皮肉にも戦に臨むことのなかった武具ではあっても、堂々と威圧感のあるたたずまいで今日見る人にも強い印象を残す。 《大英博物館 展覧会情報》 「広重—旅の画家」第35室、2025年9月7日まで(有料) 「古代インド—生き続ける伝統」第30室 2025年10月19日まで(有料) 定期公開「伝顧愷之筆・女史箴図」第91a室 2025年7月14日〜8月25日まで(無料) 『目の眼』2025年8/9月号 連載コラム「てくてく大英博物館」 Auther コラム|てくてく大英博物館 矢野明子(やのあきこ) 大英博物館アジア部三菱商事キュレイター(日本コレクション)。津田塾大卒。慶應義塾大学院で博士号取得(日本美術史)。ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(SOAS)研究員をへて、2015年10月から現職。 この著者による記事: 文化財はよきアンバサダー COLUMN矢野明子 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼 電子増刊第8号 春の骨董めぐり 日本橋・京橋・銀座 デジタル月額読み放題サービス 特集「春の骨董めぐり 日本橋・京橋・銀座」 今号では「春の骨董めぐり」と題し、日本橋・京橋・銀座エリアの骨董・古美術店や画廊を特集。江戸時代から400年以上日本の中心地として栄えるこの街には、現在もたくさんの老舗や大店が鎬を削っており、400軒以上の美術商が集まっています。そこで今回は4月下旬開催の「東京アートアンティーク」と連携し、ユニークな企画展を行う約30店を厳選して紹介しています。 桜舞う季節、街歩きとともに美しいものとの出会いをお楽しみください。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 日本橋・京橋をあるく 特別座談会 骨董街のいまむかし People & Collections | 人・コレクション 展覧会紹介 「古道具坂田」という美のジャンル People & Collections | 人・コレクション 骨董ことはじめ② めでたさでまもる 吉祥文に込められたもの History & Culture | 歴史・文化 人材育成プロジェクト|東京美術倶楽部 千年の技と美意識を世界へ、KOGEIアート・プロデューサー育成始動 Others | そのほか ビンスキを語る ビンスキは どこからきたのか 〜その美意識の起源を辿る History & Culture | 歴史・文化 展覧会紹介|神奈川県立金沢文庫 金沢八景みほとけ巡礼、鎌倉・金沢の仏像ルーツを観る展覧会 Religious Arts | 宗教美術 展覧会情報|大英博物館 ロンドン・大英博物館で初の広重展。代表作「東海道五十三次」など Calligraphy & Paintings | 書画 超! 日本刀入門Ⅰ|日本刀の種類について解説します Armors & Swords | 武具・刀剣 展覧会紹介|堺市博物館 仁徳天皇陵古墳のお膝元で、幻の副葬品が初公開中! Religious Arts | 宗教美術 大豆と暮らす#1 受け継がれる大豆と出逢い、豆腐屋を開業 Others | そのほか 連載|美の仕事・茂木健一郎 テイヨウから、ウミガメに辿りついたこと(壺中居) Ceramics | やきもの 企画展|久米島紬展(東京日本橋) 天然の素材と伝統、職人の技がつまった「久米島紬」が一挙に展示 History & Culture | 歴史・文化