オークション紀行|伝来と鑑賞

大聖雄幸

大聖寺屋代表

大名物唐物茶壺「千種」 ©Christie's Images Limited 2014

 20世紀初頭、日本の古美術は欧米から流入した鑑賞的観点から対象を評価するという考え方と、伝来を尊重し重視するという従来の考え方に二分された。それまで茶の湯に代表される日本美術は、「伝来」という形で先人の鑑識眼や故事来歴を重視してきた。しかし急速に近代化していく時代にあって、古美術の捉え方も西洋化することは避けられなかったようだ。ここから鑑賞陶磁器という分野が確立され、それまで茶道具の陰に隠れてきた肥前の色絵磁器や中国陶磁器が注目されるようになる。そして海外の市場において日本の古美術は、茶道具よりも鑑賞陶磁器など「伝来」に左右されないものが主流になっていく。

 

 茶道具が所持した人物の社会的地位により価値が左右されるようになるのは、室町時代からと考えられている。東山御物は足利義政が収集したことで、天下人が持つにふさわしいコレクションとして、その後も織田信長や豊臣秀吉らにより積極的に所持された。故宮文物がそうであるように、美術品は時として政治に利用されることがあり、茶道具もその例外ではなかった。桃山時代から茶道具は戦功の褒賞として与えられるようになるが、それらは大切に受け継がれ伝わったことで「伝来」という付加価値が付けられてきた。そして江戸から明治にかけて、茶道具は実用から宝物へと次第に変わっていくのである。宝物となった茶道具は明治時代以降、主に入札会という形で各家から散逸していった。それまで秘蔵されてきた各家に伝わる家宝が表立って売りに出たことで、入札会は大変盛況だったようだ。

 

 そうして今日まで伝わる茶道具は、それに添った由来を表すもの全てを含めて一つの美術品となるのである。そのため美術館のようなガラスケースの中に、中身だけ展示されてしまうと魅力が半減してしまう。「伝来」を切り離してはそのものが経てきた歴史と原点をなおざりにする事になるからだ。近年の展覧会では、茶道具の伝来がわかるように箱や仕服だけでなく、消息など内容物全てを陳列することも増えてきている。今年の2月から7月までアメリカのフリーア美術館で開かれた茶壺の展覧会では、茶壺が納められている大きな三重の箱まで展示されていた。またそのカタログでは茶壺とその「伝来」が徹底的に研究されおり、日本では見られない斬新な試みだった。

大正時代に行われた旧大名家売立の入札目録。左から加賀 前田家、岡山 池田家、秋田 佐竹家、仙台 伊達家、水戸 徳川家

 

 昨今、日本の古美術は国際市場で存在感が薄れつつある。明治時代における近代化により日本美術が変革を遂げてから100年経った現在、海外の視点が日本の古美術にまた新たな展開をもたらすことを期待するところである。

目の眼2014年10月号

Auther

オークション紀行 第5回

大聖雄幸

大聖寺屋代表。大阪の老舗茶道具商で修業後、東京にて東洋陶磁器を中心に取り扱っている。

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