毛越寺 曲水の宴 近衞忠大 クリエイティブ・ディレクター 5月26日に岩手県・毛越寺の曲水の宴が行われた。(毛越寺では古い文献に沿って曲水を「ごくすい」と読む。)平成元年を最後にコロナ禍と庭園の工事などで延期が続き、5年ぶりの開催だった。私がはじめて披講諸役として参加したのは2009年。今回で10回目となる。 遣水に酒の入った盃を乗せた羽觴(うしょう)を流し、それが流れている間に歌人たちが和歌を短冊にしたため、披講諸役がそれを読み上げて詠じる、という当時の歌会の再現だ。参宴者は大泉が池を龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の船二艘に乗って渡ったり、雅楽の演奏や若女の舞などもあり写真映えする。 参宴者は京都から装束司・黒田装束店の協力を得て、本格的な平安装束を纏う。歌人役は、男性が狩衣(かりぎぬ)、女性は袿(うちぎ)など。童子4名も可愛い装束で羽觴を流したり、短冊を集めたりする。そして歌題を読み上げる役として十二単の女性がひときわ観客の注目を集める。我々披講諸役、講師(こうじ)役と講頌(こうしょう)の2名は黒の衣冠で披講する。 披講の冒頭には「毛越寺の遣水のにりて詠める歌」と、いわば宴の開会宣言をするのが習わしだ。毛越寺の曲水の宴の最大の特徴は全国でも唯一、平安時代(12世紀)の遣水を使用していることだ。1983年に発掘された遺構を1986年に復元。同年から翌年にかけて行われた藤原秀衡公・源義経公・武蔵坊弁慶八百年御遠忌特別大祭の一環の記念行事として1986年5月にはじめて行われた。 毛越寺は言うまでもなく「平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群−」の構成資産の一つとして2012年に世界遺産に登録された。曲水の宴は登録を記念して発行された記念切手の一枚にもなっている(米粒以下の大きさだが我々もそこに写っている)。 世界遺産の庭で、当時のままに復元された遺構での宴は世界的にも非常にユニークな催しだと思う。出番が終わった後、頭の中ではこの催しをいかに外国語でリアルタイムに説明するのか、VIP席をどこに置こうかなどと思いを巡らせていた。 *近衞忠大さんの連載「雪山酔夢」は雑誌『目の眼』で連載中。過去のコラムはこちらからご覧いただけます。 月刊『目の眼』2024年7月号より Auther コラム|雪山酔夢 近衞忠大(このえただひろ) 1970年東京生まれ。公家、五摂家筆頭・近衞家の長男として生まれ、スイスで幼少期を過ごす。 武蔵野美術大学卒業後、テレビ番組、ファッションブランドの大型イベント制作などに関わる。特に海外との国際的な制作現場を数多く経験。伝統と革新、日本と海外といった違いを乗り越え 「文化とクリエイティブで世界の橋渡しとなる」ことを目指し、クリエイティブ・エージェンシーcurioswitch及びNPO法人七五(ななご)を設立、代表を務める。 この著者による記事: お盆 COLUMN近衞忠大 高野山 COLUMN近衞忠大 祖父の思い出 COLUMN近衞忠大 インターナショナルスクール COLUMN近衞忠大 スポーツとメモラビリア COLUMN近衞忠大 形見分け COLUMN近衞忠大 RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2024年10月号No.577 李朝空間 癒やしのかたち 日本とは文化的に近しく、かつ異なる美を持つ李朝のやきものや絵画、道具や家具は、古くから日本の蒐集家に愛されてきました。近年は韓流ドラマが定着して、李朝時代の歴史に興味を持つ方も多く、李朝時代の骨董は新しいファンを増やしています。今回の特集では李朝の古美術を用いた心地良い空間の愉しみをご紹介します。 雑誌/書籍を購入する 読み放題を始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 リレー連載「美の仕事」|土井善晴 土井善晴さんが向き合う、桃山時代の茶道具 土井善晴Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂 KYOTO店主) 辻村史朗さんに”酒場”で学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 眼の革新 時代を生きたコレクターたち 青柳恵介People & Collections | 人・コレクション 骨董ことはじめ⑧ 昭和100年のいまこそ! 大正〜昭和の工芸に注目 Others | そのほか 展覧会紹介 「古道具坂田」という美のジャンル People & Collections | 人・コレクション 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂KYOTO) 辻村史朗さんに “酒場”で 学ぶ 名碗の勘どころ「志野茶碗」(後編) Ceramics | やきもの 稀代の美術商 戸田鍾之助を偲ぶ People & Collections | 人・コレクション 連載|美の仕事・茂木健一郎 テイヨウから、ウミガメに辿りついたこと(壺中居) Ceramics | やきもの 根付 怪力乱神を語る 掌の〝吉祥〟を読み解く根付にこめられた想い Ornaments | 装飾・調度品 Book Review 会津に生きた陶芸家の作品世界 Others | そのほか 企画展紹介|銀座 蔦屋書店 日本刀・根付売場 春画と根付の世界をたのしむ Ornaments | 装飾・調度品 世界の古いものを訪ねて#5 二千年の湯けむりと、五千年の石の輪を旅して 山田ルーナHistory & Culture | 歴史・文化