オークション紀行|古美術の鮮度 大聖雄幸 大聖寺屋代表 写真/豆彩鶏図杯 明時代 「大明成化年製」銘(1465〜1487)中国陶磁器において最も希少であり、声価の高いものの一つ。 オークションカタログには作品の希少性や美術史における重要度に応じて、作品のタイトルに「rare」や「magnificent」などの形容詞が付けられている。「rare」とある場合は世界に8点から10点類似した作品があり、「very rare」であればそれよりさらに少ないといった様にである。「important」や「magnificent」など誇張した表現は美術史における重要度を強調するため、また予想落札価格がなぜ高額なのかという理由の説明として使われている。 美術品にも鮮度があり、それは市場における目新しさである。美術品は人の眼に何度も晒されているうちに新鮮味を失い、人の興味が薄れていく傾向にある。そのためオークションにおいて市場における新鮮さは、常に求められている要素である。 このことをアメリカの経済学者William D. Grampp はその著書の中で「美術史の観点からすれば人々の好みが変化するから古美術の価格は変動するのであり、経済学の観点からすると限界効用の逓減が当てはまるから好みが変化するのである。これまでに作品を観た回数が多ければ多いほど、現時点でもっと観たいという欲求は小さくなる。」(注)と述べている。 (注)William D. Grampp, Pricing the Priceless, (New York ,Basic Books, 1989),p156. オークションハウスやコレクター、そして美術商など市場参加者は、過去に登場したことのない、或は遠い過去に市場の循環から離れてしまった作品に興味を惹かれる。概してその興味は「rare」や「important」が作品のタイトルに付き、さらに市場において新鮮味のある作品に対して向けられるのである。 イギリスにはハウスセールという屋敷の美術品や家具の殆どすべてを売りに出すオークションがある。かつてイギリスの貴族は先祖から受け継いだ土地から得られる農業利潤で生活できた。しかし、19世紀末の農業不況や税法改正などにより、それを維持することが難しくなり、土地や屋敷、その屋敷に飾られた調度品などを売りに出さざるを得なくなった。そのような状況の中でオークション会社はハウスセールを定期的に行うようになる。ハウスセールの下見会はその屋敷で行われることもあり、その場合出品された美術品や調度品は、下見会場となる屋敷で使われていたままの状態で展示される。この状態をイギリスでは「in situ」(ラテン語で元の位置にという意味)と言う。ハウスセールの下見は「in situ」という鮮度の高い美術品に出会える貴重な機会である。美術品は城や貴族の屋敷など、永きにわたり置いてあった場所から離れてしまうと、魅力が低下してしまう。なぜなら美術品が経てきた歴史と原点がそこに介在しているからである。 美術品がオークションに放出される背景には、そこに至るまで辿った歴史が潜んでいる。そして市場に現れた時、その歴史が新鮮味を高める要素になるのである。 目の眼2014年8月号 Auther オークション紀行 第4回 大聖雄幸 大聖寺屋代表。大阪の老舗茶道具商で修業後、東京にて東洋陶磁器を中心に取り扱っている。 この著者による記事: オークション紀行|伝来と鑑賞 COLUMN大聖雄幸 オークション紀行|Provenanceの重要性 COLUMN大聖雄幸 RELATED ISSUE 関連書籍 2014年10月号 No.457 関西の二大実業家が護った東洋の宝 藤田美術館 白鶴美術館 国宝・重文の数が最も多い個人美術館といわれる藤田美術館のコレクション。今年はその開館60周年という記念の年。そこで9月から始まる秋季展を機に、藤田美術館を訪ね、藤田傳三郎氏の蒐集にまつわる逸話を交えながら名品を紹介。また、嘉納鶴翁の創立した白鶴美術館でも今年80周年。関西を代表する二人の実業家・コレクターが未来に何を残そうとしたのかを、代表的なコレクションを紹介しつつ考えます。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 世界の古いものを訪ねて#1 ジュドバル広場の蚤の市|ベルギー・ブリュッセル 山田ルーナOthers | そのほか 世界の古いものを訪ねて#7 アラビア〈バレンシア〉の絵付けにみる、北欧デザインと生活。 山田ルーナVassels | うつわ 世界の古いものを訪ねて#4 石に囲まれた風景と、人の暮らしに根ざした歴史をたどる 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化 骨董ことはじめ② めでたさでまもる 吉祥文に込められたもの History & Culture | 歴史・文化 TSUNAGU東美プロデュース 古美術商が語る 酒器との付き合い方 Vassels | うつわ 展覧会紹介|田端文士村記念館 「書画骨董は非常に好きだ」芥川龍之介の骨董 People & Collections | 人・コレクション 日本橋・京橋をあるく 特別座談会 骨董街のいまむかし People & Collections | 人・コレクション 展覧会紹介|大阪市立美術館 特別展「NEGORO 根来−赤と黒のうるし」 熱量と刺激を感じる展示 白洲信哉 Vassels | うつわ 展覧会紹介 世界有数の陶磁器専門美術館、愛知県陶磁美術館リニューアルオープン Ceramics | やきもの 藤田傳三郎、激動の時代を駆け抜けた実業家の挑戦〈後編〉 People & Collections | 人・コレクション ビンスキを語る ビンスキは どこからきたのか 〜その美意識の起源を辿る History & Culture | 歴史・文化 眼の革新 大正時代の朝鮮陶磁ブーム 李朝陶磁を愛した赤星五郎 History & Culture | 歴史・文化